緊急事態宣言が解除されつつあるが、首都圏ではもう少しオフィスへの出社を控え、テレワークが継続されるだろう。
今後も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と私たちとの戦いは続く。これは長期戦だ。それに伴い、私たちの働き方が変わるのも自然なことだといえる。
ウィズコロナ、アフターコロナの社会で、テレワークは「当たり前」になると言っても過言ではない。私たちはテレワークに慣れる必要があり、出社すること=「普通の働き方」と認識してはいられなくなる。
だから今、テレワークの先駆者から知見を授かりたい。今回はCMSプラットフォームのMovable Typeをはじめとする製品・サービスを提供する、シックス・アパートの事例をご紹介する。
シックス・アパートでは2016年夏より、大半の社員が各人の必要なタイミングで月1~3回出社する、テレワークを中心とした働き方(SAWS=Six Apart Working Style、サウス)を実践してきた。
普段は各自の都合のいい場所で働くことで、通勤時間の大幅な削減、住む場所の自由度アップ、社員の満足度向上が叶ったという同社の働き方は、令和元年度の「テレワーク先駆者百選」において、総務大臣賞を受賞したほど。
一体どんな働き方なのか。SAWSが生まれるまでの経緯から振り返ってみたい。なお、取材はWeb会議によって行った。
それは出社しないとできない業務? 棚卸しで検証
2001年に米国で創業したシックス・アパートの日本法人ができたのは2003年。転機は8年後、東日本大震災が起きた年だった。
「震災の影響で電力需要がひっ迫していた2011年夏、政府は企業に対し消費電力15%削減を要請しました。それを機に、弊社でも夏期限定で週1日を在宅勤務にしようと、毎週水曜を自宅作業日としたのです。出社を週5→週4にしたことで、消費電力を20%削減することができました」
こう語るのは、同社代表取締役の古賀早(こが はじめ)氏。全員が週1在宅勤務をする日も、オフィスにいるときと同じように業務を遂行できるよう、システム整備を含めたさまざまな準備をしたという。
「夏季限定・週1在宅勤務」が大きく転換したのは2016年、EBO(社員による企業買収、経営権取得)によって独立を果たしたときだった。
百数十坪あった赤坂のオフィスから、神保町のコンパクトなオフィスに移転。約50席あった座席は10席に。社員は30人程度なので、全員が同時に出社することはできない。
移転と並行して行ったのは就業規則の改定だった。「出社不要」「出社→業務開始、退社→業務終了」とし、請求書や領収書、給与明細を扱う経理業務やその他あらゆる業務のデジタル化で、ペーパーレス化を推し進めた。「出社しないとできない」業務を一つひとつ潰していったのだ。
さらに、業務可視化ツールとしてGitHubやRedmine、人事・総務用ツールとしてSmartHRやマネーフォワード クラウド経費、コミュニケーションツールとしてSlackやZoomなど、さまざまなソフトウェアを導入し、テレワークを実現する仕組みを整えた。従業員が利用するPCについても年に一度、ITチームによるシステム点検を行っている。
テレワークにかかる費用に充ててもらおうと、社員に「SAWS手当」として1.5万円/月を支給し始めたのもこのときからだ。モニターやデスク、自宅の通信費など用途は自由だという。
社員の業務を可視化すれば、監視なんて必要ない
テレワークと好相性と考えられるIT・システム関連企業のシックス・アパートでは、テレワーク導入/活用における「壁」はなかったのではと予想していたが、一部社員の士気が下がりかける出来事が過去にあったという。
「はじめのうちは、出退勤を1日1回だけ打刻できる勤怠管理システムを使っていました。これだと、例えば細切れに働いたり、数時間の休憩を挟んでその前後にまとめて働いたりした場合でも、“実態”とは別の記録をしないといけない。
場所や時間にとらわれない柔軟な働き方をしているはずなのに、自分の実働を正確に打刻できないことに、ストレスを抱えていた社員がいました。特に几帳面なタイプの社員は、そのことで意欲が下がっていたといいます。
その後、出退勤を1日に何度でも打刻できて、自分が働いた時間の通りに入力できるシステムに変更しました」(古賀氏)
出社がなくなり、会社でPCに向かう姿ではなく、業務のアウトプットが評価対象になったことで、逆にプレッシャーが高まったと話す社員もいたという。これに対し、広報の壽かおり(ことぶき かおり)氏は次のように語る。
「業務のアウトプットでコミットするのは、自然なことではないかと思います。忠誠心ではなく、どんな活動を行い成果を出したかで評価される世界は、とてもフェアだと感じます」
メンバーが今どんな仕事をしているのか、進捗具合は目標に対してどうなのか。全員の業務はすべて、前出のツールで一目瞭然となっている。
エンジニアはGitHub、マーケティング系職種はRedmine、総務や経理などのバックオフィス系職種はSmartHRという具合だ。
「テレワーク未導入の会社から、テレワークだと社員がサボらないか不安、逆に働きすぎないか心配、といった声を聞くことがあります。しかし、私たちは社員のことを信頼した上で、ツールを活用して業務を可視化しています。だから監視する必要もありません。業務の可視化はテレワークに限らず、必要なことだと考えます」(古賀氏)
会社にいるときとは違いテレワークでは、社員が何をしているかわからないから、「見張らなければいけない」と思い込んでしまう。しかし、各社員が何に取り組んでいるか視覚化すれば、見張るために使う時間も、見張るための人員も不要になり、社員が自然と自律化するのだ。