実験を繰り返して、遠景18kmから見ても美しいライティングに
勘のよい人なら写真を見ただけで、ライトが内側(タワー側)に向いていることに気付くかもしれません。東京スカイツリーの照明は「輝度光」と「間接光」と呼ばれる2種類の光を使い分けています。
輝度光とは普通の照明のように、外側に向けて照らす光のこと。明るくて、遠くからの視認性が高くなります。一方の間接光とは、タワーを照らす光。さまざまな色の光をタワーの鉄骨などに当てて反射させ、タワーがさまざまな色に輝いているように見えるのが特徴です。
そして、これらの明かりを「遠くからも美しく見えるけれど、近くで見てもまぶしく感じない」ようにするため、新ライティングでは「ダイナシューター」と「ダイナペインター」と呼ばれる2種類の新ライトを増設しています。
497m地点でメインに配置されているダイナペインターの特徴は、とにかく明るいこと。一般的なLED照明は、R(赤)・G(緑)・B(青)のLED素子を組み合わせて、さまざまな色を作り出します。一方、ダイナペインターはRGBに加えてW(白)のLED素子も配置。白のLED素子は明るく光らせやすく、RGBの光束がそれぞれ約9,400ルーメンなのに対し、Wは約14,000ルーメンあります。
さらに、色ごとに専用レンズをかぶせることで、なんと明るさは従来器具と比較して約10倍にもなっているそうです。しかも、ダイナペインターは光の照射範囲を挟角(10°)から超広角(120°)まで設定可能。間接光として、ツリーの広い面から狭い面をピンスポットで照らせるのです。
ダイナシューターも、RGBWのLED素子を用いたライトです。最大の特徴は、複数のレンズを通過することで光が扇状に広がらない「超狭角(7°)」を実現していることにあります。
ダイナペインターとダイナシューター、2種類のライトを使い分ける理由はさまざまですが、そのひとつは遠くからの視認性を高めるため。今回のリニューアルで目的のひとつとなっているのが、「オリンピックで訪日した人に向けて、羽田空港から東京スカイツリーがキレイに見えるようにしたい」というものです。東京スカイツリーから羽田空港までの距離、約18km先からでも美しく見えるように、東京スカイツリーの照明は調整されています。
とはいえ、東京スカイツリーにライトを実際に設置して実験するわけにもいきません。「キレイに見えるか」の実験は、東京スカイツリー横にあるイーストタワーにライトを設置し、約19km先にある越谷レイクタウン(埼玉県)から確認したそうです。この実験を繰り返すことで、ライトの出力と台数が決定されました。
こうした実験の結果、一般的なRGBでは明るさが足りないことがわかり、今回の新しいライトにRGBW素子を採用。ただし明るければいいわけでもなく、明るすぎると、東京スカイツリーの近くにいる人にとって「光害」になりかねません。「18km先からもはっきり美しく見えるけれど、近距離では明るすぎない」ように、超挟角の光を照射できるダイナシューターが採用されたそうです。
これだけ多彩な光の演出は世界的にも珍しい?
新しいライトは、色の表現領域が従来より広いのも特徴です。新ライトでは、従来の照明よりも深いディープブルーといった色を表現できます。しかし、色域が異なる新旧のライトが混在している現在、光の設定で「青」と入力しても、新旧のライトが同じ色にならないという問題が発生。
そこで新ライティングでは、新しくピクセルマッピングという方法がとられました。一般的なライトアップは、ライトごとに「どの色をどのタイミング、どの強さで光らせる」かを設定します。
ピクセルマッピングの場合、最初に「こういった動きのライティングにしたい」というCG動画を作成。CG動画をもとにRGB値を抽出し、自動的にRGBW(新ライト)とRGBB(旧ライト)の数値を計算して、各ライトの明るさや動き、色を決定します。これにより、新旧ライトの色差をなくしただけでなく、より動きのある演出を実現できるようになりました。
従来のライティングも、一部の色が動いたり、ツリーの一部がキラキラ点滅したりといった演出はあったのですが、リニューアル後はツリー全体が一体となった動きのある演出が見どころ。パナソニックによると、これだけ多種多様な照明の種類と演出でライトアップされている建造物は、世界的にも少ないそうです。現在は新型コロナウイルスの影響で夜の外出がしにくい状況ですが、いつか東京スカイツリーの近くに行くことがあったら、ライトアップと演出に注目して眺めてみてください。