続いて初心者向け講座「みおふぉん教室」として「格安スマホの音声通話をおさらいしよう」と題し、引き続き堂前氏から、MVNOと音声通話の関係についての解説が行われた。
MVNOの料金コースは、ほとんどのMVNOにおいて、音声通話付きのコースと、データ通信専用のコースに別れている。また、これにSMSのオプションが加わることもある。オプションになっているかどうかなどの差はあれど、基本的にはこのパターンばかりだ。MNOでは、データ通信専用端末でもない限り、基本的に通信機能での区分はしていない。どうしてこのような区分けになっているのだろうか。
具体的には資料のスライドを見ていただければわかるのだが、かなり込み入っている。そこで筆者の方で順番などを入れ替えつつ、ざっくりと要旨だけまとめてみた。細かいところが気になる方は、今回「てくろぐ」(https://techlog.iij.ad.jp/)にてスライド資料および、当日の配信データが公開されているので、そちらをご覧いただきたい(約26分)。
最初に、音声通話とデータに分かれている訳は、「携帯電話網の構造」と、「ドコモがMVNOに卸している契約形態」が原因となる。携帯電話網では、音声通話とデータ通信機能は別々の機能として扱われ、音声は回線交換機を通じて電話網へ、データはパケット交換機を通じてインターネットへと接続している。4GにおいてVoLTEが導入され、音声もデータとして扱われるようになったが、電話網へ接続するため、パケット交換機とは違う交換機を使用している(SMSは回線交換網を利用する)。
そして、ドコモがMVNOに卸している4Gサービスでは、色々とサービスを制御したいMVNO向けに、MVNO側の設備とドコモの設備を相互接続する「第2種卸Xiサービス」(データ専用)と、ライトMVNO向けにドコモ側の設備だけを使わせてもらう「第3種卸Xiサービス」(音声/SMS)に分かれている(ちなみにKDDIはデータ専用サービスを卸していない)。歴史的に見れば、最初はデータ通信しか卸していなかったものが、音声通話も利用できるようにドコモ側がプランを拡張した、ということになる。
続いて、eSIMサービスで音声が利用できない件についてだ。まず、そもそも論として、通話用の電話番号(ナンバーポータビリティに対応する番号)は、基地局を持っている事業者(=キャリア)でなくては割り当てを受けることができないので、法律上、MVNOが電話番号を割り当てられるようにはなっていない。法律の改正が必要だ。
次に設備の問題だ。IIJmioのeSIMではフルMVNOサービスを提供しているが、これを実現するために、IIJとドコモは長年の折衝の末、第2種卸よりも、さらにMVNO側がさまざまな設備を受け持つ特別な契約を結んだ。ところが現在、ドコモ側にフルMVNO用に音声通話を卸売するプラン存在せず、これがある種の足かせになって、eSIMサービスに音声通話をつけることができない。
ならばMVNOが回線交換設備を持てばいいではないか、と思うだろうが、回線交換網はインターネットと異なり、電話事業者がほかの事業者と接続するには、個々に直接相互接続する必要がある。国内の固定電話業者だけでも22社、IP電話で20社、携帯電話で5社もあるため、かなり大変だ。さらに緊急通報「110」「119」「118」のために、全国600箇所以上と相互接続する必要もある。
ちなみに、「みおふぉんダイアル」のように、電話番号にプレフィクス(前付け番号)を付けて割引を受けるサービスは、プレフィクスにより、使用する回線交換機を指定できる。ここでドコモ以外の中継電話会社(みおふぉんダイアルの場合は楽天コミュニケーションズ)を指定することにより、ドコモより安い価格での通話が可能になる。いわば音声通話専用のMVNOのようなものだ。
つまりフルMVNOで音声通話を実現するには、「法律の改正」「MVNO側が音声設備を持つ」「各所との相互接続を行う」と、3つのハードルを越えねばならない。かなり大変だが、IIJとしては将来の実現に向けて努力を続けていくとのこと。eSIMだけでスマートフォンが使えるようになれば、SIMフリー端末が文字通り「買ってすぐ使える」ようになる。SIMという物理的な存在に縛られないスマホライフの実現に向けて頑張って欲しい次第だ。