東大卒プロゲーマーとして、eスポーツ業界のみならず、多方面から注目を集めるときど選手。格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズを中心に活躍しており、世界最大の格闘ゲーム大会「EVO 2017」優勝、「EVO 2018」準優勝をはじめ、カプコンプロツアーの世界決勝大会「Capcom Cup 2019」5位など、世界大会でかなりの好成績を残しています。
2019年12月5日には、「東大に受かる努力では、もう勝てない」という衝撃的な帯をひっさげ、ビジネス書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ダイヤモンド社)を出版しました。発売後1週間もしないうちに発行部数が3万部を突破し、重版も決まったそうです。
そこで、『努力2.0』を執筆したときど選手に、出版の経緯やいまのeスポーツに感じていること、2020年の目標など、お話を伺いました。
「努力2.0」は小さなトライアンドエラーの積み重ねの結果
――早速ですが、『努力2.0』を執筆されたきっかけを教えてください。
ときど選手(以下ときど):ダイヤモンド社の編集部からお話をいただいたのがきっかけです。ただ、もう3年くらい前ですかね。
当時はまだ、自分なりのやり方を確立できていたわけではありませんでした。新しい方法論を実践して、プロゲーマーとしての結果を出せてきた段階で、その方法論に関する本を出版することに決めたんです。さまざまな取り組みに挑戦しながら、同時進行で執筆を進めました。
なので、最初からビジネス書にすると決まっていたわけでもないんです。編集部にアドバイスをもらいつつ、僕の意見や取り組みをうまく伝えるにはどんなコンセプトにすればいいか考えた結果、ビジネスパーソン向けの『努力2.0』が完成しました。僕1人じゃ無理でしたね。上手にまとめていただいて、ありがたかったです。
――『努力2.0』はビジネス書の位置づけですが、どんな人に読んでほしいですか。
ときど:何かに行き詰まっている人に読んでほしいですね。本に書いてあることがすべてあてはまって、すぐに困難を打破できるようになるとは思っていませんが、1つでもひっかかってくれて、何かしら解決の糸口になればうれしいです。
ビジネス書とはいえ、僕の仕事は特殊なので、ビジネスパーソンにちゃんと伝わるのか不安でしたが、ダイヤモンドオンラインの本の紹介記事で反響があったようなので安心しました。あ、あと、僕のことを知っているゲーマーには読んでほしいですね。
――「努力」という言葉は、世の中で便利に使われがちです。本書に書かれている「努力1.0」のような、効率や効果を考えずひたすら頑張ることが良しとされるなかで、「努力2.0」はどのようなシーンに浸透してほしいと思いますか?
ときど:僕の場合、eスポーツの環境変化によって、勝ちにこだわり、がむしゃらに取り組む「努力1.0」では勝てなくなったため、新しい方法論である「努力2.0」が必要になりました。何かに行き詰まっているのでなければ、無理に「努力2.0」を導入する必要はないと思います。
また、以前の取り組みをガラリと変えて「努力2.0」にたどり着いた印象を持たれるかもしれませんが、そうではありません。これまでのやり方を少しずつ変えていって、ダメならまた違う方法を探していくイメージです。もちろんガラッと変える場面もありますが。
新しいやり方は「結局ダメ」なことのほうが多いので、とにかくやってみることが重要。ダメだったからといって時間が無駄になるわけではありません。「これがダメだったから、次はこっちを試してみよう」と思えるからです。とにかくトライアンドエラーの繰り返しですね。
――これまでの方法が通用しなくなったのはなぜだと思いますか?
ときど:いまの『ストリートファイターV』の場合、年に何回もアップデートしますが、かつて格闘ゲームが主流だったゲームセンターでは、1年くらいしないと改良版や新作がリリースされませんでした。なので、早い段階で有効な戦い方を見つけて、それを駆使すれば、大抵は勝てたんですよ。そして、みんながそのやり方を真似しはじめるころには、次のゲームが出る。また当時は、練習に時間をかければ勝てることが多かったんですが、それは僕以上に時間をかける人がいなかったからなんです。
環境が変わって、先行逃げ切りができない状況になったとき、勝てなくなりました。僕以上に時間をかけて練習する人も増えてきたので、今度は質的な取り組みが必要になったんです。それが「努力2.0」ですね。
本書で書かれている「努力2.0」は、変化に対応できる方法論です。eスポーツの世界には「こうすれば勝てる」という方程式は存在しません。勝利だけを見るのではなく「負け」のなかから成長のヒントを探したり、情熱だけで乗り切ろうとせずメンタルに負荷をかけないよう心がけたり、嫌なことはやらなかったりするという内容です。
――本書はときど選手の経験をもとに書かれたものですが、自身の考えや経験を若手プロゲーマーに伝えることはあるのでしょうか。
ときど:あまり後進の指導はしていないんですよ。やろうと思っても、やるなって言われるんです。怖いから。あまり厳しくすると、教わった人がゲームをやめちゃうからって。
ある程度格闘ゲームが強い人へのアドバイスはかなり踏み込んだものになるので、そこには信頼関係が必要だと思います。ゲームをはじめたばかりの若手にいきなり僕の考えを伝えていくのは違うのかなと。
ただ、本書で触れたプロゲーマーのりゅうせい選手くらいやる気のある若手であれば、言葉で伝えていきたいと思います。毎日、練習会で顔を合わせますし、ガンガン食らいついてきますからね。「俺にはゲームの道しかない」という熱意が伝わってくるんです。
――「努力2.0」では、「嫌なことはやらない」ことの良さを伝えるとともに、「好きではなくても、やらないといけないこともある」とも書かれています。この見極めはどのようにされていますか?
ときど:これもやってみるのが一番だと思います。僕は生活のなかで「何だか気が進まないな」と感じたことは、やらないようにしています。その反面で「自分の通信簿をつける」「ジムに行く」「空手に通う」なんかは長く続いてます。
ただ、これらも「やりたいことか」と聞かれたら、そうではないでしょうね。例えば、ジムに通うのは、筋トレをしないと遠征に耐えられる体ができないので続けています。僕は基本的に面倒くさがりですし、空手やジムに行くのも億劫。ジムで限界まで追い込むと、正直「もうやりたくない」って思いますよ。
「絶対嫌だ」と思うことは続けられないんですが、やらなければならないことが多いのも事実で、まずはうまくやれる方法がないか試してみますね。ある程度続けてみて、「どうしても嫌だ」と思ったら、引きずらずに次のことをやります。