COOL Chips 23の基調講演でIntelが語ったOptaneメモリ

2020年4月15日から17日までの3日間、IEEEが主催するコンピュータの国際学会「COOL Chips 23」がオンラインを活用する形で開催された。その基調講演で、Intelは不揮発性のOptaneメモリについて講演した。

Optaneメモリはデータセンター向けが中心だが、最近は個人向けにも提供されるようになってきた、なかなか面白いメモリである。

Optaneメモリが誕生した背景

次の図はコンピュータのメモリとストレージの階層を示すものである。ここで、メモリはバイトアドレスでアクセスする記憶デバイスで、ストレージはバイトよりはずっと大きな、例えば数10KB単位のブロックでアクセスする記憶デバイスである。

コンピュータのメモリとして、アクセスが高速で、ビット単価の安いものがあれば理想的であるが、そうはいかない。一般に、アクセス速度の速いメモリは高価であるので、経済的な点で大容量のメモリには使いにくい。従って、プロセサの近くには高速で小容量のメモリを置き、大量のデータを記憶するためにビット単価が安いメモリを使うということになる。

しかし、この2階層のメモリでは、高速小容量のメモリには格納できないデータが多く、大容量、低速のメモリへのアクセスの回数が多くなってしまう。こうなると、メモリ系全体としてはアクセス性能は上がらない。

この問題を軽減するため、メモリを多階層にする。CPUに一番近い階層はキャッシュでCPUチップに内蔵されることが多い。その次の階層はCPUチップと同じパッケージに入れられる高速メモリである。その次がコンピュータの主記憶の定番であるDRAMである。

そしてDRAMの次が、かつてはハードディスク(HDD)であった。DRAM主記憶のアクセス時間は数100nsであるが、HDDのアクセス時間は数10msで、4桁ほどの違いがある。このため、HDDのデータを読む必要がでると、長時間、CPUは止まってデータの到着を待つことになる。最初にHDDをアクセスするときは時間がかかるのは仕方がないが、たくさんのデータを纏めて読み込めば、次のデータはDRAMから読めるというケースが多くなる。そのため、次回以降は早くアクセスできることが多いので、低速の記憶デバイスはアクセスごとに大量のデータを纏めて読み書きするデバイスとなっている。

しかし、DRAMとHDDの4桁のアクセス時間の差を埋めるのは困難で、中間の速度とビット価格のメモリが求められた。そこに登場したのがNAND型フラッシュメモリである。NANDはHDDよりも高速なSSDとして登場した。これにより、記憶階層のアクセス時間とコストのギャップは狭まったが、SSDはDRAMと比べると3桁遅く、ギャップが埋まるというところまでは行かなかった。

  • Optane

    一般のコンピュータの記憶階層。DRAMと3D NANDの間には、アクセス速度、記憶コストで大きなギャップがある (出典:このレポートのすべての図はCOOL Chips 23でのIntelのJianping Xu氏とKaushik Balasubramanian氏の基調講演のスライドのコピーである)

Optaneメモリの仕組み

そこに登場したのがIntelのOptane DC不揮発性メモリとOptane DC不揮発性ストレージである。これらのデバイスは、CDやDVDのディスクと同じカルコゲナイドという物質を使っていると言われている。カルコゲナイドは高温にして急冷するとアモルファス状態で凝固し高抵抗になり、ゆっくり冷やすと結晶状態になって低抵抗になるので、2値の状態を記憶できる。この状態は電源を切っても消えないので、不揮発性の記憶デバイスとなる。

また、カルコゲナイドは掛ける電圧を上げて行きしきい値を超えると急に電流が流れるという性質がある。この性質を使う素子は「Ovonic Threshold Switch(OTS)」と呼ばれている。

ビット線とワード線に正負の電圧を与えると、両者の交点の素子には合計の電圧がかかるのでしきい値を超える電圧が掛かる。そして、カルコゲナイドのスイッチは低抵抗の状態となる。

ビット線やワード線に繋がっている他の素子にも電圧が掛かるが、交点以外の素子にはどちらかの一方の電圧しかかからないので、しきい値より小さい電圧しか加わらず、スイッチは高抵抗の状態にとどまる。

結果として交点の記憶素子だけが選択されて、低抵抗のスイッチを経由して、その記憶素子の抵抗値を読むことができる。

この性質は古くから分かっていたが、不揮発性メモリを作るには、IntelとMicronの技術陣が協力しても長い時間を要した。

なお、開発段階ではIntelとMicronは協力したが、商品化のステージでは袖を分かって独自に製品を作っている。