新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で、SNS上では、自宅でいかに楽しく過ごすかの「#おうち時間」や、新ドラマの放送延期を受けて様々な過去作が再放送されることで「#再放送希望」というハッシュタグが流行中だ。

そこで、テレビドラマの脚本家や監督などの制作スタッフに精通する「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、外出することを忘れるほど熱中してしまうおすすめのテレビドラマや、再放送してほしい思い出深い作品を紹介する。

今回は、“医療ドラマ”。12年にスタートした米倉涼子主演『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)の大ヒット以降、医療ドラマブームが長く続いているが、直近では『JIN―仁―』(TBS)が再放送され、感染症と戦うストーリー展開はもちろん、その病に必死に立ち向かっていく登場人物たちがコロナと戦う医療従事者の姿と重なり、多くの共感を呼んだ。

現実と重なってしまい抵抗がある人もいるかもしれないが、今だからこそ医療ドラマのキャラクターにより共感し、思いを馳せることもできる。とはいえテレビドラマはエンタテインメント。家で夢中になって見ることができる様々な医師が活躍する医療ドラマを選んだ。

■本格志向のきっかけ…『救命病棟24時』

江口洋介(左)と松嶋菜々子

日本の“医療ドラマ”の先駆け的存在といえば、99年にスタートした江口洋介主演『救命病棟24時シリーズ』(第5期は松嶋菜々子主演、フジテレビ)だろう。主人公で天才外科医の進藤先生(江口)を中心に、“救命救急センター”で働く医師たちが命の現場で闘う姿を描いた物語だ。

このシリーズが日本の医療ドラマの先駆け的存在と言えるのは、本物さながらにリアルなセットを組んで撮影し、今作を境に画的にも本格志向な“医療ドラマ”が増加していったから。

また、第1期・第2期で脚本を務めた橋部敦子氏はその後、草なぎ剛主演『僕の生きる道』(03年)などの“僕シリーズ”を生み、第3期で全ての回を担当した福田靖氏は『HERO』や『海猿』『ガリレオ』などの大ヒットメーカーに成長。第2期の1話のみを担当した林宏司氏は『コード・ブルー』や『医龍』など、大ヒット医療ドラマの数々を手がけるなど、名脚本家たちを多く輩出することとなる“トキワ荘”的存在の作品でもある。

そしてこのシリーズのすごさは、各シリーズが同じ作品とは思えないほど、作風が進化していく点にある。第1期では、松嶋演じる小島先生が研修医として奮闘し成長していく姿を、進藤先生のこん睡状態になっている妻とのサイドストーリーと共に描き、第2期では主人公以外の登場人物たちをさらに個性的に描いたより群像劇のスタイルに。

第3期は、“『救命病棟24時』の世界で大地震が起きたら?”という大胆な設定を用いたスペクタクル作に。第4期では進藤先生の“天才性”を逆手にとり、それによるチーム間での不和や孤立を描き、第5期では第1期で研修医だった小島先生が医局長となって進藤先生から学んだ理想の救命センターを追求していく姿を描くなど、それぞれテーマやカラー、制作陣や主演も変わり、シリーズごとに味わいが異なる作品に仕上がっている。

これだけ話数があり、医療ドラマの先駆け的存在だからこそ、今一度一挙再放送してほしいドラマだ。特に第3期は“大地震”がテーマとなっており、今だからこそ重なる部分が多く、さらに現実味を持ってドラマを見ることができる。FODでは、第1シリーズ以外、全てのシリーズが配信中となっている。

■「院内感染」「PCR検査」が登場…『GM~踊れドクター』

多部未華子

先ほど挙げた“医療ドラマの名手”林宏司氏が脚本を手がけた作品の中で、特におすすめしたいのが、東山紀之主演『GM~踊れドクター』(10年、TBS)。多角的な診療を行う「総合診療科(ソウシン)」を舞台に、天才的な総合診療医でありながらアイドルを自称するという“変人ドクター”が活躍する医療コメディだ。

東山の個性が爆発しており、潔癖症で患者には触れられなかったり、深い思考に入るとムーンウォークを踊ったり、実在の「東山紀之」が憧れのアイドルとして登場したり、毎回のラストで様々な楽曲による華麗なダンスを披露したり…と、魅力的なキャラクターを熱演している。

それに加え“ソウシン”メンバーには、多部未華子、椎名桔平、生瀬勝久、小池栄子、吉沢悠、大倉忠義が名を連ね、主演に負けない超個性的キャラクターを見事に演じている。それぞれのキャラ設定やあだ名がどんどん転じていく掛け合いが毎回コミカルで楽しいが、落ちぶれた医師たちが集まり、再び立ち上がり、一流の医師へと成長、結束していく様子は、医療版『王様のレストラン』のようで痛快なサクセスストーリーとしても楽しめる。

肝心の“医療”の部分もさすがの林宏司脚本という出来。これまでの医療ドラマの経験に裏打ちされた特殊な病名や症例が次々と飛び出し、そこで挙がった仮説の中から、病気を“治療”ではなく“解明”へと導いていく推理モノのテイストで見せる作品に仕上がっている。

最終回のエピソードが「院内感染」と、かなりタイムリーで今と重なる部分が多く、再放送は難しいのかもしれないが、「PCR検査」といったワードも登場するなど、いかにリアルに即して作られたドラマなのか分かる。

また、症状の小さな一端からどのようにして真の病名を導き出していくのか?…その途方もない苦労と医師たちのプロフェッショナルな姿を今こそ強く再確認することもできる。配信はされておらず、今こそどこかで日の目を見てほしい作品だ。