リコージャパンでは、オフィス用PCをノートパソコンにすることで、在宅勤務時のPCの持ち帰りを可能にしている。また、営業職やカスタマーエンジニアといった外出の多い担当者には、全国に広く展開している同社の事業所をサテライトオフィスとして利用できるようにしたほか、社用のスマートフォンやポケットWi-Fiも貸与し、屋外での業務もサポート。全社で利用するツールとしてOffice 365を2017年に導入し、制度面だけでなく、テレワークが可能な環境も整備してきた。
しかし、テレワークの利用には地域差もあったという。
「北海道から沖縄までの全都道府県に支社があり、354拠点を展開していますが、地域によって生活様式や働き方、風土文化の違いなどそれぞれの特性があり、在宅勤務が進んでいる地域と旧態依然とした地域とのギャップが生まれていました」(松木氏)
上司の許可を得てから 人事に申請する制度であったため、上司の捉え方によっては使いづらい部門が出てしまったこともあり、マネジメント層への啓発なども行ってきた。また、テレワーク・デイズにも参加し、テレワーク体験の機会を用意してきたという。
「いろいろなやり方で促進してきましたが、その中にオリンピック対策がありました。通勤が難しい状態でいかにSLAを維持しながら営業活動を続けるのか考えた時、やはり在宅勤務をもっと推進しないとダメだとなったのです。社内で勧めるだけではなかなか進みづらいですが、社会的な要請があったことで大きく進んだと感じています」と松木氏は振り返る。
コロナ対応で営業もリモート 全社的な在宅勤務実施で出社率は15%まで減
近年の自然災害等も含め、使わざるを得ない状況が少しずつテレワークの定着を浸透させる中、今回の新型コロナウイルスの対応に迫られた。リコージャパンでは緊急事態宣言が出された以降、出社率20%以下を目指して在宅勤務促進が行われた。
従来の基本的に月に3回までという制限を一時的に解除したほか、対象者として除外していた入社4年未満の若手や契約社員等の正社員以外も利用可能にした。時間年休制度とシフト勤務の導入、育児・介護や家事をしながらの断続的勤務の容認なども行われた。
「今回の新型コロナウイルス対応では、これまで在宅勤務をしたことがない人もテレワークの対象になったため、実施概要はかなり細かく作り込みました。約18000人の社員が全国で一斉に実施するとなった時には、詳細なガイドをきちんと作っておかないと、路頭に迷ってしまう社員が多く出て、問い合わせ対応の工数も増えてしまいます。緊急時に迅速に対応するためには、ガイドをきちんと整備して早急に周知することを徹底しています」(松木氏)
テレワーク勤務は上司と本人の合意のもとに行うというコロナ対応中も崩していないが、基本的にオフィスワーカーは在宅勤務ということになっている。顧客対応の必要なカスタマーエンジニアの約半数が出社したが、営業活動も基本的にはオンラインで実施したという。
「販売活動については積極的な対面による商談はやめようということで、基本はリモートでの対応を行っていました。もちろん、故障対応や機器の設置は実際に行かなければできませんが、緊急事態宣言下においては医療機関など、必要性の高いお客様を優先しようということで、カスタマーエンジニアの半数ほどが出社対応しました」と語るのは、リコージャパン 経営企画本部 コーポレートセンター 総務部 統括グループの加藤茂氏だ。
取材時の5月13日現在、在宅勤務者は1日平均で6000名を超えるという。これは緊急事態宣言前の1000名以下からの大幅な増加だ。
「直行直帰を含めてオフィスへの出社は減っており、20%を目標にしていましたが、東京支社では15%程度の出社率になっています」と加藤氏は取り組みの成果を語った。
これほど大規模に在宅勤務を行うにあたっては、いくつかの課題もあった。先に挙げた社内規制の緩和や制度変更に加えて、自宅に業務に必要な十分なネットワーク回線がない従業員もおり、その場合には追加でポケットWi-Fiを支給するなどの対応も行っている。
「配布していたポケットWi-Fiはは外出時のメールチェック程度を想定した契約だったので、必要な人には通信容量を大幅に増強しました。今回対応した各種課題は以前から認識していたものなので、必要になった時には迅速に対応できたというのが我々の強みだったと思います」と加藤氏は語る。