煙検知のための技術 - 個々のケースに応じた解決策が必要に

ここまで、5つの国際規格が、煙を検知するための技術や、各種の定義、煙検知器の試験とどのように関連するのか簡単に説明してきました。本稿では、各規格の詳しい比較/分析を実施することを目的とはしていません。そうではなく、各規格に準拠するためにはいかに複雑な対応が必要なのかを明らかにすべく、いくつかの例を示しました。国/地域ごとに、異なる方法(と設定)による一連の試験が非常に細かく規定されていることをご理解いただけたでしょう。

現時点で最も厳しい規格はUL 217とUL 268です。そのため、これらを満たせば、高い確率で他の規格にも準拠できるはずです。ただし、他の地域の試験をUL規格の試験で代用することはできません。各国/地域の規格に準拠するには、それぞれに定められた要件や方法に則って、非常に厳格に試験を実施する必要があります。個々の国では、今後、より厳しい規格が定められていくはずです。

各種の規格への準拠を目指す上では、ULリステッドのコンポーネントやサブシステムを利用するとよいでしょう。それにより、規格に準拠するための課題が緩和されます。また、ULレコグニションのコンポーネントや材料であれば、ULが評価済みであることが保証されています。そうしたコンポーネントは、ULの認証を得る可能性のある最終製品のみを対象としています。そのため、それらを最終製品や最終システムで採用すれば、認証へ向けた負荷が軽減されます。本稿執筆時点で、アナログ・デバイセズは煙検出用の光モジュール「ADPD188BI」をULリスティングに申請中です。

ADPD188BIは、LED、フォトダイオード、アナログ・フロント・エンドを3.8mm×5.0mm×0.9mmの小型パッケージに収容した製品です(図3)。この製品がもたらすメリットとしては、以下の事柄が挙げられます。

  • コンポーネントの数を削減できます。
  • S/N比が高くダイナミック・レンジが広いため、より小さい信号を測定できます。そのため、人命にかかわる既存/新規の規制に対応可能です。
  • 2色の光を使用する検出方法と高いダイナミック・レンジにより、誤作動を減らすことができ、検証済みの警報機能が得られることが保証されます(誤作動の煩わしさが原因となって警報機能がオフにされる状況を回避できます)。
  • 消費電力が少ないので、より多くのデバイスを有線/無線ループに接続することが可能です。
  • サイズが小さいので、設置が困難な場所にも配備できます。
  • LEDのサプライ・チェーン管理が不要になります。
  • 標準的な表面実装プロセスで組み立てを実施できます。
  • ADPD188BI

    図3. 煙検知用の光モジュール「ADPD188BI」

今後を見据える

各種の規格が更新され、より小型で精度の高い煙検知システムが求められるようになっています。また、お客様からは、設置が難しい場所も含めて、より広範に煙検知器を配備できるようにしてほしいという要望が寄せられています。そうしたニーズに応えるには、コンポーネントの小型化と低消費電力化を図る必要があります。波長の異なる2つの信号を検出するシステムであれば、新たな規格の要件である誤作動の低減に対応できます。S/N比が高くダイナミック・レンジが広いシステムも、煙の種類の識別能力を向上させることに貢献します。光学技術はダイナミック・レンジの向上に有効です。それだけでなく、信頼性を高め、フォーム・ファクタを縮小し、消費電力を削減することができます。

煙や蒸気による警報機能の誤作動を抑えることができれば、煙検知器を厨房や浴室などに高い密度で設置できるようになります。より多くのデバイスをビルに設置することで、より大規模なネットワーク・システムを構成できます。また、消費電力を削減すれば、バッテリによる駆動(や稼働時間の延長)が可能になります。あるいは、より多くのデバイスを主電源ループに接続できるようになります。一方、システム・レベルで見ると、迅速に警報を発するためには、無線ネットワークの遅延を抑えなければなりません。人命にかかわるという側面から、煙の検知用の物理的なシステムとしては、今後もスタンドアロン型の装置が使用され続けるかもしれません。しかし、将来的には、避難や緊急照明に対応するビル制御システムに煙検知の機能を組み込むことが求められる可能性もあります。そうなると、より小さなフォーム・ファクタの製品がより一層重要になります。

著者プロフィール

Grainne Murphy(
Analog Devices
産業/IoT分野向けソリューション・グループのマーケティング・マネージャ

25年以上にわたるエンジニアリング経験に基づき、インテリジェント・ビルに関連する主要な製品群と将来の方向性に関する顧客のニーズ、エンゲージメント、マーケティング/コミュニケーション戦略を管理している。
リムリック大学で工学分野の学士号を取得。オックスフォード・ブルックス大学で経営学の修士号を取得している。