この“現状とのリンク”が、図らずも起こってしまったのが、中畑のおじさんを演じた故・地井武男さんだ。
中畑のおじさんのモデルとなった材木屋・仲世古さんの妻が亡くなり、倉本氏からの「仲世古さんの奥さんの話をやりたいんだよ」と希望を伝えられた地井さんは「それはできない。俺は降りる」と固辞した。
「いくらいっても通じなくて、これはなんかあるぞと思って、1回2人で会ったら、『女房ががんで、あと3カ月だ』って、全く一緒の設定だったんです。それで僕は『俺も女房が死んで気持ちは分かるけど、今やらなかったら悔いは一生残るよ』って伝えたら、地井さんは『考えさせてくれて』と言って。それで、奥さんにも話したら『やんなさいよ』って言われて、やることになったんですけどね。でも後日、地井さんがやってきて、『昨日、女房が死んだ』って言われたんだけど、そんときの号泣の仕方は、それはすごかったですよ」
そんな状況で撮影に入るのだが、あまりにもリアルで地井さんには酷な状況だ。
「もうリハーサルできないからいきなり本番なんだけど、芝居にならないんですよ。それは邦さん(田中邦衛)と2人のシーンだから2人だけにして本番を始めるんですけど、やっぱりセリフが出てこなくて。それで、地井さんが僕のところに来て『すまん、芝居にならん』って言うんだけど、『とにかくもう1回やろうよ。芝居をやるということじゃなくて、1つ自分を別の世界に感じてやってみようか』と言ったんです。でも、結局一番目のを使いましたね」
この名シーンの裏側は、ファンにとっては有名なエピソードだが、会場のあちこちから涙で鼻をすする音が聴こえてきた。
■終わってみると関われて良かった
このように、精神的にも肉体的にも厳しい撮影が行われていた『北の国から』だが、スタッフが1人も変わらず、出演者とともに“本当の家族”のドキュメンタリーを描くように制作された作品だからこそ、21年という長きにわたりチームが結束し、愛されたのだろう。
杉田監督は「このドラマは、最後の2回は“時間”をテーマにしようと言って作ったんですよ。それは長いことやってたからできることなんですけど、そういうドラマって他にないと思うんですよね。撮影中は嫌でしたけど(笑)、終わってみると関われて良かったなって思います」と感慨深くコメント。
蛍原は「吉岡くんも中島さんも、『本当に“北の国から”のおかげです』とおっしゃってましたよ」と伝えたが、スパルタ演出で恨まれている自覚のある杉田監督は「素直には受け取れませんけど(笑)」と懐疑的だった。
なお、杉田監督が社長を務める日本映画放送が運営する「日本映画専門チャンネル」(BS255)では、デジタルリマスター版として毎週土曜日にシリーズ完全放送中。15日(17:00~)には、連ドラ版の第1話~第6話を一挙放送する。