強みはランナーへの「踏み込んだアドバイス」

今回のランナー向けサービスについて、開発の経緯や今後目指す展開を、アシックスの平川菜央さんとカシオの高橋敦英さんにお聞きしました。

ランナー向けサービスの開発は、2018年秋ごろからスタート。当初カシオ計算機は、センサーによってデータ化した人の動きを価値ある形でユーザーに返す方法を模索していました。それを実現するには、ユーザーに接点の多いスポーツ用品メーカーの協力が不可欠だったといいます。

  • alt

    今回お話を伺った、カシオ計算機 事業開発センター事業開発部の高橋敦英さん(左)と、アシックススポーツ工学研究所 スポーツコンテンツ研究部機能サービス開発チームの平川菜央さん(右)

高橋さん:センサーデバイスの開発やフォーム解析の研究は行っていたものの、データを数値で見せるところから先にある「どうすればいいのか」というコーチングの部分を作ることは、当社だけでは難しい。ランナー向けサービスを作るにあたり、当社にはユーザーとの接点がなかったのです。アシックスさんにお声がけしたのは、ユーザーとの接点が多く、コンテンツを持っていたから。コンテンツはランナーとコーチの対話の中でブラッシュアップされた、ランナーにとって受け入れやすい内容でした。

  • alt

    走りのタイムや距離、平均ベースといった数値をアプリ上で表示

平川さん:「デジタル」をキーワードにビジネスを進めていったときに、自社だけではできないことがどうしても出てきます。たとえばプラットフォームの整備とか、アプリを使って反応を見るといったことですね。当社が得意とするところで協力できたことはよかったと思います。

  • alt

2つの企業が一緒に製品やサービスを開発する中では、それぞれ得意とする領域で実力を発揮する分業がイメージされますが、平川さんによれば、コンテンツやアプリの開発は完全な分業ではなく、両社の提案を取り入れつつ、議論を重ねながら、長期にわたって取り組んでいるとのこと。

高橋さん:ハードウェアの開発はカシオが担うという分担はもちろんあります。カシオの得意分野は確かにハードウェアですが、実際、それがランナーにとって使いやすいかどうかの知見はありません。そこはランナーとの接点があるアシックスさんの力をお借りしました。

平川さん:アシックスはロジックや考え方の整備を担当していますが、コンテンツを含むソフトウェア部分の開発は、見せ方や伝え方の部分で、両社の意見が採り入れられています。ディレクションをしているというよりは、ディスカッションを重ねていいものを作っているというイメージですね。もう1年くらい、週に一回、アシックスの研究所に集まったり、Webミーティングをしたりして議論を重ねながら、アプリを設計しています。ブースにお出ししているアプリもまだ開発中ですので、現在進行形で変わっている最中です。

  • alt

    ブースではトレッドミルを用いたデモを実施

  • alt

    モーショントラッカーを腰に取り付けたところ

アシックスとカシオのランナー向けサービスには、「レーダーチャートによる数値評価」と「動画とテキストによるコーチング」という特徴があります。この2つの要素は「ランニングのフォームをコーチングする」というひとつの価値につながっています。

平川さん:ランニングフォームは人によって違いますが、欠点を放置したまま続けていると、それ以上速く走れなかったり、悪くすればけがをしてしまう可能性も考えられます。そうした個々のケースに対応してコーチングできる点が強みです。そこには私たちが靴づくりをする中で得た知見も生かされています。定量的なデータと定性的なデータを解釈する力が、アシックスにはあります。

高橋さん:フォームの長所と短所まで踏み込んでアドバイスしている例はほかにないと思います。やはりデータを提示するだけでなく「ではどうすればいいのか」をきちんと伝えているところが大きい。ランナーにとって必要か、見やすいかどうかのジャッジについて、ユーザーの声を聞きながら自信を持って作れたのは、アシックスさんのおかげですね。

高橋さんは、ブースを出展した「ウェアラブルEXPO」はB to B向けの展示会であったにもかかわらず、来場者の反応はより個人的な興味からくるものだったと話します。質問に来る来場者も、実際にランニングをしている人が多かったそうです。

高橋さん:発表時期としてウェアラブルEXPOの開催時期が適切だったとはいえ、B to Bの展示会なので、もっと要素部分の技術的な質問が多いかと思ったのですが、蓋を開けてみればビジネスとはまた別の、消費者目線で話を聞いていただけました。このサービスはB to C展開をするので、そう見ていただけるのはありがたいことです。

平川さん:技術発表という意味合いでの出展だったのですが、実際にたくさんのランナーがブースに来てくださいました。これは予想外でしたし、予想以上の反応でもありました。届けたい価値が届いていると手ごたえを感じています。

  • alt

ランナー向けサービスはまだまだ開発段階ということですが、2020年中のサービス開始に向けて、今後改善していきたいポイントを聞いてみました。

高橋さん:当面は2020年内のサービススタートを目標に、全力で取り組んでいきます。スマートウォッチへの対応も予告していますので、アプリ開発を進めます。また、今は屋外でのランニングだけを想定していますが、ジムで走る方もいらっしゃるので、トレッドミルに対応したモードも入れたいと考えています。

平川さん:コーチングについて、より細かくパーソナライズされたコンテンツを提供したいと思っています。同じ人でも、速く走ったときと長く走ったときでデータの傾向は違うはず。「点」の測定でなく、長くデータを録りためることによって、もっと正確で意味のある情報を出していきたい。将来的には、心拍など「走行」そのもののデータとは違う種類のデータを組み合わせることで、無理なく実践可能な練習ができるようなコーチングを目指したいですね。