強いだけではプロゲーマーを続けられない

――では、今度は仕事についてお聞かせください。まずは2019年の成果はいかがでしたか。また、2018年、2019年とeスポーツシーンが大きな盛り上がりを見せましたが、どんな印象を持ちましたか。

ときど:2019年は結構いい点数をつけられるんじゃないですかね。いい取り組みができて、いい結果を出せたと思います。2019年1月にはプロゲーミングチーム「Echo Fox」との契約が終わりましたが、そのあとすぐに「ロートZ」と契約させていただけました。

eスポーツへの注目度に関しては「すごい!」のひと言ですね。僕が最初にプロ契約したころにも、ある程度の波はくるんじゃないかと思っていましたが、それを超える勢いでeスポーツが浸透しつつある印象です。

――勢いのすごさはありますが、まだ定着しているとは言いがたく、いつ縮小に転じてしまうかもわかりません。『努力2.0』では、「ときどを通して、『格闘ゲームっていいもんだな』と伝えたい」と書かれていますが、具体的な活動はされていますか。また、ときど選手以外でもそのような考えのプロゲーマーはいますか?

ときど:僕の周りはベテラン選手が多いので、eスポーツ業界をもっと盛り上げていきたいと考えている人も多いのではないでしょうか。いまのeスポーツの状況は、プレイヤーだけで作ったものではなく、メディアやライト層の人々に注目してもらえた結果でもあります。

プレイヤーとしてただ勝ち続けるだけでは、世間からの関心が下がってしまったときに、きっと歯止めをかけられない。そうなれば、プロゲーマーとしての活動を続けられなくなってしまいますし、「あのとき、もっと積極的にeスポーツを盛り上げていれば。何かしていれば」と、後悔すると思うんです。

僕もいままでは、どちらかというと「勝率を上げることこそがプロだろ」と考えていました。ですが、最近になって「その考えは“究極のアマチュアプレイヤー”だな」と思うようになりましたね。強いだけではプロじゃないですよ。いまの状況に乗っかっているだけではなく、eスポーツ業界の盛り上がりに貢献できてこそのプロ。自分がゲーマーとしての活動を続けていくためにも必要なことなんじゃないでしょうか。

すでに定着したメジャーなスポーツであれば、自分の成績、チームの成績のことだけを考えてプレイすればいいのかもしれませんが、ことeスポーツ、格闘ゲーム『ストリートファイターV』に関しては、まだそこまで到達していません。プレイヤー自身が多くの人に注目してもらえるように、もっと発信していかなければならないと思います。

以前はプレイとの両立が難しいと思っていたので、テレビのお仕事はお断りすることが多かったのですが、最近はメディアでの情報発信にも力を入れています。「メディアの仕事もちゃんとやって、プレイもしっかりする」、それが本当のプロフェッショナルなんだと、自分で言い聞かせてます。

  • 「勝つだけではプロじゃない」と語るときど選手

――『努力2.0』では、自分の部屋をできるだけシンプルにして、あえて居心地がいい状態にはしないと書かれていました。最近『ストリートファイターV』界隈では、結婚や出産の話題も注目されましたが、ときど選手が家族を持った場合に、その状態は維持できると思いますか?

ときど:プロゲーマーが結婚する最近の風潮はいいですよね。僕も毎年、「今年こそ結婚する」って公言しているんですけど、まったくできなくて。僕も34歳ですし、本当にがんばりたいんですが……。いまの僕にとって一番難しい話なのかもしれません。家の環境も少しずつ変えていく必要があるんでしょうけど、それ以前に、まずどう仲良くしていくのか、そういうところから改善していかないとダメでしょうね。

これまでは「将来どうなるかわからないゲーマーが、結婚なんてしていいの?」みたいな考えもあって、今もないわけではないんです。でも、状況も変わってきてますし、そういう古い考えは断ち切りたいですね。2020年こそは! ご期待ください(笑)。

――2019年を振り返ってみて、ときど選手の「ベストバウト」がありましたら教えてください。

ときど:ベストというか印象的だったのが、直近の試合ですね。時間切れで負けてしまった「Capcom Cup 2019」のPhenom選手戦。最初は2 - 0で勝っていたんですが、そこから逆転負けしてしまいました。

あれは本当に悔やまれます。試合の流れもそうでしたし、勝負を決めにいけなかった。安全を優先してしまったがゆえの敗北ですから。それって、『努力2.0』では「やるなっ!」て書いてあるんです。でも、怖くなってしまったんですね。やはり難しいんですよ、常にチャレンジャーでいることは。

自分の試合以外だと、「Capcom Cup 2019」は、どれも観ていておもしろかったですね。グランドファイナルもすごかったです。印象的でした。

――最後に2020年の目標を教えてください。

ときど:「格闘ゲームの魅力を多くの人に伝えていく」という長期的な目標を達成するために、2020年は、ファンサービスを充実させたいですね。自分の強さを突き詰めるのはもちろんですが、応援してくださるファンに、何らかの形で応えられるようにしたいと考えています。

『努力2.0』のサイン本お渡し会をやったんですけど、予想以上の方に来ていただきまして、ありがたいなって思いました。何十分もお待たせして、1分くらいしかお話できなかったので、もうちょっと交流できるイベントなどをしたいですね。スポンサーさんに提案できることもあると思うので。

あと、若手との交流も増やして、仲良くなっていきたいと思っています。この業界を背負っていける頼もしい味方を増やしていきたいですからね。

――ありがとうございました!