先の2作品のリアル志向と打って変わり、医療ドラマに“変身ヒーローモノ”を掛け合わせた異色作としておすすめしたいのが、平岡祐太主演『ゴッドハンド輝』(09年、TBS)。普段はドジな一面も見せる新人外科医の輝が「命を救いたい」と強く願うと「ゴッドハンド」に覚せいし、どんな難手術でも必ず成功させてしまうというスーパードクターの物語だ。
大げさなタイトル、原作漫画をそのまま映像化したような外連味たっぷりの映像、初回冒頭から飛行機墜落事故というスペクタクル、覚せいするとイメージ映像になり、半裸で大きな手形が残る主人公が現れるなど、一見ツッコミどころ満載のぶっ飛んだ作品のようにも思えるが、医師としての成長や劇中で「ヴァルハラ」と呼ばれるチームの結束を丁寧に描いており、見た目以上に深みのある作品に仕上がっている。
覚せいすれば「ゴッドハンド」になる主人公のため、その最強の設定が大いに活きる勧善懲悪の展開にしてもいいはず。しかし、普段はまだまだ未熟の新人医師で「ゴッドハンド」は偶然に過ぎず、常に高いスキルを発揮できてこそ最高の医者だという現実的な葛藤もさりげなく描いている点が良心的。
また、“変身するスーパードクター”という強烈なキャラクターに負けない存在感を放って大活躍する、渡部篤郎演じる医院長にも注目。風貌はチンピラのようなのだが、実は理想の医療を目指す熱血漢で、回を追うごとにその理想が結実していく様子や、上司としてもカッコいい啖呵(たんか)を切る姿は見ていて気持ちがいい。
全6話という短い話数で、最終回の最後の最後まで“余談”のような場面がほぼなく、全編にわたって超スピーディーに展開し、一気に見られる作品。Paraviなどでも配信中だが、“変身”や“仲間”、“結束”といった分かりやすい展開を含むドラマなので、子供と一緒に楽しめる作品として、夕方の再放送にもうってつけだ。
■フリークに見てほしい…『コンフィデンスマンJP「スーパードクター編」』
医療ドラマではなく、しかもそのドラマの“とある1話”で、先日一部を再放送した作品でもあるが、医療ドラマを数々見て来た方に、ぜひ見てもらいたいのが、長澤まさみ主演『コンフィデンスマンJP』(18年、フジテレビ)の第5話「スーパードクター編」だ。
ご存知の通り、悪党をだます信用詐欺師=コンフィデンスマンがさまざまな業界の人物にふんし、大金をだまし取るというこの作品だが、医療ドラマフリークにとって「スーパードクター編」はより見応えがあり、そして笑える一編に仕上がっている。
「私、失敗しないので」という名ゼリフや、劇伴まで引用した『ドクターX』のパロディがその一例だが、終盤に登場する“リアルな手術シーン”も大きな見どころ。『救命病棟24時』や『Dr.コトー診療所』など、数々の医療ドラマを手掛けたフジテレビが、『白い巨塔』(03~04年)にも登場した、かたせ梨乃をゲストに据え、“臓器を直接見せる”ことの先駆けだった作品『医龍』でのノウハウを用い、この手術シーンのために全力でパロディに挑む遊び心が最高に面白い。
全体的に医療ドラマフリークの人こそ、細部に散りばめられた遊び心を多く回収できる仕掛けになっているので、より楽しめるはずだ。
最後には「本当の治療とは何なのか?」という投げかけも。このドラマのどのエピソードにも共通する、笑って解決したその後に、ちょっぴり考えさせられる余地を残す締めが、すがすがしい。
前回の再放送では2つのエピソードしか放送されなかったが、この第5話も他に負けない面白さが詰まっている。医療作品が続いている今こそ、再放送で楽しみたい。配信ではFODで視聴可能となっている。