いよいよ、あと半年を切った2020年の東京五輪。各国の選手の活躍に注目が集まる一方で、それを撮るプロカメラマンの機材にもメーカー同士のバトルがあります。キヤノンとニコンの一眼レフの牙城だったスポーツ報道用カメラに、昨今はソニーもミラーレスで参入。カメラファンにとっては、東京五輪のもう一つの見どころとなっています。
そうしたなか、カメラでトップシェアを誇るキヤノンが、デジタル一眼レフカメラの新フラッグシップ機「EOS-1D X Mark III」を2月14日に発売しました。同社は、このEOS-1D X Mark IIIの投入で、東京五輪のカメラマンシェアで80%を目指すとしています。キヤノンによると、リオ五輪(2016年)では69%、ラグビーW杯(2019年)では70%だったとのことです。
発売に先立つ2月6日、EOS-1D X Mark IIIを体験できる関係者向けのイベントが開催されました。今回の体験会は、ラグビーチーム「キヤノンイーグルス」の練習拠点であるキヤノンスポーツパーク(東京都町田市)で行われ、選手の練習風景を撮影することができました。一眼レフのフラッグシップモデルを使うと、本格的なスポーツ撮影の経験がない素人でもどこまでカメラ頼りで撮影できるか、挑戦してみました!
ミラーレス時代の一眼レフの意義
EOS-1D X Mark IIIは、35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラで、おもに報道やスポーツの分野で使われる高性能モデルです。ファインダー撮影時の連写速度は最高16コマ/秒で、スポーツ撮影で重要なAF追従性能も高めました。店頭予想価格は税込み88万円前後と、値段もかなりのもの。
昨今はミラーレスカメラが幅を利かせていて、ともすると「一眼レフカメラは過去のもの」という認識を持つ人もいるかもしれません。そのようななか、キヤノンはEOS-1D X Mark IIIを「EOS-1系の最高傑作。究極の光学ファインダーカメラ」と呼び、仕上がりに自信を見せます。しかし、キヤノン自身もフルサイズミラーレス「EOS R」シリーズに力を入れてきているなか、フラッグシップ機をミラーレスではなく一眼レフでリリースするのはなぜでしょうか?
キヤノンによると、もともとEOS-1Dシリーズの良さとして、ファインダー撮影時のAF性能を追求することはもちろん、望遠レンズを付けたときの使いやすさを追求するにあたってもファインダーをのぞくタイプが必要だったそう。その一方で、デュアルピクセルCMOS AFの搭載でライブビュー撮影時の性能がミラーレスシステムと同等に高まったことから、同社では「一眼レフカメラの良さにミラーレスの性能も加えた『全部載せ』のカメラになりました」とアピールします。
小型軽量化が図れるミラーレスカメラに比べると圧倒的に大柄なボディですが、バッテリーの持ちや耐久性などを考えると、この形がベストだとのこと。一眼レフで商品化することは、早い段階で決まっていたそうです。
ところで、ファインダーの形式には光学ファインダーとEVFがありますが、なぜ光学ファインダーを採用したのでしょうか?
「EVFの場合、動きの速いものを撮る場合に表示に若干の遅れやブレが出てしまいます。その点、光学ファインダーはそのようなデメリットが一切なく、肉眼で見ているのと同様に自分のタイミングでシャッターが切れる点が重要です。また、望遠レンズを長時間覗く場合の目の疲労についても、光学ファインダーのほうが少ないと考えています」(キヤノン担当者)。
光学ファインダーを外して代わりにEVFを取り付ければ、EVFを用いることも不可能ではないそうですが、それでも光学ファインダーは譲れなかったそうです。
「ライブビューの性能も高いので、それをEVFに映すだけだったら技術的にはできると思います。その方法で光学ファインダーに近い性能は実現できるかもしれませんが、今まで光学ファインダーに慣れているユーザーに対して光学ファインダーを搭載する必要があると考えました。ミラーレスの良い部分も取り込んで、どちらの撮影もできるようにしたつもりですが、この機種ではファインダーをEVFにする必要はないと考えています」(キヤノン)。
AFは申し分なし。高感度画質も綺麗
EOS-1D X Mark IIIがこだわったのは、AF性能だけではありません。画質面では、イメージセンサー、ローパスフィルター、画像処理エンジンなどが新たに開発され、画質が向上しています。なお、画素数自体は有効2,010万画素で前モデルと同等ですが、画素ピッチが広いため高感度画質は高まっています。
今回の撮影では、素早い動きをする選手を超望遠レンズで追いかけるので、1/2000秒~1/2500秒といった高速シャッターを切る必要があります。加えて、撮影時刻が日没前後となったため、光が十分とはいえない状況での撮影となりました。そのため、感度は高いときでISO40000程度まで上がってしまいましたが、スポーツ写真としてみれば十分きれいな画質でした。
筆者は、スポーツ撮影の経験がほとんどないので、今回はEOS-1D X Mark IIIをできるだけカメラ任せのオート寄りの設定にして、どれくらい撮れるのかを試してみました。
AFモードは「AIサーボAF」(コンティニュアスAF)にし、測距エリアは「自動選択AF」で自動的に被写体を探してピント合わせをするようにしました。ファインダーAFでも顔検知と頭部検出ができるようになったので、この「人物優先」もONに設定。頭部検知は顔検出と異なり、顔が隠れていてもピントを合わせられるのがメリットです。
被写体追従特性は、新設の「Case A(Auto)」に設定。被写体の動きなどに合わせて、被写体の乗り移り特性などを自動決定してくれます。ちなみに、これまでCaseは1~6までありましたが、ユーザーから「どれが良いのかわからない」といった声が多かったことからCase 1~4に数を減らし、バランスのよいAutoを加えたとのことです。
スポーツなので、撮影モードはTv(シャッター優先AE)で1/2000秒~1/2500秒とし、感度やホワイトバランスはオートにしました。ドライブモードは、最高16コマ/秒の高速連続撮影に設定。これで、シャッターボタンを押しながら被写体を追いかければ、あとはカメラがやってくれるということになります。
今回使用したレンズは、超望遠ズームレンズ「EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×」(実売価格は税込み128万円+ポイント10%)。エクステンダー使用時には焦点距離が560mm相当になる高性能レンズです。ズームレンジが広く、選手の動きに合わせて画角を調整できて使いやすいと感じました。