前回も書きましたが、これまで政府などの対応について多くのメディアは批判をしてきました。たしかに個別には不備や不十分な点、説明不足などもありました。しかしメディアの批判の中には「批判のための批判」と思えるものや揚げ足取り的なもの、あるいは第三者的な批評が少なからず見受けられました。中には憶測で批判していたり、世の中に出回っている噂話レベルのことまで含まれていたりしました。ここでその具体的内容を書くことは控えますが、それを一体だれが確認したというのでしょうか。

メディアの世界では昔から「裏を取る」という言葉があります。記事を書く際には必ず事実関係の裏付けを取る、つまり確認するということは基本中の基本です。私は新聞社に入社して間もなくの頃に地方支局に配属となり、そのときの支局長に徹底的にこれを叩き込まれました。あるとき、「……とみられる。」と書いたら、「みられるとはなんだ。君の推測だろう」と厳しく指摘され、そのくだりをバッサリ削られたことを今でもよく覚えています。

これは文章表現の話ですが、それほどに事実を確認したうえで書く、推測で書かないということが重要なのです。このことは新聞・雑誌・テレビなどすべてのメディアに共通するはずですが、最近の報道を見ていると、その基本中の基本がおろそかになっているのではないかと感じることがあります。

政府批判をするにしても、それはあくまでも事実に基づいたうえでの批判であるべきでしょう。ましてや、今回は人の命に関わる問題です。批判のための批判ではなく、危機を乗り切るための建設的な批判であるべきです。

長年、新聞とテレビで仕事してきただけに、特に最近はその思いを強くしています。

セントルイス型かフィラデルフィア型か――今がその分かれ道

ところで前回の原稿で、1918年のスペイン・インフルエンザ(通称・スペイン風邪)のことを書きましたが、現在の東京と日本の状況は、当時の感染拡大初期の1918年10月初め頃にあたると見ることができます。

詳しくは前回原稿をお読みいただきたいと思いますが、再度のグラフとともに簡単に振り返りますと、セントルイスは迅速で徹底した封じ込め策を取ったおかげで、死者数の増加を緩やかなカーブにとどめることに成功しましたが、対策が遅れたフィラデルフィアは10月初めから死者が爆発的に増加し、医療崩壊と社会崩壊を起こしたのでした。

  • スペイン・インフルエンザの各週ごとの死者数の推移(フィラデルフィアとセントルイス)

    スペイン・インフルエンザの各週ごとの死者数の推移(フィラデルフィアとセントルイス)

今後、日本がセントルイスのように感染増加を抑えることができるのか、それとも最悪の場合フィラデルフィアの道をたどってしまうのか、まさに今その分かれ道に立っていると言えます。フィラデルフィア型になることは絶対に避けなければなりません。今が正念場なのです。

その中で、経済への影響が深刻化しています。感染拡大を抑えるためには外出自粛など人の移動をできるだけ少なくすることが必要なわけですが、それを強化すればするほど経済活動も抑えられ、イベント中止で打撃を受けている小規模事業者、売り上げが急減している観光関連や飲食・サービス業の零細企業や個人事業主、さらにフリーランスの人など、苦境に立っている人が増えています。そうした人たちへの支援は緊急に実施する必要があります。

また株価が急落し、多くの企業も業績が急速に悪化しています。その影響で雇用悪化や収入減少など多くの人の生活も脅かされています。今や世界中が経済の急激な悪化に直面しています。

これに対応して安倍首相は「過去最大の経済対策を策定する」と表明しました。

果たして経済面でもコロナ危機を乗り切ることはできるのか、これについては次号で詳しく述べます。