ここ数日、東京都ではコロナウイルスの一日の感染者数が連続して過去最高を記録し、全国的にも急増の気配を見せています。小池百合子・東京都知事は「重大な局面にある」「感染拡大を抑止できるかぎりぎりの状況」として、この週末と4月12日頃までの「不要不急の外出自粛」の方針を打ち出しました。安倍晋三首相も3月28日の記者会見で「長期戦の覚悟」を国民に呼びかけました。事態は一段と厳しさを増しています。
安倍首相や小池知事が指摘するように、ここで手を緩めれば感染爆発(オーバーシュート)が発生する恐れがあります。安倍首相は「欧米の例から試算すると、今後わずか2週間で感染者数が今の30倍以上に跳ね上がる」と語りました。そうなればイタリアや欧米各国のように医療崩壊を招き、都市封鎖(ロックダウン)をせざるをえなくなります。それを避けるため、今の段階で「不要不急の外出自粛」を強く呼びかけているわけです。
ところが、この状況に至ってもなお外出自粛要請に反発してみたり、「不要不急の基準がはっきりしない」「対策が後手」と言って、政府や行政の批判をしたりする人がいます。
この「不要不急」をめぐっては、あるテレビ番組で「親の介護で外出しないといけない」という人がインタビューに答え、また別のある番組では「埼玉県から都内の病院に通っているので心配」という人の声を放送していました。それらご本人の不安な気持ちは十分理解できます。しかしそれらは「不要不急」でないどころか、絶対に必要な外出であることは明らかなわけで、それを「不要不急」と絡めて放送するのは、ポイントがズレています。
これを見ていて、ひょっとして番組制作者自身が「不要不急」の意味をよく理解していないのではないかと感じました。少なくとも、現在の段階で「不要不急の外出自粛」がいかに重要かということ、つまり感染爆発を防ぐ、イタリアや欧米のような事態になるのを防ぐために必要な措置だということを視聴者に広く理解してもらうという視点が欠けていたと言えます。
さすがにこの日曜日(3月29日)あたりになると、テレビ番組の中で「不要不急の外出自粛」の重要性を強調し、多くの人に危機意識を持つように呼びかける内容が増えてきたように感じました。ある番組では専門医の先生が「外出を控えることは『我慢』ではなく、人の命を守るんだと思ってください」と訴え、別の番組ではイタリアの市長が「自分の命と他人の命を守る責任感を持ってほしい」と強調していました。
これこそが、今メディアに必要な姿勢です。「みんなが力を合わせてコロナ危機を乗り切る」ことが何よりも大事なことであり、メディアはそのために必要かつ信頼できる情報を報道することが社会的使命なのです。