■ダサい自分も気にしない
――先程、監督とは意見が違う部分もあったとおっしゃっていましたが。
正直、監督の言っていることが、理解できるまで時間がかかったというか、「どうしてこの演出なんだろう?」と思うシーンもあって。おそらくは脚本のまんまやると、トーンが重くなるから、そこで主人公の遼一の言動で少し雰囲気を軽めにしたら、映画全体のトーンが明るくなるという意図があったのかなとか、後から気づくようなことはありましたね。やっぱり、出る側の人間、作る側の人間の考え方の違いが出てきますし、だけど最終決定権は監督にあるので、そこで僕らはどう立ち回れるか、それが役者だと思っています。もちろん譲れない部分はお互いにありましたが、でも最終的には監督に任せます!
――そして、この映画の魅力として、山田さんや芳根さんの話す広島弁もあると思うんです。広島弁をマスターするためにどのような努力をされましたか?
努力というか、セリフのデモ音源というか、広島弁のセリフを話している音声を聴いて、ひたすら耳で覚えていました。広島弁は馴染みがないので、イントネーションはとくに難しかったので、芳根ちゃんと一緒に頑張りました。
――ちなみに、広島弁のセリフの中で、お気に入りのフレーズはありますか?
フレーズというか、女の子の話す広島弁はかわいいですよね。語尾が「じゃ」になるところが特に(笑)。
――この作品は、タイトルの通り「記憶」が重要なテーマになっています。忘れたいほど辛い記憶を消す記憶屋を追う遼一は、「どんな記憶でも忘れてほしくない」という立場ですが、山田さんご自身はどうお考えですか?
僕も遼一と同じく、忘れてはいけないと考えます。遼一のセリフにもありましたが、「誰かがまた思い出させてくれる」はずです。現実では記憶を消すことはできませんし、楽しい思い出は、別の楽しい思い出で上書きされていくこともあるけど、辛い思い出は楽しい思い出でもかき消すことはできませんし。それなら、辛い記憶を、きちんと見つめて生きていったほうが、強くなれるんじゃないか。僕自身、過去を振り返るのはあまり好きなタイプではないけど、過去の自分が今の自分を構築しているのは確かなので、そこは大切にしたほうがいいと思っています。
――恋人・杏子の消された記憶を取り戻そうと遼一は奔走するわけですが、当の杏子からは警戒されてしまいますし、幼馴染の真希も非協力的です。そんな逆境の中、もしご自身が同じ立場だったら、遼一のように負けずに頑張ることができると考えますか?
僕は……そこまで出来ないかもしれないですね。途中で諦めるというか、最後まで探ろうとはしないかもしれない。だったら自分の力でもう一度振り向かせて、新しい思い出を増やしていこうと考えるかもしれない。
――ちなみに、山田さんが「あの人の記憶を消したい」と考えたことは?
あんまりないですね。
――ではきっと皆の記憶の中では、常にかっこいい山田さんなんですね。
そんなことはないと思いますよ。ものすごいダサい自分もいますけど、そこは気にしないタイプ。失態もたくさんあるんでしょうけど、「人の中にある自分」についての記憶に関しては、あんまり執着してないかもしれないですね。「どうぞご自由に」というか(笑)。覚えてるならそれでいいし、覚えていないならそれで。
――山田さん自身、これまで10年以上アイドルとして、俳優として一線で活躍してきました。それは努力なしでは成し得ないことだと思います。どのようなモチベーションで活動をされているのでしょうか。
自分のためといえば、自分のためです。けれど、僕はここ(芸能界)でしか生きていくことができないだろうなという確信があるので。この仕事がダメになったら、生きていけないくらいの感覚でいるんです。もしかしたら実際そうなれば、なんとかなるのかもしれないけど、でも人生の半分以上ここにいるわけだから、何していいかわからなくなるだろうし、10歳からここにいるわけで、自分の人生の一部になっているからこそ、僕は腹をくくってやっています。それに、求められたら応えたくなる性分で、僕らの仕事は「求められること」が多いじゃないですか。そうやって応援してくれるファンの人がいるので、頑張ろうと思えます。
――最後に、この『記憶屋 あなたを忘れない』について、コメントをお願いします。
ひとりひとりのキャラクターが立っているので、どの人物にフォーカスを当てるかで、かなり印象が変わってくるというか。お子さんがいらっしゃる方なら、佐々木蔵之介さん演じる高原にすごく共感されるかもしれないですし、恋人のいる方なら、遼一や真希にフォーカスを合わせてみたりとか。普段、自分や周りの人の過去をじっくりと考える機会って少ないと思うんですが、この映画を通して考えて、その時間を大切にしてほしいですね。世代、年齢問わず楽しんでいただける作品だと思います。この作品には「あなたを忘れない」というサブタイトルがついているじゃないですか。鑑賞後にこの言葉の意味が分かるはずです。そんな、ラブストーリー、ヒューマンストーリーというか、人と人とのつながりの大切さが色濃く出ている作品ですね。
■山田涼介
1993年5月9日生まれ、東京都出身。2007年、Hey! Say! JUMPのメンバーとして「Ultra Music Power」でメジャーデビュー。以降、TVドラマへの出演や歌手活動などを精力的にこなす。映画では15年『映画 暗殺教室』で初出演にして初主演を果たし、第39回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。他に、『グラスホッパー』(15)、『暗殺教室-卒業編-』(16)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17)、『鋼の錬金術師』(18)に出演。公開待機作に『燃えよ剣』がある。
(C)2020「記憶屋」製作委員会