落ち込んでいる時ほど悲しい曲を聴きたくなる…というタイプの方にはドラマも同様、落ちるとこまで落ちる、悲劇の連続が特徴的な鈴木保奈美主演『この世の果て』(94年、フジ)を紹介したい。
このドラマは、野島伸司が脚本を務め、彼が持つ独特の哲学や女性観といった私的な表現と、多くの人を魅了する物語構築のテクニックがどちらも高い位置で成立している作品。主人公の女性は、過去に自宅を放火し、妹を失明させ、その手術費用を稼ぐためにホステスとして働き、その女性と知り合い恋に落ちる男性は、記憶をなくした世界的ピアニスト。2人の恋を邪魔するのが、愛人の子として生まれ孤独を感じている御曹司。失明した妹は顔に大やけどを負っている青年と恋に落ち…という、登場人物全員に重々しい背景があり、そこから起きる物語もあまりに壮絶だ。
それでも、圧倒的なエンタテインメントで最後まで一気に見せてしまう手腕が、さすがの野島伸司。あらすじは一見するとチープなメロドラマのようだが、主題歌の尾崎豊「OH MY LITTLE GIRL」や溝口肇の劇伴、中江功監督が紡ぐ繊細な映像で美しい世界観を構築することに成功しており、三上博史のモノローグをはじめ、鈴木保奈美、豊川悦司、桜井幸子など、“声”が魅力的な出演者たちが野島伸司の詩的なセリフを操ることで、さらに美しさが増している。
かなり激しい作風のため地上派での再放送は難しいかもしれないが、FODでは配信中なので、どこまでも暗いお話が好きという方にはおすすめの作品だ。
■魅力的なサントラをBGMに『恋愛結婚の法則』
在宅ワークなどでBGMを楽しみながら“おうち時間”を過ごしている方に紹介したいのが、ドラマ中の音楽が心地良い小泉今日子主演『恋愛結婚の法則(ルール)』(99年、フジ)。30代独身のOLが、理想の結婚相手を見つけ出すというハートフルラブストーリーで、夏のビール会社を舞台に爽やかな恋愛模様と、柳葉敏郎や柏原崇、小林聡美、北村総一郎など個性豊かな面々の人間模様も軽やかに描いてく。
注目したいのはサウンドトラックで、華やかなオーケストレーションと英語歌詞のボーカル付きジャズナンバーが随所に流れ、耳で聴くドラマとしても楽しめる。音楽担当は奥本亮で、同作以降テレビドラマのサントラは手掛けていないので、そういった点でも貴重な作品と言える。
もちろん物語も、メイン脚本の樫田正剛のほかに、“恋つづ”の金子ありさや、『ランチの女王』(02年、フジ)や次期NHK大河ドラマ『青天を衝け』の大森美香も参加しているので、恋愛ドラマとしての魅力もたっぷりで詰まっている。この作品はFODで配信中なので、心地いい音楽を聴きながら気軽に恋愛ドラマを楽しみたい方にお勧めだ。