■3位:ピュアな高校生の生きづらさを描いた『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)

金子大地

金子大地

インパクトあるタイトルで誤解した人は多かったのではないか。アングラなコメディと思いきや、フタを開けてみたら、ピュアな高校生たちの苦く切ない青春ヒューマンドラマだった。

高校生の三浦紗枝(藤野涼子)はゲイであることを知らずに同じクラスの安藤純(金子大地)に恋心を募らせ、純は妻子のいる佐々木誠(谷原章介)と関係を持ちながらも、結婚して家庭を持つ普通の幸せに憧れ、迷いながらも紗枝との交際を決意する。

また、シングルマザーの安藤陽子(安藤玉恵)は息子・純がゲイであることを知らず、純とチャットでつながる同性愛者のファーレンハイト(声・小野賢章)は両親の理解を得られずに苦しみ自殺してしまう。

高校生の純と中年男の誠による濃厚なベッドシーンはボーイズラブのムードだが、決してそれだけをフィーチャーしたいわけではなく、純と紗枝のキスシーンも高校生同士ゆえのみずみずしさと背徳感であふれていた。

この作品が描こうとしていたのは、マイノリティとして生きることの難しさであり、苦しんだ先に見えるわずかな希望。ディープなマイノリティのゲイと、ライトなマイノリティの腐女子を出会わせ、心を通わせながら、それでも結ばれないことで、純の生きづらさが強調されていた。

同時期に放送された9位の『きのう何食べた?』もゲイの生きづらさを描いた作品だが、どのシーンにも深刻さはなく、食卓を囲むことで大半の問題はクリア。主人公2人の関係性が揺らぐことはなく、常に揺らぎっぱなしの当作とは真逆のスタンスだった。

もう1つふれておかなければいけないのは、金子大地と藤野涼子という鮮度抜群のキャスト。キャスティングの自由度が高いNHKならではだが、その若さあふれる演技が作品の苦く切ないムードを倍増していたのは間違いない。

■2位:バイオリンの音色とキャラクターの人生を同調させた『G線上のあなたと私』(TBS系)

波瑠

波瑠

「『大人のバイオリン教室』で出会った3人の絆と恋」というテーマを聞いたときは、まったく期待感を抱かなかった。ところが、いざはじまってみると、3人に親しみを感じ、応援せずにはいられない作品であることに気づかされた。

寿退社当日に婚約破棄されたアラサーで無職の小暮也映子(波瑠)、兄の元婚約者に恋心を募らせる大学生の加瀬理人(中川大志)、姑との関係に悩み夫に浮気される中年主婦の北河幸恵(松下由樹)。性別も性格も悩みもバラバラの3人が、バイオリンの練習を通じて少しずつ心を通わせていく物語は、昨今の連ドラが失いかけている連続性と、その素晴らしさを感じさせるものだった。

なかでも心を揺さぶられたのは、ぎこちないバイオリンの音色が、3人の関係性や悩みと同調していたこと。だからこそ、終盤にバイオリンの音色が少しだけなめらかになり、3人の絆が深まり、悩みも解消したシーンは、静かな作品ながら大きなカタルシスを生み出していた。

3人の悩みが誰にでも起こりうる等身大のもので、年齢なりのつらさを伴うものだったためか視聴率は低迷したが、見た人の満足度は総じて高かった。けれんみを重視してリアリティ度外視の作品が多い中、等身大の悩みを扱ったのだから見た人の共感を得られたのは当然かもしれない。

共感を得る上でもう1つ大きかったのは、也映子のキャラクター。つらい状況であるにも関わらず、どこかひょうひょうとしていて悲壮感はなく、無職のままバイオリンの練習に励み、ビールを飲み、カラオケを楽しみ、深刻になりきれない姿がむしろリアリティを感じさせたし、視聴者の心を軽くしていた。

当作の脚本を手がけた安達奈緒子は、今年当作だけでなく、『きのう何食べた?』、『サギデカ』(NHK)と3つのテレビ局で高品質かつ別ジャンルの作品を書き上げた。野木亜紀子とともに、今最も勢いのある脚本家と言えるだろう。

■1位:低視聴率でも唯一無二の名作として輝く『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)

  • 中村勘九郎

    中村勘九郎

  • 阿部サダヲ

    阿部サダヲ

記録的低視聴率や出演者の不祥事降板ばかり報じられていたが、ドラマの質とはまったくの無関係。文句なしで「2019年ナンバーワンドラマだった」と言えるし、「のちに評価される」という確信さえ持っている。

確かに主人公の知名度はないも同然だったし、落語シーンをどう見るか困ったし、時代が繰り返し行き来して混乱したのも事実。それらの批判は今なお収まっていないが、それらは挑戦したことや得たものの大きさと比べれば、微々たるものでしかない。

ほとんどの日本人が知らなかったオリンピックの歴史と、戦前・戦中・戦後の日本史をここまでしっかり描いたことだけでも希少価値は高く、一年間放送される大河ドラマだから実現できたことであり、大河ドラマにふさわしいものだったとも言える。

特に第2部は、人見絹枝(菅原小春)の激走、前畑秀子(上白石萌歌)の力泳、「東洋の魔女」ことバレーボール日本代表と大松博文監督(徳井義実)の絆など、歴史に残る女性アスリートの名場面が満載。彼女たちが知られざる悲しみや怒りを抱え、苦悩の果てに歓喜をつかみ取っていく姿はドラマティックであり、生き生きとした女性を描くのがうまい宮藤官九郎の真骨頂が見えた。

その他にも、スポーツの普及、政治の混乱、戦争の残酷さ、戦後の復興など多くのテーマを1つ1つ丁寧につむいでいたことも、「戦国時代や幕末の大河ドラマ以上に難易度の高い作品だったか」を証明している。終始、当時の日本人が持つ体温の高さを感じたともに、最終回で主人公が死なない大河ドラマとしての新鮮味もあった。

最後に「#いだてん最高じゃんねえ」のハッシュタグが世界トレンド1位を記録するなど、どんなに低視聴率で叩かれても、視聴者の思い入れは断トツであり、心の中で消費されず残り続ける作品となるだろう。

『ノーサイド・ゲーム』とともに放送のタイミングが早すぎた作品であり、「やはり年間ドラマはそれだけのパワーを秘めている」とも言える。


その他の主な作品は、下記の通り。

冬クールの『グッドワイフ』(TBS系)、『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日テレ系)、『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)、『フルーツ宅配便』(テレ東系)、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK)。

春クールの『集団左遷!!』(TBS系)、『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジ系)、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)、『インハンド』(TBS系)、『トクサツガガガ』(NHK)、『俺のスカート、どこ行った?』(日テレ系)。

夏クールの『あなたの番です』(日テレ系)、『TWO WEEKS』(フジ系)、『偽装不倫』(日テレ系)、『ルパンの娘』(フジ系)、『これは経費で落ちません!』(NHK)。

秋クールの『グランメゾン東京』(TBS系)、『シャーロック』(フジ系)、『まだ結婚できない男』、『同期のサクラ』(日テレ系)、『4分間のマリーゴールド』(TBS系)。

終わってみれば2019年のドラマ界も力作ぞろいで、ここで挙げたものは一部にすぎない。未視聴のものは年末年始の休みを利用してオンデマンドで視聴してみてはいかがだろうか。

最後に、ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2020年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いいたします。