積水ハウスが始めた新しいスマートホーム

日本の住宅メーカー大手、積水ハウスも動きを見せました。2019年のCESにおいて、人生100年時代を踏まえた「プラットフォームハウス構想」を提唱した積水ハウス。「わが家を世界一幸せな場所にする」というコンセプトのもと、生活習慣やライフスタイルをさまざまなセンサーで取得する仕組みを開発しています。

  • 2019年に続き、2年目のCES出展となった積水ハウス

積水ハウスの仲井嘉浩代表取締役社長は、積水ハウスが2020年に60周年を迎えること、同時に第3フェーズとして新生・積水ハウスがスタートする年だと位置づけています。

1960年から1990年までの30年間、積水ハウスは住宅の耐火性や耐震性といった安心安全を高め、住む人の生命や財産を守ることに力を入れてきました。そして、1990年から2020までの30年間は、断熱性やゼロエネルギー住宅、お年寄りから子どもまでに優しいユニバーサルデザイン、快適性を追求してきました。そしてこれからの30年で目指すのは、「人生100年時代の幸せ」(仲井氏)とします。

  • 積水ハウスが重視したR&Dの歴史。30年ごとに変わっています

この幸せを実現するのが「プラットフォームハウス」です。積水ハウスでは、幸せを「健康」「つながり」「学び」の3つに分類。住宅から取得した、住環境データやライフスタイルデータと組み合わせることで、3つの幸せにつながるサービスを用意していくとしています。

最も力を入れているのが「健康」への対応。「健康は、急性疾患対応・経時変化・予防の3つに分けられます。急性疾患対応としては、自宅で発生した脳卒中や心疾患などの早期発見、緊急対応できる仕組みを考えています。経時変化としては、高血圧や無呼吸症候群などを対象に生体モニタリングして、病気の予兆の早期発見をサポートします。そして、睡眠や食事のデータをベースに健康に関するアドバイスを行います」(仲井氏)

例えば、日本では年間29万人が脳卒中を患っており、そのうち79%が自宅で発症しているそうです。現在、脳卒中には発症から4.5時間以内に使える治療薬があり、投薬によって後遺症が発生しにくくなります。この治療薬を使うためにも、早期発見が重要なのです。

脳卒中のほか、心疾患や事故(転倒など)も加えると、家庭内での死亡者数は年間7万人を超えるとのこと。命を取り留めたとしても、介護の問題が発生することも多いのです。少し話がそれますが、日本では就業者の5人に1人(約1,300万人)が隠れ介護をしているといわれており、それらが現役世代の介護離職にもつながっているそうです。

  • 「在宅時急性疾患早期対応ネットワークHED-Net」について説明する積水ハウスの仲井社長

日本が速いペースで超高齢化社会を迎えるからこそ、世界的な課題でもある健康や介護を解決する必要があると仲井社長は語ります。そこで今回、新たに発表されたのがプラットフォームハウス構想の第1弾「在宅時急性疾患早期対応ネットワークHED-Net」です。

概要ですが、住む人のバイタルデータを非接触で取得し、異常を検知すると緊急通報センターが本人に確認。連絡が取れない場合は救急隊に出動を要請して、遠隔操作で玄関のロックを解除、救急隊を家に招き入れるという仕組みです。

積水ハウスでは、住宅を購入した50戸を対象として、「HED-Net」を実住宅に設置するパイロットプロジェクトをスタートします。積水ハウス プラットフォームハウス推進部長の石井正義氏は、「プライバシーの観点やストレスフリーのために、カメラやウェアラブル端末などは一切使用せず、今まで通りの生活をしてもらうことにこだわりました」と話します。

  • 天井などに設置する非接触型のセンサー。室内の動きを細かく検知します

「HED-Net」では、天井などに取り付けたセンサーが心拍や呼吸など、非常に細かな動きを取得できるそうです。とはいえ、人によって寝る姿勢はさまざまですし、寝るときは布団をかぶっていますよね。室内には複数の人がいたり、人間以外にもペットやモノの動きがあったりします。

より精密なデータを取得するために積水ハウスは、非接触型センサーで取得したデータを独自のアルゴリズムで分析することで、心拍数や呼吸数を抽出。合わせて、住まいの暮らしに合わせた状況判断を行い、異常を判断するとしています。

キモとなるアルゴリズムは、慶應義塾大学 理工学部の大槻知明教授と協業して開発を続けているそうです。「どれくらいの身体異常で緊急連絡を行うかという、判断基準を作ることも大きなテーマと考えて取り組んでいます」(石井氏)

  • 「2020年に生活者参加型パイロットプロジェクトを開始」(積水ハウスの石井氏)

積水ハウスが2019年に発表した「プラットフォームハウス構想」は、ラボや実験棟でのさまざまな実証実験を経て、2020年6年からは実住宅での生活者参加型パイロットプロジェクトへと向かいます。非接触型センサーなどにかかる費用の約100万円相当と、月額の利用料金は、積水ハウスが負担します。

  • 体調の経時変化や病気の予防だけでなく、「つながり」「学び」のサービスも随時発表していくといいます

今回発表された「HED-Net」は、急性疾患対応のためのプラットフォーム。積水ハウスでは今後、「体調の経時変化」や「予防」に向けたサービスの開発も進め、完成しだい住宅にインストールしていく考えです。病気を「わが家」がいち早く見つけて対応してくれる――新しいスマートホームが生まれようとしています。