「益田モデル」を日本各地の移植へ
--:今後、益田市のモデルをどのように日本全国に展開していく計画ですか。
橋本:「益田モデル」と称して、順次、地方都市に移植していく予定です。まずは熊本県八代市への移植を計画しています。さらに愛媛県西条市も今後移植する計画に入っています。私と豊崎さんの地元である長崎県についてもあきらめていません。長崎市は大都市なので難しいですが、例えば平戸市や西海市などの小規模な都市、あるいは大都市内の離島のように小規模で完結した地域であれば適用しやすいでしょう。
--:なぜ次は、八代市や西条市なのでしょうか。
豊崎:コアとなる人材をすでに確保できているからです。八代市は、国内の電子柵市場で約3割の市場を抑えている末松電子製作所の代表取締役社長である末松謙一氏、西条市では石川智久氏がコアとなる人材です。石川氏は、かつて理化学研究所で上級研究員を務め、がん治療や高齢者の個別化医療などの専門家です。現在は西条市において、地方再興・個別化医療支援というNPO法人を運営しています。
なぜコアとなる人材が必要なのか。大企業を含めて、多くの人たちがスマートシティは儲かると考えているようです。しかし、実際には今日明日には儲かりません。少なくても10年の時間軸で考えなければならない。従って、これだけ長い期間、粘り強く事業を牽引していくコア人材がどうしても必要になるわけです。
--:八代市や西条市への移植には、どのくらいの時間がかかると考えていますか。
豊崎:八代市や西条市への移植には2〜3年はかかるでしょう。日本全国に「益田モデルがたくさん広がってきたなぁ」と感じるのは10年後ぐらいになると思います。すでに根回しを始めています。まずは与党とのコミュニケーションを始めており、実際に「早く移植を進めてほしい」という反応をいただいています。
--:益田モデルをほかの地方都市に簡単に移植できるのでしょうか。
橋本:地方都市には、ベースとしての基本共通項があります。しかし、地形や人々の気質などが違う。その違いをコミュニケーションの段階で洗い出し、特異なものが浮かび上がれば、それに合わせて技術開発やサービス開発をしなければなりません。
豊崎:イメージとしては、ジグソーパズルのピースを変えるという感じです。その地方都市に合った最適なピースを埋め込んでいくわけです。
橋本:益田市は川がゆったり流れているので、下流の市内に水位計が必要になります。一方で、長崎県内の都市は川の流れが急なため、川上で雨がドンと降れば下流で氾濫してしまいます。そこで上流での降水量のセンシングが必要になります。つまり、基本的な技術は同じですが、それに載せるものが変わってくるというイメージです。
--:使用するセンサーや通信モジュールには同じものが使えるのでしょうか。
橋本:同じものを使う予定です。そうすれば大量生産が可能になるので、コストを低減できるようになります。
豊崎:従って、各地方都市のエンジニアたちは、その地域に合わせたソフトウェアを開発することになるでしょう。さらに、センサー・モジュールについても、その地域ごとに筐体をデザインすることで、見掛け上はオリジナルなものに変えることが可能になります。データセンターはその地元に置く必要はないでしょう。世界中に存在するサービスの中から、最もコストを・パフォーマンスが高いものを選んでアウトソーシングすればいい。そうしてコスト・ミニマムにすることが肝要です。