――パ出身者のメジャーリーガーには、昨年引退したイチロー氏も該当します。イチロー氏はそこまで大柄ではないですが、あそこまでの結果を残せたのはなぜでしょうか。

イチローは日本時代の通算打率が.353なんですよ。日本では短距離ヒッターでは全然なく、パワーはマックスからは少し落ちますが、その他すべては100点以上の存在でした。しかも怪我をしない。

そんな選手が、メジャーに行ったらホームランを捨てて、ひたすらヒットにこだわったわけじゃないですか。日本での最後の方はクリーンナップを打つことも多く、あまり盗塁をしなくなったんですが、メジャーでは1番打者として盗塁数も増やしました。1番バッターに徹して、自分のやれることを最大化した人ですね。向こうで求められている、やれることを遂行してやり切った。

――1番打者としての役割に専念したんですね。

ただ、もし全盛期がもう10年ずれていたら、ホームランを狙って意外と打っていたかもしれないです。打率3割1分~2分くらいで、25本くらいとかは全然やれたと思います。

イチローがメジャーに行った当時は今よりもボールが飛ばなかったこともあって、沈むボールを上げにいかないで、ゴロになるように打って、内野安打も稼いでました。内野安打も運と思わない方が良くて、イチロークラスになると結構狙ってやっていたところもあります。

そして、イチローが長年所属していたマリナーズは弱かったわけですが、もしイチローが強豪チームの2番とか9番を打っていたら、すごく嫌な存在だったろうなと。ヤンキースにトレードで行ったときは正直、全盛期はすぎていました。もし全盛期にヤンキースやレッドソックスに入っていたら、周りがホームラン打者ばかりの中、かなり良い働きしたんじゃないのかと思います。

――引退会見では「頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」と発言してましたが、それについてはどう捉えていますか。

本人とはもちろん話していないので、想像でしかないですが…。イチローがよく言っているのは「自分でいろいろ試行錯誤しないといけない」ということですが、現在は狙うべき打球の角度とか、最初から最適な答えが出ていて、なにも考えずに最初からそれをやればいいとなっちゃってます。「それもどうなのか」とおそらくイチローも言っているのかなと思います。

■山口・筒香・秋山はメジャーで通用するのか

――今シーズンから新たに、山口俊投手、筒香嘉智選手、秋山翔吾選手がメジャーリーグでプレーします。それぞれの選手についての印象をお聞かせください。

山口はプレミア12では打たれましたが、落ちるボールがあるし、体も大きい。メジャーで活躍できる要素を兼ね備えた存在です。山口を評すると、ストレートはそんなに良くないですが、フォークがめちゃくちゃ良い。バッター有利のカウントでも、そこからめちゃくちゃ精度の高いフォークを投げ切れます。

先発で圧倒的にできるかといったら、おそらくそうではないんですが、先発4,5番手くらい、もし漏れても経験がありますからリリーフで起用されるのではないでしょうか。岩隈のようにトレーニングとケアでスピードが上がり、先発に定着できる可能性も十分にあります。

――その一方で近年、日本人投手に比べて、日本人野手はなかなか結果を残せていない印象です。

そうなんですよね。日本のピッチャーのリズムは、他の国とちょっと違うんです。日本のピッチャーは溜めがあり、「1、2~の3」で投げる。向こうのピッチャーはクイックみたいに、「1、2、3」でいきなり来るイメージです。だからある意味、ピッチャーはそのままやれば、向こうとは違うリズムだし、通用しやすいんです。

バッターはその逆。大谷(翔平)が1年目のオープン戦で打てなかったのはまさにそこで、足を上げすぎて打ち出すのが遅れていたからです。

――そういった意味では、筒香、秋山両選手はいかがでしょうか。

筒香は日本でもストレートに少し押されていたタイプです。ピッチャー論をまとめるとストレートが1番打ちやすいボールなので、強打者ほどストレートの比率は下がるんですが、筒香はストレートを投げられる割合が高い。

ただ、これもタイミングの取り方の問題で、筒香はトップに入るタイミングが遅いんですよ。始動を早めて最初からすぐ打ち出せる状態をつくれば、全然チャンスがあります。逆方向への飛距離や技術もありますし、パワーはまったく問題ないですから。

秋山は対応力で言うと、バッティングに関してはそのままである程度打てるのではないでしょうか。ただ今年32歳で、守備力や走力が落ち始めている感は否めない。今のメジャーは年をとった選手には金を出さなくなっています。筒香は28歳だし、ちょっとした修正で全然やれるでしょという判断で、秋山よりも早く移籍が決まったのかなと思います。

――最後に、今後メジャーでのプレーを見たい日本人選手をお聞かせください。

野手でいうと、鈴木誠也ですね。プレミア12でも爆発したし、間違いないかなと。ピッチャーでいうと、有原(航平)や千賀ですね。体が大きくて、球が速くて良いフォークを投げられる投手は通用するのではと思います。

■お股ニキ
様々なデータ分析や鋭い視点と感性に基づき、新しい野球の見方を提供する“プロウト(プロの素人)”評論家。ダルビッシュ有投手がその眼力を認めるなど、現役プロ野球選手からも信頼を得ている。2019年には、『セイバーメトリクスの落とし穴』(光文社新書)、なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか(宝島社新書)を出版した。