レッドハットとの関係、クラウドベンダーとしての立ち位置

--レッドハットとの協業関係は、どのようにお考えですか?

山口氏:もともと当社では、Linuxも含めてオープンソースコミュニティに大きくコミットし、近しい関係のため違和感なく、協業できています。

また、クラウド、コンテナ、マイクロサービスという方向性が明確になったことに加え、IBM自身の立ち位置としてはアプリケーションを一度構築すれば多様なプラットフォームで稼働可能な環境をお客さまに提供できるようになりました。

今後は、時代や市場環境の変化の中において、柔軟な環境を提供すべきだと考えており、お客さまと会話がしやすくなりました。すべてIBM製品で固めるのではなく、ユーザー視点で多様なソリューションを組み合わせてベストなものを提供できる環境を整え、そのための組織としてIBM Services Cloud Centerを設けています。

基幹システムや既存システムなどとの親和性を勘案しつつ、DXを推進していかなければならないことから、強みは継続して使い、弱い部分は改善し、業務の要件ごとに使い分け・組み合わせながら、次のステップを目指さなければならないと思います。

そういった意味では全体を俯瞰できるようになったと感じていますし、Kubernetesコンテナプラットフォームの「Red Hat OpenShift」はその一助となっています。

--AWSやAzure、GCPなど主要なパブリッククラウドの採用が進む中、IBMとしてどのようにビジネスを展開していくのでしょうか?

山口氏:これはプラットフォームだけでなく、全体を考える方が適切だと思います。と言うのもプラットフォームが重要だということもありますが、アプリケーションやデータなど幅広いのです。面白い点は、例えばクラウドであればAWSとAzure、Google Cloud Platform、Oracle、IBMだけの世界だけではなく、お客さまの観点からすれば全体を作り上げるものです。

もちろん、IBM Cloudはエンタープライズ向けの機能を提供し続けますし、メインフレームなども需要は強く、これは全体のDXの中で提供していくものです。お客さまの3~5年後の指針がどうあるべきか、ということを共同で考えてロードマップを作成し、適切なソリューションを選び、構築していくことを支援する立ち位置です。

近年では爆発的にITシステムが社会に浸透しつつあるため、業務アプリケーションだけでという世界だけではないことから、適材適所で協力し合い、よりよい社会をサポートするシステムにしなければならないと感じています。一方で社会の変革に必要とされるAIや量子コンピュータなどには大規模に投資しており、戦略が明確になっています。

--量子コンピュータに関しては、いかがでしょうか?

山口氏:量子コンピュータについては、慶応義塾大学に開設したJSR、三菱UFJ銀行、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカルなどが参画する「IBM Q Network Hub」を通じて、米ニューヨークのIBM Thomas J. Watson Research Centerの量子コンピュータにアクセスし、さまざまなことを検証しています。

実際に商用までの検討は進んでいると自負しており、17万人のユーザーが多面的な検証を繰り返しています。そのような意味では、商用前の段階から一般的に公開することで、量子コンピュータがどのように社会に役立つのかということを企業、大学などと共同で研究している状況です。このような取り組みの中心にいれることは非常に誇りに思います。

今後、社会が複雑かつ便利になるにつれて、多様な解析やデータ分析、考え方の整理などが必要となります。今後、ビットコンピュータ、量子コンピュータ、ニューロコンピュータが互いに補完し合う状況が想定されることから、投資、研究開発を継続していく方針(※)です。

※編集部注:インタビュー後に東京大学と量子コンピューティングの技術革新・実用化に向けたパートナーシップ構築を推進するために覚書の締結を発表している。