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今回の宣言の表現は、慎重に検討したという。「『買いだめは必要ないです』と言うと、消費者が心配になっているのに、マスコミが偉そうにそんなことを言うのも失礼だし、『買いだめはよくないのでやめましょう』と言うのも上から目線ですから、どうすればいいのか…とスタッフや加藤さんと相談しました。そしてたどり着いたのが、“私たちは、買いだめをあおるようなことはしません。消費者の方々が、できれば冷静な判断をしてほしい”という気持ちです」。

こうして番組として打ち出したメッセージが、「『it』は“買いだめ”をあおりません」だ。

放送するまでは「『今まで散々あおってたのに、何言ってんだ!』と炎上したり、批判的なご意見を受けることもかなり覚悟していました」と不安を抱えていたそうだが、結果として好意的に受け止める声が多かった。この大きな要因として、「加藤さんの語り口や、醸し出すものがあると思います」と分析する。

「今回のメッセージは、原稿上で伝えたいことは私の頭の中にあったんですけど、やっぱり加藤さんが、あの表情、トーンで話したことが実は一番大きかったんじゃないかなと思ってるんです。加藤さんから言葉の表現の提案も受けながら作った原稿だったのですが、文字面では見えない何かが、加藤さんから話してもらったときに乗っかった気がして、彼女があの言葉を話し終えた時点で、思っていた以上に、伝えたいことが伝えられたなと感じました」

■“心地良さ”を提示する難しさ

その“醸し出すもの”とは何か。加藤は、昨年4月に『it』のメーンキャスターになってから、さまざまな災害、事件などを報じる中で、「等身大の女性として、視聴者におしつけがましくならないように伝えたい」と、自然体で語りかけることを意識してきたという。

番組スタート前の記者会見で、加藤は「“心地良さ”を作り上げていくのが、私の第一の仕事だと思っています」と目標を話していたが、上田平CPによると「今、その目指してきたことができるのかが、ある意味で試されている局面だと思います。緊急事態という現状で、身が縮こまるような情報だけを扱っていると、見ている方に“心地良さ”というものを提示することは難しい。加藤さんもそこを一番気にしていますね」と苦心している様子。

「ここまで深刻な状況になったときに、『Live News it!』がどうすれば視聴者の方の心の緊張が少しでも和らげることができるのか、という話を加藤さんとしています。ただ楽しいことを伝えればいいという簡単なことではないので、答えは難しいですが、今回のメッセージのように、それができることを見つけていきたいと思います」と展望を語っている。

■報道が生む予想外の副作用「日々痛感」

マスコミ報道に対しては、最近の外出自粛で、渋谷や新宿など都心の繁華街から人出が減少している様子を放送することに関しても、「あの映像を見て、空いてると思った人が街に繰り出してしまう」と懸念する声が出てきた。

上田平CPは「その話も“買いだめ”の報道と通じるところがあって、渋谷から人がいなくなったというのは、自粛要請の効果が出ているというのを伝えるのが目的なんですが、われわれが予想していない副作用があるのだと感じます。この異常な状況だから、本来の意図とは全く違う解釈が生じてしまうというのは、日々報じていて痛感します」と話しており、この未曾有の事態の中、報道現場では模索が続いているようだ。

  • (左から)メーンキャスターの風間晋解説委員、加藤綾子、木村拓也アナウンサー (C)フジテレビ