『爆笑レッドカーペット』『ENGEIグランドスラム』『THE MANZAI』といったフジテレビの演芸番組チームを率いてきた藪木健太郎氏が、昨年共同テレビに出向してから初めてとなるテレビでのネタ番組を、新たに2本立ち上げる。
今回制作する『カバる! ~あのコントを俳優がカバーしたら~』(NHK BSプレミアム、15日22:50~23:50)と、『ネタX(エクス)チェンジ』(読売テレビ・日本テレビ系、26日24:09~25:04)はいずれも、いわゆるネタ番組に“新たな要素”を加えた企画。近年、そうしたタイプの番組が増えているが、これを成立させるには、芸人へのきめ細かな配慮があるのだという。制作にあたっての裏話や見どころ含め、藪木氏に話を聞いた――。
■役者と芸人、ネタへのアプローチに違い
『カバる! ~あのコントを俳優がカバーしたら~』は、ロッチ、サンドウィッチマン、千原兄弟の名作コントを、大和田伸也、田山涼成、長谷川朝晴、山崎樹範、和田正人という実力派の俳優陣が演じてカバーするという番組。藪木氏は「もともと音楽でもカバーされて違う味になるのがすごく好きだったので、それがコントだとどうなるのかという興味があったんです」と、企画のきっかけを語る。
しかし、演じるコントは世の中に知られた名作。俳優陣は大きなプレッシャーを感じたようで、収録を終えて「地獄が味わえた」「ヒザがガクガクした」「えらい仕事来たな」「世の中にこんなに嫌な仕事ってあるんだ」と口々に吐露した。その緊張感は、藪木氏の予想以上だったといい、実際にキャスティングも難航し、「役者さんが決まったのは本番の10日前でした。あんなにヒヤヒヤだったことは、今までなかったです(笑)」と打ち明ける。
それでも、一度引き受けたからには全力で臨むのがプロの役者たち。「リハーサルを重ねていくうちに、周りに影響を与える“熱量”をどんどん感じてきたんです。今までやって来た番組でも、人の心を動かすものにはそういう“熱量”があったので、やって良かったなと思いました」といい、「ネタ番組はいつもそうなんですけど、本番に送り出すまで、うまくいく確証は何もないですから(笑)。そのギャンブル感はたまらないです(笑)」と、久々となったテレビでのネタ番組を楽しんでいるようだ。
この番組では、ネタの稽古を通して、本番への準備の仕方に芸人との違いを感じたそう。「アプローチの仕方が、違う筋肉を使ってる感じがします。芸人さんは、面白いものは磨くんじゃなくて、瞬間に弾けるものだという意識があるので、稽古でも100%詰めないで、余白を残したまま終えるんです。一方で役者さんは、詰めて詰めて、同じ箇所を何回も練習してセリフが入った時点で、アドリブが入れられる場所を探ったりする。そうすると、稽古で山崎さんのセリフの言葉がちょっと入れ替わってしまったことがあったんですけど、それをうまく笑いにして帰結させたんです。多少セリフを間違っても元の本筋に戻せるコントロールができてくると『体に役が染み込んできたんだな』と。その感覚があるのは、役者さんならではなんだなと思いましたね」と実感を語った。
ネタのアレンジについては、あえて番組側からプランを出さず、演者側からアイデアが出るのを待っていたという。一例を挙げると「山崎さんと長谷川さんのサンドウィッチマンのコントで見せる“ズラし具合”は、予想以上のところまできましたね」と驚き、「行間に怖さを見つけて言葉を選んだり、ネタのテンポ感も『ここは芝居っぽくしようか』というアイデアが出てきたり。それと、“ちょっと何言ってるか分かんない”という富澤(たけし)さんのキラーワードは本番当日に入れたんですが、サンドウィッチマンで富澤さんが突然言い出すのと違って、わりと自然なセリフの受け答えで入ってるんです」と感心していた。
■アレンジをガンガン加えていい番組
もう1つ立ち上げる『ネタXチェンジ』は、チョコレートプラネット×シソンヌ、ジャングルポケット×ハナコ、アキラ100%×ハリウッドザコシショウ×コウメ太夫などの人気芸人同士が、自分たちのネタを交換して披露するという番組。吉本興業が読売テレビに企画を通し、ネタ番組の演出ができるスタッフとして藪木氏に白羽の矢が立った。『カバる!』がネタをカバーする一方、こちらは「アレンジをガンガン加えていい番組です」という位置付けだ。
注目は、チョコレートプラネットとシソンヌの組み合わせ。「同期でもあり、両方とも『オサレもん』(フジ)で5週勝ち抜いて、一緒にユニットコントをやっていて仲が良いという関係性もあるので、その2組があのネタとこのネタを交換して、あのネタの中にこのキャラクターを入れたら面白いな…と想像する作業はすごく楽しいですね」と、制作に臨んでいる。
本番では、こちらの想像を超えるぶっ飛んだアレンジが次々に登場。収録後、MCの千原ジュニアは「いやぁ面白かったですね。思った以上に新しくなってましたね」、ケンドーコバヤシは「(忠実に相手のネタをやる)真面目な人はいなかったですね(笑)」と、新たな試みの手応えを語っていた。