◆消費電力(グラフ18~26)

最後に消費電力を。まずグラフ18がSandra 20/20のArithmetic Benchmarkの結果、グラフ19がCineBnech R20のAll CPU、グラフ20がTMPGEnc Mastering Works 7で4 Streamでのエンコード、グラフ21がIntel Burn Test v2.54のStandard Benchmarkの結果である。

  • グラフ18

  • グラフ19

  • グラフ20

  • グラフ21

まずこの4つのテストで共通する事だが、Ryzen Threadripper 3990Xの消費電力のピーク値がRyzen Threadripper 3970Xのそれと殆ど差が無い事だ。更に言えば、Ryzen Threadripper 3960Xと比べてもさして差が無い。この3製品、いずれもTDPは280Wになっており、まさにこれをきちんと守っている、という感じでRyzen Threadripper 3990Xもきっちり280W枠内に収まっている。その一方でRyzen Threadripper 3990Xは、CineBenchとかIntelBurnTestでは、消費電力がピーク値に張り付いている時間が圧倒的に短い。それだけさっさと処理が終わる、と言う事でもある。

ということで、まずそれぞれの平均値を算出した(TMPGEnc Mastering Works 7は開始後30秒~150秒の間の平均を取った)のがグラフ22、待機時の消費電力との差を取ったのがグラフ23である。案外にRyzen Threadripper 3990Xの消費電力がそれほど大きくないことが判る。

  • グラフ22

  • グラフ23

さて、ここから効率をちょっと判断してみたい。まずSandraのArithmetic Benchmark。実際の性能で言えば

Dhrystone
(GIPS)
Whetstone
(GFLOPS)
TR2990WX 1110 692.69
TR3960X 1150 596.27
TR3970X 1470 900.2
TR3990X 2370 1530
Core i9-10980XE 797.66 459.16

であって、これと実効消費電力差から、効率はグラフ24の様に算出される。

  • グラフ24

妙にRyzen Threadripper 3990Xの効率が良い様に見えるが、これはTDP枠が280Wに固定された事と関係する。ラフに言うのなら、Ryzen Threadripper 3970Xは32core/280Wだからコアあたり8.8W弱、対してRyzen Threadripper 3990Xは4.4W弱で動くことになる。こうなると、当然Ryzen Threadripper 3990Xは動作周波数をある程度落として動作することになるが、半導体の特性として消費電力を半分に落としても動作周波数は半分にはならず、7割とか8割をキープできるから、その分効率が良くなる計算だ。

  • グラフ25

グラフ25の結果から見ると、恐らくRyzen Threadripper 3990Xは、Ryzen Threadripper 3970Xの85%ほどの動作周波数で動いている(つまり15%動作周波数を落とすだけで、消費電力が半減する)とみられる。これが、Ryzen Threadripper 3990Xの高効率の秘密ということになる。

  • グラフ26

グラフ26は、消費電力量(電力と時間の積)を利用して比較してみた。要するに1枚のレンダリングに、どれだけの電力量を消費するかを比較したもので、当然小さいほど優秀である。結果は見ての通りで、Ryzen Threadripper 3990Xが圧倒的に効率が良い。こうした効率の良さが、Ryzen Threadripper 3990Xの特徴と言える。

◆考察

ということでWorkstation Benchmarkを中心に簡単にRyzen Threadripper 3990Xをテストした結果をお届けした。一言で言えば「用途にハマれば最強」ということか。

何度か説明したとおり、メモリ帯域がそれほど要求されず、その一方でCPU性能はあればあるほどよく、かつ複数スレッドに分散できるタイプの処理で、Ryzen Threadripper 3990Xは最強無比の性能を発揮する。今回で言えばCineBenchの様なレンダリング、それとTMPGEnc7の様なエンコードがこれに相当する形だ。コア数が倍になっても性能は倍にならないのは消費電力の所で説明したとおりだが、それでも1.8倍程度の性能は確保できる。消費電力が変わらないまま性能だけ1.8倍、はかなり魅力的な数値である。

その一方、SPECWorkstationのnamdの様に、外すととことん外れるのも特徴的である。このあたり、ソフトウェア側での対応がある程度必要な感じで、ちょっと第2世代Threadripperのピーキーな感じが戻ってきた感もある。

そもそも論で言えば、初代Zenコアが4コアあたり1chのメモリバスでバランスしており、Zen 2では大容量L3の搭載でこれを8コア/chにまで広げたが、Ryzen Threadripper 3990Xでは16コア/chに達してるわけで、当然バランスは悪い。なので、当然アプリケーションを選ぶことになる。

まぁさすがに4000ドルのCPUをゲームとかTwitterのために購入する酔狂な方はそう多くない(居ない、とは言わない)と思うので、そうした方はお好きにされれば良いかと思うが、ビジネス向けに検討されている方は、アプリケーションがそれに向いた特性かどうか見極めてから導入を考えるべきだろう。うまくハマれば、それこそ冒頭に掲載したPhoto06ではないが、圧倒的に良いお買い物になる。