世界三大悲劇のひとつとされるエミリー・ブロンテの名作『嵐が丘』。小説だけでなく、映画や舞台化もされた本作が、2020年2月17日より音楽朗読劇として展開される。演出を担当するのは、オペラ・ミュージカルのほか、『アイ★チュウ ザ・ステージ』などの舞台演出も手掛ける田尾下哲。本公演は、2018年3月にTOKYO FMホールにて上演され反響を呼んだ田尾下の演出による音楽朗読劇シリーズのひとつとなる。

本作の魅力のひとつは、公演ごとに違った声優陣が出演すること。合計34名の声優が個々の声を最大限に活かし、様々な組み合わせによって、同じ作品とは思えない『嵐が丘』の世界を作り出す。

  • 『嵐が丘』稽古写真。左からキャサリン/キャシー役・諏訪彩花、ヒースクリフ役・川島得愛、ヒンドリー/ヘアトン/リントン役・市川太一、エドガー/ロックウッド役・白石兼斗

今回は、出演声優陣のなかから、2月23日13:00~の公演に出演する川島得愛、白石兼斗、諏訪彩花と2月20日19:00~の公演に出演する市川太一にインタビュー。作品・演じる人物への印象と、朗読劇ならではの魅力・特徴について、稽古後に話を聞いた。

●『嵐が丘』プロローグ

舞台は、1801年。ヒースクリフがヘアトンとキャサリンと住む、嵐が丘。嵐が丘というのは、この屋敷の名前である。ひどい嵐の夜。アーンショー家の扉を必死にノックする音が聞こえる。訪ねてきたのは、ロックウッドという青年。嵐が丘の近くにある「スラッシュクロス」の屋敷を借りることになった彼が、挨拶へやってきたのだ。
ひどい嵐のなか、越してきたばかりで案内なしでは屋敷へ行くことができないロックウッド。ヒースクリフの許可を得て、その晩は嵐が丘に泊まることとなった。
その後、キャサリンに案内され、とある部屋へとたどり着いたロックウッド。彼はベッド脇に並んだ本のなかに1冊の日記があることに気が付く。日記の裏表紙に書かれていた名前は『ネリー』。アーンショー家に仕えた彼女が日記に記していたのは、嵐が丘の運命に翻弄された人たちの人生であった。

●惹かれ合ったからしょうがない

――最初に皆さんが演じられる登場人物についての紹介をお願いします。まずは川島さんから。

川島 僕が演じるヒースクリフは、7歳の頃にアーンショー家の主人に拾われ、嵐が丘にやってきます。彼は10歳前後のとき、アーンショー家の娘であるキャシーとは「魂を分け合っている」と言うんですよ。すごい表現をする子供ですよね。

――年も近く、自身をかまってくれたキャシーに惹かれていった。キャシーも同じようにヒースクリフに惹かれ、かけがえのない存在になります。

川島 ただ、それぞれで取る行動は異なるんですよ。特にキャシーは「ずっとふたりきり」と言っていたのに、裕福なリントン家と触れ合うようになってからは、ヒースクリフに「気味が悪い」「一緒に遊んでも楽しくない」と言うようになる。

――キャシーはリントン家の息子であるエドガーと結婚することとなります。しかし、結婚が決まったときも、アーンショー家に仕えていたネリーの前ではヒースクリフのことを「愛している」と言葉にするんですよね。

川島 キャシーの発言は返す刀で色々な人を巻き込むようで、しかも時々訳が分からない言動をすることもあり、正直「なぜ惹かれ合うのか」と、共感しづらい部分がありました。でも、ふたりは惹かれ合っちゃったんですよね。思い返してみると、自分が学生の頃も人を好きになったら、どうしても会いに行きたいと強く思っていた気がするので、それに近いのかもしれません。一度想った相手だから、なるべく傍にいたい、どんなことを言われても本当は離れたくないんだと。「惹かれてしまったからしょうがない」というのが、この役の根幹かもしれない、と思います。

――その後、エドガーとキャシーの婚約を知ったヒースクリフ。ここで、憎しみの感情が強くなります。

川島 愛している人に対して憎しみの感情を抱く。それは自分にはない感情でした。ただ、役者として登場人物のセリフを喋るからには、嘘がないようにしなければいけない。僕なりにであっても、そこは表現しなければならないと思って演じています。

――川島さんがどのようにヒースクリフを表現されるか、楽しみです。さきほど川島さんのお話に出てきたキャシーは、諏訪さんが演じられます。

諏訪 キャシーは無邪気で活発、そして気が強い女の子です。8歳も年が離れている兄のヒンドリーに対しても、言い返せるくらい勝ち気なんですよ。ただ、先ほど川島さんがおっしゃっていた通り、無意識に人を傷つけてしまう奔放なところがあって……。

――ヒースクリフにも辛辣な言葉を浴びせます。

諏訪 そしてキャシーは、エドガーと結婚をするんですよね。もしかしたら、「ふたりで駆け落ち!」なんてパターンもあるかなと思ったんですけど(笑)。でも、彼女は、拾われた子であるヒースクリフと結婚すれば貧乏になってしまい、ふたりとも野垂れ死ぬかもしれない、反対にお金持ちのエドガーと結婚すれば、彼を傍に置いておけて、守ることもできるかもしれないって考えたんだと思うんです。

そういうところはすごく現実的であり、勝手な考えでもあるとは思うんですけど……。でも、やっぱりヒースクリフを想わずにはいられない。彼とは運命共同体と言いますか……もう言葉では言い表せられない何かで結びあっていると感じました。それゆえに執着もすごい。台本を読んだ時、私としてはお互いに愛し合っていても「どうしようもいかない関係ってあるんだな」と、もどかしい気持ちになりました。

――そんなキャシーとエドガーの間に生まれた娘・キャサリンも諏訪さんが演じられます。

諏訪 キャサリンは素直で真っすぐな子です。それはきっと、エドガーが深い愛情を持って育ててくれたからなんでしょうね。ただ、彼女もキャシーとヒースクリフの運命の輪に翻弄されていくひとりなんです。

  • 川島得愛(かわしまとくよし)2月8日生まれ。東京都出身。81プロデュース所属
    諏訪彩花(すわあやか)5月27日生まれ。愛知県出身。アーツビジョン所属
    市川太一(いちかわたいち)2月4日生まれ。東京都出身。ヴィムス所属
    白石兼斗(しらいしけんと)4月26日生まれ。山口県出身。81プロデュース所属

●ヒースクリフに翻弄される人々

――キャサリンとキャシーの演じ分けも楽しみにしています。市川さんは、三役を演じられますね。1人目はキャシーの兄・ヒンドリー。

市川 ヒンドリーは、幼少のヒースクリフに強く当たります。それは、もともと暴力的だったからなのかもしれませんが、父親がヒースクリフを拾ってきたことで、「自分の居場所がなくなってしまうかもしれない」と不安に駆られての行動だったのだと思います。キャシーもヒースクリフにばかりかまうようになって、より憎さが増したんじゃないかな。そういう意味では、彼もヒースクリフによって運命が変わったひとりなのかもしれません。

――そんなヒンドリーの息子・ヘアトンが2人目に演じられる役です。

市川 ヘアトンは父親からの愛情を一切受けることなく育ちます。父親が死んでからヒースクリフに拾われますが、そこでもひどい扱いを受けてしまう。でも、以外と擦れずに、真っすぐな一面も垣間見える青年に育っていくんですよね。今回僕が演じるなかでは、一番まともだと思います(笑)。

――もうひとつの役どころであるリントンはどんな人物でしょうか?

市川 リントンは、ヒースクリフとエドガーの妹であるイザベラの間に生まれた子供なんですけども、病弱で、しかもヒースクリフの言いなりになっています。きっと幼少の頃からヒースクリフに厳しくしつけられて、逆らわないことが当たり前になっているんでしょうね。息子ではありますが、道具のように扱われています。

――役柄としては幅のある3人を演じられますね。

市川 そうですね。ヘアトンとリントンは同じ場面で登場することも多いのですが、聴いている皆さんにちゃんと違う人物だと認識していただけるよう、しっかりと演じ分けないといけないと思っています。

――意気込みも言葉にしていただきありがとうございます。続く白石さんが演じるのは、ロックウッドとエドガーです。

白石 ロックウッドは、いわばストーリーテラーに近い役割ですね。彼は都会から田舎に越してきて、ヒースクリフたちが暮らす嵐が丘を訪ねます。冒頭で人嫌いだと言っていますが、行動なんかを見てみると、自分勝手なところがちょっとありそうで……。稽古でも、元来の嫌われタイプなのかもね、というディレクションがありました。ただ、演じるうえではそこまで厭らしさをみせず、あくまでストーリーテラーに近い役割であることを意識して、等身大で演じようと思っています。

――もうひとつの役どころであるエドガーはいかがですか?

白石 エドガーはいい家で生まれたから、きっと穢れを知らないんでしょうね。それゆえに世間を知らないところがありますが、いい奴なんですよ。キャシーと結婚し、彼女のことを愛していますし、娘のキャサリンへも深い愛情を向け、大事に育てます。"いい奴ではある"というのが、僕の印象ですね。