倉本聰脚本×田中邦衛主演の名作ドラマ『北の国から』(フジテレビ、81~02年)の杉田成道監督と、同ドラマの大ファンであるお笑いコンビ・雨上がり決死隊の蛍原徹によるトークショーがこのほど、東京・渋谷PARCOで開催中の『北の国から展』(9日まで)の会場で行われ、杉田監督から撮影当時の裏話が次々に飛び出した。

  • 蛍原徹(左)と杉田成道監督

蛍原は、子供が生まれるまで20年間、『北の国から』のビデオを毎日流さないと寝れないというほどのファンで、「監督より見てます!」と豪語。結婚式は、ドラマの舞台である北海道・富良野の隣町・美瑛で行い、名前の中に主人公・五郎(田中邦衛)の娘・螢(中嶋朋子)と同じ「蛍」が入っていることも「運命なんです」とアピールした。

一方の杉田監督は「僕は富良野に行った瞬間に帰りたいと思ってたんです。大嫌いなんです、あそこは(笑)」と衝撃発言。「初めて富良野に行ったのは落葉の季節で、麓郷街道を車で走ってたら真っ黄色の葉っぱが本当に雪のように降ってきて、風に舞って童話の世界に来たみたいで。『ここで撮るのかあ!』と感動したんですけど、あとは地獄でした(笑)」と、撮影は苦労の連続だったそうだ。

このトークショーは、蛍原が杉田監督に、名シーンの裏話を聞いていく形で進行した。

■岩城滉一のKOに顔面蒼白だった理由

『’87初恋』で、純(吉岡秀隆)が上京するとき、乗せてもらったトラックの運転手(故・古尾谷雅人さん)から、五郎が工面して謝礼で渡した「泥の一万円札」が純に返されるシーンの撮影は「4~5時間かかりましたよ」という。

「車の中で撮ったんですけど、古尾谷さんが脚を上げて、その下にカメラマンさんが手持ちで待ってるんです。純は吹雪の中、外にいるんですけど、純の気持ちができたら(車に)入ってきてもいいということにして、入ってきたら古尾谷さんがセリフを始めるんです。それで純が泣くんですが、泣くには泣くんですけど、ダメなんですよね。泣けばいいってもんじゃない。何回やってもダメで、3時間くらいずっと同じ格好してて、僕はもういいかなと思ったら、助監督が『もう1回やらせてください』って言ってくるんですよ。それで、小屋に行って純の横に座って話をしたら、『もうダメです、できません。みんなを待たせるのがつらい』って言ったんで、『みんなお前のためにやってるんだよ』って説得して、30分くらい待ったらそーっと(車に)入ってきて、始まったのがあれだったんです。すごい苦しそうな顔をして泣くんですけど、それがなんとも言えず良かったんですよね」。

連ドラ第21話で、草太兄ちゃん(岩城滉一)がボクシングでノックアウトされ、気を失うシーンは、ガチンコで試合をさせ、本当に搬送されてしまった。

「負ける設定はあったんだけど、勝っちゃったら全部書き直すつもりで『とにかく勝て』って言って、3カ月くらいガッツ(石松)さんのところでスパーリングやって、プロと試合をやったんですよ。はじめ1ラウンドは勝ってたんですけど、次のラウンドになったら足がもつれてきて、本当にノックダウンされて、ピクリとも動かなくなったんです。そのとき、純と螢が雪子おばさん(竹下景子)と一緒に見ているリアクションも同時に撮ってますので、彼らの顔は本当に蒼白になってるんです」

ここまでリアルにこだわる理由を、杉田監督は「『大きなウソをついても小さなウソはつくな』って言われるんです。もともとフィクションだから、それをリアルに感じさせるためには、細かいディテールが本当じゃなきゃダメだってことなんですね」と話す。

  • (左から)吉岡秀隆、田中邦衛、中嶋朋子 (C)フジテレビジョン

■蛍原「そのままですやん!」

また、演者の実生活の現状とリンクさせるようなエピソードを物語に入れることで、演技に気持ちを乗せるのが、倉本脚本の特徴だという。

『’87初恋』では、純の初恋相手・れい(横山めぐみ)が置いていったカセットテープを聴くと、尾崎豊の「I Love You」が流れる。蛍原がこの選曲について聞くと、杉田監督は「倉本さんが純のお母さんに電話して『最近どんな歌聴いてる?』って聞いたら尾崎豊だと言うので、台本に『尾崎豊』ってだけ書いてあったんです。それで、純に言ったら、『(当時)レコードには出てないんですけど、必ずライブの最後にやるのがあるんです』って言うんで聴いたのが『I Love You』という曲で」と明かした。

『’89帰郷』で、純が「俺は不良じゃない!」電柱を叩くシーンは、「それも倉本さんが電話取材して、お父さんに怒られて、外に飛び出して電柱を叩いて血だらけになったという話を聞いて…」といい、蛍原は「そのままですやん!」と驚がく。

『’95秘密』で、医師と不倫し、駆け落ちした螢。「そのとき、中嶋朋子が『螢はもう嫌だ』って言ってて。女優をやっていきたい気持ちがあって、螢のイメージから離れようと思ったらしくて、雑誌のグラビアで網目のタイツなんか履いてる写真が載ったんです。それをみんなで見ながら『これですよ、これ!』って言って、(緒形)直人と純愛って感じじゃないですよねっていうところから、不倫になっちゃったんです」。