さまざまな動画コンテンツの制作を手掛けているが、テレビ番組の制作と比べての変化を聞くと、「例えば、『海外のデベロッパー向けの動画を3分で作ってほしい』と言われるんです。『ザ・ノンフィクション』は1時間番組で『最初の30秒が勝負だ』なんて偉そうに言ってたのに、今は“最初の5秒が勝負”の世界ですからね(笑)」とカルチャーショックがあったそう。
さらに、「夜中に家に帰らず、公園にたまってる若者を取材したんですけど、『YouTuberです』って言ってカメラを回すと『YouTuberですか!』って親近感があるのか、すごく歓迎してくれるんです。テレビだったら『何撮ってるんですか?』って煙たがれるんですけど、全然リアクションが違うんですよ。その人たちがたまたまそうだったのかもしれないけど、外国人にも『Are you YouTuber?』って言われて、もう世界の共通言語になっちゃってるんですよね」と、取材のしやすさも感じているという。
動画のチェック(プレビュー)も、時間尺が短いため、「LINEで送られてきて、移動中に見れちゃいます」といい、「ものによっては、僕にいちいち確認を取らずにアップしてるものも。編集するディレクターも含めて、とにかく若い人たちの感性をどう輝かせるかというお手伝いをしているので、自分の価値を押し付けても仕方ないですから」という方針を掲げている。
■何度でもトライ&エラーできる世界
最近では、『ザ・ノンフィクション』のファンだという20~30代の放送作家がスタッフとして参加。動画のサムネイル画像や編集を担当するなど、若い世代との付き合いが増えたといい、「YouTubeはテレビとはあまりにも次元が違うので、この年齢になって大変な世界に足を踏み入れちゃったなって思ったりもしたんですけど、難しいながらも勉強のしがいがあって、やりがいを感じています」と充実の表情を見せた。
現在は、さまざまなYouTubeチャンネルを四六時中チェックして勉強しているそうで、「どんどん新しい人が出てくるので、何が当たるか分からないんです。テレビは一発やってコケたら、次は身構えて縮こまっちゃうけど、YouTubeの世界は何度でもトライ&エラーで繰り返しながらいろんなことができる」と魅力を熱弁する張江氏。そのため、制作する動画もジャンルを問わず、「面白いと思うことは何でもやっていく“全方位外交”」だ。
一方で、「再生回数が如実に分かってしまうというのは、自分の通信簿みたいなものなので、その緊張感があります。厳しい世界ですが、だからこそすごい世界だなとも思いました。根気がないとできないですよね」と気を引き締めている。
●張江泰之
1967年生まれ、北海道出身。中央大学卒業後、90年NHKに入局し、『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などを担当。05年フジテレビジョンに入社し、『とくダネ!』やゴールデン帯の特番などを制作、15年からは『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーを務めた。19年6月末で同局を退社し、動画制作会社「Hariver」を設立。