インテルの鈴木国正社長は、日本における「データデバイド」の顕在化を懸念する。「データの利活用によって、ビジネス成果を十分に得ている日本の企業はわずか3%に留まっている。かつて、コンシューマの領域で、デジタルデバイドが起きたように、これからは企業におけるデータデバイドが発生し、企業格差が起こることになる」と危機感を募らせる。そして、「インテルの役割は、データデバイドに陥る企業を少しでも減らすことにある」と語る。これが、今後、インテルが日本で取り組む重点課題のひとつになる。そこで、インテルの鈴木社長に、2020年に取り組みについて聞いた。
鈴木社長が、2018年11月に、インテルの社長に就任して1年以上が経過しました。この1年、どんなことに取り組んできましたか?
鈴木:世の中では、デジタルトランスフォーメーションという言葉が頻繁に使われ、テクノロジーによって社会が変わるという大きな変革期を迎えています。エキサイティングであり、重要な時間軸ともいえるタイミングに、その領域におけるキープレーヤーであるインテルに入ることができ、私自身、充実した時間を過ごすことができた1年でした。
この1年の取り組みのなかで改めて感じたのは、インテルのブランド力と信用力の高さに加えて、インテルはバイアスが低く、中立性を持った企業であるという点です。この立場を持つ企業は、極めてユニークなものです。
ご存じのようにインテルは半導体メーカーであり、半導体をOEMやODMに納めているわけですが、それとは別に、企業や研究機関、官公庁などのあらゆる方々と話をする機会がある会社です。そして、インテルという会社は産業の変革が起きたり、産業が成長すれば、それに伴ってお手伝いできる場が増えるという特徴を持っています。単に半導体を売るというのではなく、人と人、企業と企業をマッチメイキングしたり、インテルが持っているグローバルの知見や情報をシェアするといった観点でも、世の中に貢献することができる企業です。それは多くの人が感じてくれている点だといえます。産業が伸張し、崖を乗り越えていくときに、インテルの役割が発揮される場面が増えるわけです。
2019年を振り返ると、私自身が中心になってメッセージを発信したイベントは、年間35回を超えました。また、100人を超えるエグゼクティブと、しっかりと時間をとって話をすることができました。これにインテルの幹部社員による情報発信や面談を足すと、さらに数が増えることになります。こうした活動は、インテルにとって重要なものだといえます。
もうひとつの新たな取り組みは、2019年1月にタスクフォースをキックオフし、新しいビジネス機会の創出に挑んだことです。ちょうど1年を経過したわけですが、2019年7月には、この取り組みをベースにした組織変更を行い、コーポレート戦略チームを新設し、現場でビジネスを行う組織に落とし込み、実行するところまできました。コーポレート戦略チームは、戦略を作る部門ではなく、戦略をコーディネーションすることが役割で、戦略を作ったり、実行するのは現場の組織の役割になります。
この一連の取り組みを、「IJKK(=インテルジャパン株式会社) 1.0」と呼んでいます。これまでのインテルジャパンは、短期的な視点で仕事をするケースがどうしても多くなりがちでした。IJKK 1.0は日常の業務とは別に、日本における2~3年先の新たなビジネス機会の創出を狙うものです。
具体的にはどんな取り組みをしましたか?
鈴木:延べ100人ほどの社員が参加し、3つの観点から取り組みました。
ひとつは、産業や交通、エネルギーのほか、ゲーム業界などのコンシューマといった「バーティカル」への取り組みです。業界を絞り込み、それぞれの業界に対して、日本法人としてどう発信をしていくかということを考えました。
2つめは、「テクノロジーイネーブラー」として、AIや5Gといった新たなテクノロジーの視点から、インテルはどんなことができるのかということを模索する活動です。
そして3つめは、「パートナー」。OEMパートナーやディストリビューションパートナーといったビジネスパートナーと中期に寄り添う形で、インテルとして、どんな貢献できるのかといった観点からの取り組みです。
もちろん、これらの活動においては、成果を推し量る指標として数値目標も設定していますが、数字での貢献は2~3年先のことですから、まずは質のいいプロジェクトを見極めることを重視しています。2020年~2021年にかけて、10から20ぐらいの具体的なプロジェクトが走ればいいと思っています。
この取り組みは、社内にどんな変化をもたらしていますか?
鈴木:これはインテルジャパンそのものを変える取り組みのひとつです。これまでできていなかった中期的な視点を持つこと、そして、タスクフォースを当たり前にし、組織横断型の動き方を当たり前にすることを狙っています。これまでにも、中期的な視点を持ったり、組織横断型で仕事することが当たり前のように実行している社員はいましたし、そうした仕事の仕方をしたいと考えていた人たちも多かったのですが、その一方で、どうしても目の前の仕事が中心になり、なかなか本気になってそこに踏み出せていないという社員もいました。そこで、社員が中期的な視点を持つこと、横の組織との連携を図ることを、「標準」の活動として根づかせることに取り組んだわけです。まだまだ成果は道半ばですが、いいスタートは切れたと思っています。