すでにサービスインした地域での5Gの実情

5Gが導入された将来像として、各種デバイスやセンサーの多くがネットワーク接続されることでデータ収集や管理が容易になり、より効率的な運用が可能になるということが考えられる。

現在、信号機のほとんどは時間設定で機械的に切り替えられるだけだが、将来的には交通状況を見て適時点灯時間を変更することで渋滞の緩和につなげられる可能性がある。中国などではすでに似たような仕組みが導入されて大きな効果を生み出したことが喧伝されているが、こうした最適化は都市のセンサーや制御システムがすべて接続されてこそのものだ。

同様に、これまでは「長年の勘」「あらかじめ決められたルール」だけに則って運用されていた仕組みに対し、リアルタイムで入ってくるデータを基に最適解を生み出すことで、より便利で効率的な仕組みを提案することが可能になる。「スマートシティ」もその一例だが、われわれの生活が5Gの普及を通じて「気が付いたらより便利に」なっているかもしれない。

とはいえ、5Gの本格普及が始まる2020年においてこうした仕組みの導入が一気に進むわけではなく、デバイスの普及に少なくとも3~4年、インフラとしての本格運用が始まるまでには5~10年近い時間が必要だろう。

現在はまだデバイスも高価で、「高速通信と引き替えに発熱と電力消費が大きい」「ミリ波の制御がシビアであり、例えばデバイスを手で握ったり顔に近付けたりするだけで通信環境が悪化する」といった5G固有の問題も抱えている。後者の問題は今後技術の進化で解決していく話ではあるが、当面は5G対応デバイスは「高嶺の花」の位置にあり続けるだろう。

これは実際にサービスが開始されている国の状況からも見てとれる。例えば、携帯キャリアの米Sprintでは5Gのサービスを開始しているが、対応デバイスは4種類(モバイルルータ含む)で、しかも値段は一番安いクラスで税別800ドル(日本円で税込み9~10万円ほど)となっている。

また、サービスが展開されているのは本稿執筆時点で9都市、選べる料金プランも無制限プランの月額80ドルからと、1万円近い値付けとなっている。同時に、家庭用のルータ製品も扱っており、5Gネットワークを介してPCを含む複数のデバイスをWi-Fi経由でインターネット接続できる。

  • 米携帯キャリアのSprintブースでは、5G対応機種としてLG V50 ThinQをアピール

  • 5G対応製品として家庭向けルータをアピールしているのもポイント

実のところ、2019年時点における5Gの主役はスマートフォンではなく、こうしたルータ製品かもしれない。

Verizon Wirelessブースでもやはり家庭向けルータの展示でアピールしていたほか、5Gが先行展開されている英ロンドンにおいても目立ったのは「5Gの家庭のブロードバンドへの導入」を促す広告だ。

高速回線をいかに家庭に引き込むかという「ラストワンマイル」を巡っては、かつてADSLといった電話回線や、FTTHと呼ばれる光ケーブルの整備が話題になったが、5G時代ではネットワーク圏内でさえあればGbpsクラスの高速インターネット回線が手軽に入手できるわけで、これを携帯キャリア各社がアピールして回線契約を増やすことに力を注いでも不思議ではない。

ゆえに、iPhoneでも5G対応機種が登場する2020年秋以降、より具体的には5G対応スマートフォンが広く普及する2021年から2022年くらいまでは、その一般家庭での主役は「ルータ」が担うことになるかもしれない。

  • 英ロンドン名物の地下鉄では、家庭に5G回線を使ったホームルータ導入を促す広告が掲示されていた