往年のホームドラマの名作と言えば『岸辺のアルバム』(77年)や『沿線地図』(79年、いずれもTBS)、『早春スケッチブック』(83年、フジテレビ)など、山田太一脚本の作品を思い浮かべるが、ある男女の恋物語と並行して、その2人の家族も深く描いた、ある意味ホームドラマの要素もある、仲間由紀恵&加瀬亮主演『ありふれた奇跡』(09年、フジ)も紹介したい。
同じ“心の傷”を持った男女が、運命的にある男性を助けたことから徐々に惹かれ合い、やがて2人の家族を巻き込んだ人間ドラマが濃密に繰り広げられていく。
主人公2人に共通する“心の傷”が浮かび上がる第1話のラストや、2人の父が持つ仰天の秘密が明かされる第5話、主人公の傷を残酷なシチュエーションでつまびらかにしていく第7話など、各話どれも濃密で見逃せない展開の連続なのだが、最大の見どころは第10話のラストから最終回に向けて繰り広げられる美しいハッピーエンディング。
最終回前の第10話ラストで、そのエピソードだけであと何話も続くのではないか?…と思うほどの“爆弾”が投下されるが、次の最終回前半で華麗に処理し、それをきっかけにすべてがラストにふさわしい着地点へ導かれていく展開が見事なのだ。
また、かつて『岸辺のアルバム』が、茶の間を囲んで絆が強いように見えて実はバラバラだったという“家族”であったのに対し、現代に近いこの作品では、バラバラに見えても実は絆が深い“家族”を描いたという点で、両作を併せて見るのも良いだろう。
山田太一氏はこの作品で連ドラ脚本を最後にすると明言しているので、今後もちゃんと語り継いでいきたい、そして今一度噛み締めておきたいドラマの1つだ。この作品はFODで配信中。
■“家族”の価値観を覆した…『すいか』
家族の物語ではないが、帰る場所を“ホーム”と定義した“ホームドラマ”として、小林聡美主演の『すいか』(03年、日本テレビ)も紹介したい。
現在再放送中の『野ブタ。をプロデュース』を手掛けた、木皿泉脚本×河野英裕プロデュースの最初にタッグを組んだ作品で、その後、松山ケンイチ&大後寿々花の『セクシーボイスアンドロボ』(07年)、佐藤健&前田敦子の『Q10』(10年)と続いていく歴史的作品。当時視聴率は低かったが、今では知る人ぞ知る隠れた名作だ。
人生に行き詰まった30代銀行員の主人公が、賄い付き下宿“ハピネス三茶”で出会った個性豊かな面々と交流する中で成長していくという物語。主人公の同僚が1億円を横領して逃走中という一見サスペンスフルな縦軸も用意されているが、それは本筋で描かれる日常との対比で、日々の何気ない悲喜こもごもを丁寧に紡いだ人間ドラマに仕上がっている。
このドラマで新鮮だったのは、家族こそが何でも分かり合える存在という価値観を覆した部分。ハピネス三茶の住人でエロ漫画家の絆(ともさかりえ)に対し、同じく住人の教授(浅丘ルリ子)が「親じゃなくたって、どこかであなたを待ってくれてる人がきっといる」「実家よりここ(ハピネス三茶)が家になっちゃったのね」と優しく告げるのだ(第5話)。
家族じゃなくても、待っている人がいる場所こそ“ホーム”(このドラマではハピネス三茶)だという、そんな人生につまずいてしまった人々が救われる金言が、このドラマには多く登場する。おかしく楽しい会話劇に乗せて、その金言の数々に立ち止まり、考え、癒やされる時間を過ごすのもいいのでは。
タイトルが『すいか』とあって設定も夏。暑くなるにつれ、繰り返して見たくなる作品なので、毎年再放送を希望したくなる。今すぐにでも観たいという方は、Huluで楽しんでほしい。