■正解は役者が持っていることも

――『HiGH&LOW』では、役者の方々がそれぞれに久保監督や脚本の平沼さんと相談を重ねながらキャラクターをつくっていく、というお話を聞くことが多いですが、今回の新キャストの方々とは、どんなやりとりがありましたか?

(川村)壱馬や(吉野)北人とは、ホンができた時点から1カ月以上かけて一緒にリハーサルをやりました。できるだけ会う回数を増やしてリハーサルを重ねて、みんなでキャラクターを作り上げていったんです。

『HiGH&LOW』には、アクションテストというものがあるんですよ。アクション監督の大内(貴仁)さんや僕が立ち会って、役者1人につき2時間ずつくらいレッスンをして、どんなパンチや蹴りが得意なのか、どういう身体の動かし方が特徴なのかを見極めるための時間です。役者はみんなゼーゼー言いながら帰るので、彼らにとってはテストというより拷問みたいなものなんですけど(笑)。

そこでパンチや蹴りのひとつひとつに関してみっちりレッスンした上で、「この人はこういう動きが得意だから、こういうアクションに落とし込んでいこう」と決めていく。志尊くんにもこれをやってもらったんですが、アクション練習に入った瞬間、彼が持っている優しい雰囲気やフェミニンな感じがバッと消えたんですね。さっきも言ったように、鳳仙のトップをやるということに対して彼は相当なやりがいとプレッシャーを感じていたけれど、その雰囲気の劇的な変化を見たとき、「この子は全部を背負ってやるつもりなんだな」ということがよくわかりました。

――志尊さんは、かわいらしかったり女性的だったりする役が多いですが、バラエティ番組などで見ていると、ご本人は結構“男”っぽい部分があるんだな、と思っていました。今回の(上田)佐智雄の役は、思っていた以上にハマっているように感じました。

彼は芝居に対してもストイックで、本当に男らしくてかっこいい人ですよ。現場でも、鳳仙のメンバーでちょっと気が緩んでるような人がいると「監督、俺ちょっと言っていいっすか?」みたいな感じでね。鳳仙は、その特徴である「一枚岩」という部分を志尊君と四天王が最初からすごく意識していて、彼らを中心にみんなで話し合って作り上げていました。だから僕としては、彼らから質問があったときに助言する程度でした。

逆に鬼邪高は、「戦国時代」とうたっているように全員がバラバラのところから始まっています。各キャラクターについて個人個人とは話していましたが、チームとしては特にこちらからどうしてほしいということは言わなかったですね。自分たちで鬼邪高の全日というものをつくりあげてほしかったので。撮影前から「『HiGH&LOW』では、自分たちでやり方を見いださないと成立しないんだよ」ということは全員に言っていました。「(山田)裕貴も(前田)公輝もそうやって自分たちの鬼邪高ってものをつくってきて、今に至ってるんだ」と。

――ドラマシーズン1の頃、SWORDのほかのチームに比べて役者としての知名度に差があると感じていた鬼邪高定時の面々が、山田さん、鈴木さん、一ノ瀬さんを中心に「負けたくない」「もっといいチームにしていこう」という話をいつもしていた、というエピソードはよく知られています。今回の全日や鳳仙でも、そういう動きがあったのでしょうか?

どちらかというと、その雰囲気は鳳仙のほうにありましたね。現場でもスタッフの間で「この鳳仙のまとまり方は、昔の鬼邪高みたいだね」とよく話していました。一方鬼邪高はバラバラなんだけど、それはそれでいいかな、と。そのバラバラなところに、楓士雄というマイペースでつかめないキャラクターが入ってきて、みんなが翻弄されるわけですから。

また壱馬自身が本当にマイペースで、休憩時間に鳳仙のほうにちょこちょこ行っちゃったりするんですよ。普通、物語で敵同士だと、現場でもそういうふうに過ごして空気をつくるじゃないですか。だから鳳仙の子たちも「それはちょっと違うだろ」みたいな感じでとまどってましたね(笑)。そこを壱馬は、本当に素でいっちゃう。楓士雄そのまんまなんですよね。「どうしようかな」と思いましたけど、それは楓士雄らしくて良いから、カメラが回っていないところでも彼にはそのペースで過ごしてもらいました。

鬼邪高がまとまらないといけないところでは、公輝に「鳳仙を見て考えてみて」と伝えました。やっぱり全日の轟ですから。公輝が少しずつ人を集めてまとめあげていって、そこに最後に壱馬が加わって、という感じでしたね。

――轟は久しぶりの登場でしたが、まとっている雰囲気が『THE MOVIE』の頃とは少し変わっているように見えました。

今回、ドラマの前に映画を撮ったんですが、そこで公輝と話したときに、轟の感情の流れをすごく整理してきていたんですよ。「轟も時間がたっていろいろなものを見てきたわけだから、それを踏まえて、これまでならしないような仕草・行動もするようになっていると思う」というふうに自然に話してくれて。本当に彼が自分でつくりあげたキャラクターなんだな、と改めて感じました。

映画の中で1箇所、轟の内心の解釈について、僕と公輝の意見が割れたところがあったんです。最終的に「監督に任せる」と言ってくれたので、僕の考えているほうで撮り始めたら、轟が崩れだしてしまった。カットをかけて公輝に「どうした?」と聞いたら「ちょっとわかんなくなっちゃいました」と言うので、「わかった、俺が言ったことは全部忘れていい」と。それでもう一度撮ったら、いつもの轟に戻って、ちゃんと成立した。「余計なこと言ってごめんな」と思いましたね。監督だけど、僕が正解を持っているとは限らない。そういったシーンがたくさん出てくるのが『HiGH&LOW』だと思ってます。

――今回の作品で、新世代の物語が始まったわけですよね。『FM』公開の際に、平沼さんがインタビューで「SWORD第1世代にとっての“青春の終わり”の物語」というようなことをおっしゃっていました。監督としても、あれだけ世界観が広がった第1世代の物語を、『EOS』と『FM』の2本でやりきった、という感覚はあったんでしょうか?

僕の個人的な感じでは、まだ全然終わってないというイメージですね。まだまだ続けたいし、可能性がいっぱいある。『THE MOVIE』本編は決して終わりじゃないし、そういうつもりで撮っているスタッフは誰もいないと思います。第1世代の物語も、まだまだ終わりじゃないと僕は思ってます。

■久保茂昭
1973年生まれ、東京都出身。EXILE、三代目 J SOUL BROTHERS、E-girlsをはじめ、安室奈美恵、倖田來未、YUIなどのMVを多数手がける映像ディレクター。VMAJにおいて“年間最優秀ビデオ賞”を2010年「ふたつの唇」、12年「Rising Sun」、13年「24karats TRIBE OF GOLD」、14年「EXILE PRIDE~こんな世界を愛するため~」、15年「Eeny,meeny,miny,moe!」で受賞。邦楽に関しては5年連続受賞となり、異例の快挙となる。15年ドラマ「HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~」を皮切りに、同シリーズの映画公開作品を担当。

※映画『HiGH&LOW THE WORST』特集はこちら!