自画撮り防止機能と「居場所」の問題
次に、トーンモバイルが提供する「TONEカメラ」による「不適切写真・動画の検知件数」のデータが紹介された。これは主に、子どもが自分の裸などを撮って人に送ったりSNSに投稿してしまう「自画撮り」を対象としたもので、TONEカメラはこうした写真・動画の撮影をAIが検知してアラートを表示する機能を搭載したカメラアプリだ。
TONEカメラは2月の提供開始以降ユーザー数を伸ばしており、それに従って不適切写真の検知件数も増加しているが、ここで注目したのはユーザー数の増加以上に不適切動画の検知件数の伸び率が大きかった点だ。
写真よりも動画が多い理由については、TikTokやInstagramの「ストーリーズ」のように、短い動画を手軽に共有することが日常的な行動になっている状況が挙げられた。不適切な動画が多いというより、そもそも動画を使う機会が増えている、というわけだ。
また、人に求められて自画撮りをしてしまう理由について、松田さんは「彼氏や好きな人に送ってと言われたら、嫌われたくないからと応じてしまう女の子は多い」と説明。さらに、SNSで反応を得ることで、「人が喜んでくれる」と自分自身の承認をSNSに求めてしまう子もいると言う。
自画撮り以前の論点となるが、竹内さんや松田さんが小中学生のスマホ利用を調査する中で、学校や家庭に『居場所』がないと感じている子が、SNSに居場所を求めていることがあるという。それを奪うのはその子にとって良いこととは言えない。危険性があるからと子どものSNS使用を全て禁止すればいいかというと、そう単純な話ではないようだ。
テクノロジーが「ルール」を助ける時代に
最後にピックアップされのは、「フィルタリングの有無によるブラウザの利用時間」のデータ。通常のChromeと、同社が提供するフィルタリング機能付きブラウザ「あんしんインターネット」を比べると、利用時間の増加に差があることがわかった。
併せて、工藤さんは「子どもがオンライン化に先行し、保護者の方がどう指導していいかわからない=子ども先行家庭」が、外出自粛の状況によって増えているのではないかと仮設を立て、そこにAIなどのテクノロジーを活用することで保護者をサポートする時代になるのではないかと提言した。
松田さんによると、スマホサミットなどで、フィルタリングや時間制限などの機能について子どもたちに聞くと、「ダメだとわかっていても自分でやめられないから、機能で制限してくれたほうがいい」という声が上がるという。意外なようだが、そこには子どもたちなりの理由がある。
松田さん「ネットについて詳しくない親から一方的に使うなと言われても、納得して従うことはできない、ならば機能のほうがいい、という考え。友達付き合いなど子どもの事情もあるので、一緒に考える中で機能を活用ていくのが良いのでは」
竹内さん「子どもは子どもなりに言い分があるので、それを尊重しながら、ダメなことには線引きをする。私が子どもの頃、うちの親は大概のことには緩かったが、寝る時間にだけは非常に厳しく、必ず8時だった。ただ土曜だけはテレビを見るために9時にしてほしいと交渉したら、毎日風呂洗をするならいいと認めてくれた。駆け引きをして勝ち取るステップがあることは大事」
また、通常のブラウザとフィルタリング機能付きブラウザの利用時間の差について、竹内さんは「フィルタリング機能付きを使うという話し合いができているから、(時間についても)ルールが守られているのでは」と指摘。こうした意見から、「保護者と子どもで話し合って、ルールを決める」「子どもの事情を聞き、交渉しならが緩めていく」ことがポイントになると言える。
ネット問題は『文化づくり』、保護者がファシリテーターに
最後に、ここまでのディスカッションを踏まえ、子どものスマホ利用とテクノロジーについての意見が交わされた。
工藤さん「私達は、テクノロジー企業としてテクノロジーを使ってほしいと考えているが、それは利用を制限するためではなく、保護者と子どもの約束のきっかけになるもの。また、決めたルールが守られ続けることを助けてくれるもの。テクノロジーが保護者を支えて行けたらいい」
松田さん「私自身もテクノロジーがないと(自制は)難しいと思う。ただテクノロジーに任せればいいということではなく、子どもの意見を聞いた上で、なぜこの機能を使うか、子どもありきで考えることが大事。子どもが困っていることへの対策として機能を使おうという考え」
竹内さん「世の中で起こっていることを、大人が知らなくてはいけない。その上で、社会全体の取り組みとそれぞれの家庭の取り組みによる『人の対策』、テクノロジーを使った『機械の対策』の両方が必要。ただ言うことを聞かせるのでは子どもの身につかない。子ども自身が気付くよう、保護者がファシリテーター役になると伸びる。ネット問題は『文化づくり』でもある」
今回、オンラインセミナーを聴講した利用者から設定などについて多くの質問が寄せられたことを踏まえ、同社では今後も設定や使い方ガイドを中心としたオンラインセミナーを開催する考え。