◆AMD GPU
Radeon RX 5700シリーズ及びRadeon RX 5500シリーズをリリースして一段落したAMD。AMDの戦略はハイエンドよりメインストリームからというものである。ただ当然ここはコストに厳しいマーケットでもある訳で、性能と価格を秤に掛けながら構成を調整してゆく事になる。なので、「数倍お買い得」みたいな話には当然ならない。筆者の記事でも述べた通り、確かにAMDの想定する競合製品と比較すればアドバンテージはあるものの、「ならもう数千円~1万円ほど足して上のモデルを狙うのもアリだな」という層までフォローしきれない部分が残るのは致し方ないところだろうか。
さてそのAMDであるが、まず新年早々にRadeon RX 5600シリーズが出るのは間違いない模様だ。こちらはNAVI 10というかRadeon RX 5700のCut Downバージョンで、性能的にはまさにRadeon RX 5500と5700の丁度中間あたり。それこそGeForce GTX 1660 Tiあたりが競合という事になる。価格も恐らくGeForce GTX 1660 Tiに寄せたものになるだろう。その一方で何かと話題になるRadeon RX 5800/5900シリーズ、つまりGeForce RTX 2080 Super~GeForce RTX 2080 Tiと同クラスの製品だが、少なくともN7世代では登場しない模様だ。このあたりは次のRDNA 2(Photo26)世代に持ち越しになりそうだ。
理由はやはりダイサイズである(Photo27)。現在のNAVI 10が40CUで251平方mm(Photo28)だが、GeForce RTX 2080 Tiに拮抗する性能というと、最低でも56CUほど欲しい所である。ところがN7でこれをやると、300平方mm近いダイサイズに膨れ上がる(計算では282平方mmほど)事になる(Photo29)。一般論であるが、ArF液浸+マルチパターニングの7nm世代の生産コストは、14nm世代の倍というのが相場で、つまりN7を利用した282平方mmのダイの原価は、14nmで560平方mmクラスのダイに等しい。つまりVega 10のダイ(486平方mm)よりも15%ほど割高になる計算である。これはおそらく現在のAMDでは選択しないだろう。
これがN7+になるとなぜ可能か? といえば、先にProcessの所で説明した様に、まずエリアサイズが18%ほど削減できる(理論上は230平方mm程度:実際は240~250平方mmあたりに収まりそうだが)上、生産コストそのものも下がる(EUVを使う事で、Critical Layerのマスク枚数が大幅に削減できる。マスクが減るという事は露光→CMPの手間そのものが大幅に減るという話で、EUVを利用することによる露光コスト上昇を加味しても、トータルコストが下がる)から、240~250mm程度のダイサイズならば、恐らく現状のNAVI 10と同等か、下手をするとむしろ安く作れるかもしれない。
RNDA 2世代では全体的にCU数が増える形で提供されることになり、ここで初めて「現状の」GeForce RTXのハイエンドと肩を並べるというあたりだろう。ただ恐らくAMDは、現状のハイエンドは2020年後半~2021年にはメインストリーム扱いになる事を理解していると思われ、その2020年後半のメインストリーム向けにRDNA 2を提供してゆくと筆者は考えている。
現状まだ詳細は不明だが、恐らくはNAVI 20とNAVI 24とかで、NAVI 20が56CU、NAVI 24が32CUとかの構成なのではないかというのが筆者の見立てである。このあたりの製品は、2020年後半に投入されると思われる。
ところでNVIDIA同様、AMDもアーキテクチャが2つに分離する。というのは、HPCマーケットで要求されるComputationにRDNAが向いていない構成のためだ。ここには引き続きGCNが必要になる。要するにRadeon Instinct向けのコアは、引き続きGCNの延長で提供されると思われる。実際、CrayとAMDは共同で1.5 ExaflopsのスーパーコンピュータであるFrontierをORNLから受注したが、こちらは2021年中旬から納入を開始、2022年末から稼働を予定している。これに間に合わせるためには、2021年上旬にあたりに新しいGCNベースのRadeon Instinctが必要になる。恐らくこれはTSMCのN5を利用して製造されるものになると考えられる。こちらがコンシューマ向けに投入される可能性は0ではない(Radeon VIIの例もある)が、まぁ投入されたとしても数はそう多くないであろう。