『カバる!』『ネタXチェンジ』には、いずれのMCにも千原ジュニアが起用されている。これは偶然の経緯だったそうだが、「だからこそ、似通った番組は作れません。違うものをジュニアさんに提示しないと、『似たような番組を似たような時期にやらせやがって』と思われるのが嫌なので、全く違うアプローチをしていきます」と強調する。
その1つが、前述した“演じる”ということへの準備の違いだ。「『カバる!』の役者さんは、芸人さんへのリスペクト心があるからこそ、同じことをやっても超えられないけど、超えられないということは失礼にも当たるという文法なんです。だから、その苦悶を踏まえた演技を楽しんでもらいたいですね。『ネタXチェンジ』は、交換したことによって相手のネタと自分の特徴の距離感をうまく遊べたほうが面白くなるので、突き詰めていく求道心的な『カバる!」に比べて、より自分に取り込んで面白さを出して惹きつける『ネタXチェンジ』と、それぞれ楽しめると思います」と見どころを語る。
また、『カバる!』のほうは、NHK BSプレミアムでの放送ということで、「役者さんがネタに挑む様子をドキュメンタリータッチにして、大人の方にも見応えのあるものにしています」といい、『ネタXチェンジ』については「若い人に見てもらいたいという思いがあるので、明るくお祭りにしていきたいですね」と差別化。
両番組の収録を終えたジュニアは「一見似てるようで全然違う番組ですね。『カバる!』は、役者として台本を渡されて舞台に挑むという感じでしたけど、『ネタXチェンジ』は自分の脳みそを使ってアレンジするという感じでしたから」と話しており、狙いどおりとなったようだ。
■ネタを“お借りしている”意識
テレビで純粋なお笑い番組が作りづらくなっているご時世で、同時期に2つの番組が立ち上げられることに、「こういう番組が作れている人ってそうそういないですから、ありがたい話ですね」という藪木氏。一方で、ただネタを見せるだけの番組ではなく、新たな要素を1つ加えないと企画が通りにくいという風潮があるのだという。
そんな中で、今回はいずれの番組も、ネタをイジっていく内容だが、「あくまでネタを“お借りしている”という意識は忘れないようにしています」と力説。「やっぱり芸人さんにとってネタはアイデンティティーの塊なので、そこを扱うのはすごく気をつかうんです。細やかにケアをして、やり終わって『楽しかったね』というところに持っていくための番組づくり、空気づくりをしなければいけないですから」と明かした。
たしかに、『カバる!』は、ネタを作った芸人に対してのリスペクトが大前提にあり、『ネタXチェンジ』は、互いにネタを交換するというフェアなルールだ。「例えば、バトル形式にして優劣をつけると、番組としては分かりやすいんですけどね。それをしないで視聴者に興味を持ってもらい、演者に楽しんでもらい、スタッフは面白いものを作っていくというこの3者のバランスを取るのに、非常に神経をつかいます(笑)」と苦笑いするが、それができるのは、フジテレビで多くのネタ・演芸番組を制作し、芸人たちと密に接してきた藪木氏だからこそだろう。
以前のインタビューでも、『ENGEIグランドスラム』の演出を引き継ぐ際に「『出てよかったな』と思ってもらえる場所であり続けてほしい」と伝えたことを話していたが、「今回の『カバる!』はキャスティングで苦労しましたが、実際に出てみて損はしないと感じてくれたと思いますし、『今までで一番嫌な仕事』と言っていた長谷川朝晴さんも、きっとまた出てくれると思います(笑)」と期待を示した。
1971年生まれ、三重県出身。早稲田大学卒業後、95年にフジテレビジョン入社。照明部から02年にバラエティ制作に異動して『アヤパン』『力の限りゴーゴゴー!!』『笑う犬』『新堂本兄弟』『爆笑ヒットパレード』『エニシバナシ』『おじさんスケッチ』などを担当。『爆笑レッドカーペット』『爆笑レッドシアター』『THE MANZAI(第2期)』『うつけもん』『オサレもん』『ツギクルもん』『ENGEIグランドスラム』『笑わせたもん勝ちトーナメント KYO-ICHI』などのネタ・演芸番組を立ち上げ、18年から共同テレビジョンに出向。『~両親ラブストーリー~ オヤコイ』(読売テレビ)、『NHK杯 輝け!!全日本大失敗選手権大会 ~みんながでるテレビ~』(NHK総合)、『千原兄弟のせいじ記者クラブ~あの出来事をせいじが取材したら~』(中京テレビ)などを制作し、今回『カバる!~あのコントを俳優がカバーしたら~』(NHK BSプレミアム)と『ネタXチェンジ』(読売テレビ)が放送される。