このような丁寧に撮られた美しい映像とは対照的に、スピーディでテンポの良いカット割りも中江監督の特徴の1つ。豊川悦司主演『危険な関係』(99年)で見せた“あるカット割り”は今でも鮮明に覚えているほど衝撃的だった。
同作はタクシー運転手の主人公が、御曹司となった同級生(石黒賢)を殺害し彼に成りすますというサスペンスだが、衝撃だったのは、その第1話の殺害シーン。主人公が運転するタクシーで、衝動的にひき殺してしまう瞬間の暗転(=黒バック)と、次の寿司屋の場面に映った醤油の“黒”とをつなぎ合わせたのだ。
その狙いを聞くと、「視聴者の方は当然脚本を読んでいないので、シーンが変わることなんて気にしてない。いかに面白く次のシーンをつなげて見せていけるか、シーンのつなぎ目、カットのつなぎ目、はすごく意識しますね。『危険な関係』は色々な画を試せたドラマで、すごく面白かったですね」と振り返った。
同じく『危険な関係』では、成りすましに気付いた秘書(篠原涼子)を絞殺し、自転車の後ろに乗せて死体を運ぶシーンも美しく印象的だ。死を迎える瞬間を足が“カクッ”と気力をなくすことで表現し、死体を運ぶ際にBGMで流れた「Over The Rainbow」(※)が意外性のある選曲だった。
(※)…1939年のミュージカル映画『オズの魔法使』で歌われた劇中歌のカバー曲。
「足が“カクッ”は、その後に続く、自転車で彼女を乗せて運ぶシーンで、足が“フラッ”と揺れて入ってくる、その篠原さんの白い足を印象づけたかったんだと思います。そのカットは最初から決めていたので。台本では『自転車で運んで行く』って2行くらいのシーンなんですけど、その自転車で運ぶシーンに『Over The Rainbow』をかけたかったから、1分半くらいのシーンになったと思います。このために作ったサントラ曲でしたし。あれは僕も美しいシーンだな、と思いました。画も音楽もすごく良かったですね」
また、『危険な関係』は、当時初めてタッグを組んだカメラマンが撮っていたというが、それもいい刺激になったのだそう。
「ある意味“天才”だったんですよ。いい画が撮れたら他のカットは忘れちゃうみたいなカメラマンで、作る画がすごく面白かったんです。こちらが想像しないような。そういう環境にも恵まれていると思います。僕だけの発想じゃなくて、カメラマンが撮りたい画だったり、照明のやりたい灯りだったり、美術のアイデアだったり色々組み合わさってできているんです。毎回そうですが、いろんな人の力があってでき上がっているんです」
■木村拓哉を思い浮かべて書かれた歌詞
『教場』と同じく木村主演&中江監督の名作と言えば『眠れる森』(98年、中山美穂とW主演)だ。このドラマはミステリー作家でもある野沢尚氏が脚本を務め、最終回の第12話で犯人が判明するという長編ミステリーを、日本のテレビドラマで初めて成功させたと言っていい作品。第1話からタイトルバックで流れていた主題歌(竹内まりや「カムフラージュ」)の歌詞と映像の中に、謎解きのヒントが散りばめられており、その答えが最終回に明かされるという仕掛けで当時大きな話題となった。
「『“あなたの好きなコーヒーと煙草の香り”って歌詞は木村君のことを思い浮かべてできた』と、まりやさんが仰っていた素晴らしい曲でした。野沢さんの脚本は、撮影に入るときにもう最後までプロットができていました。だから全員の“最期の画”を撮ろうと考えました。当時流行りのスーパースローVTRを駆使して、ミュージックビデオみたいな映像にしたくて作ったのがあのタイトルバックです。犯人1人だけ衣装を黒にして、最後の最後に仕掛けがわかるっていう風にしました。最後まで本ができていると作りやすいですよね。狙いをもって作れるので」
中江監督の作品は美しく撮られた映像のほかにも、カットとカットのつなぎ目や、制作スタッフもアッと驚かせる工夫がたっぷり仕掛けられている。今回の『教場』では、どんな映像と演出が見られるのか。細部にまで目を凝らして楽しみたい。
●中江 功
1963年生まれ。法政大学卒業後、88年にフジテレビジョン入社。これまで演出を手掛けた主な作品は『愛という名のもとに』『ひとつ屋根の下』『若者のすべて』『ピュア』『ギフト』『眠れる森』『空から降る一億の星』『Dr.コトー診療所』『プライド』『ようこそ、わが家へ』など。映画『冷静と情熱のあいだ』『シュガー&スパイス 風味絶佳』『ロック ~わんこの島~』の監督も務める。