• カメラ100台分の画面 (C)NHK

――100台のカメラを設置して、今回は4日間撮影して、最終的に映像素材は何時間になったんですか?

ZOZOは3,651時間です。ジャンプでおよそ2,500時間だったので、1,000時間増えました(笑)。しかも、設置した直後に画角はチェックするんですけど、その作業が終わったらフロアの片隅に席を借りて、カメラが止まってないかを点検するだけで、現場ではモニタリングできないんです。だから、何が撮れているかは98%くらい分かってなくて、開けてからのお楽しみなんです(笑)

――それは大変ですね! ここから「編集」のお話を伺っていきたいのですが、まずはその膨大な映像を確認していくんですね。

『100カメ』はGoProで撮ってるんですが、これだと映像データが細かく分割されちゃうので、ロケが終わったらそれをひたすら一本化して、ひたすら見ていきます。今回は、僕と編集マン、ロケを手伝ってくれた後輩ディレクター、カメラマンの3系統で、朝から晩まで2週間以上見ました。皆さん何をするか分からないから、一応早送りするんですけど、何かしゃべったら止めてチェックして。ZOZOの場合は会話が多くて、その場合は2ショットや3ショットのカメラで見ないと把握できないので、5~6台並べて同時に流して、音が聞こえやすいカメラの音声を引いて…と、セッティングにも時間がかかりますし、なかなか大変なんです(笑)

須田雄一郎ディレクター

――どこに面白い会話があるか分からないから、取りこぼせないですもんね。

そうなんです。だから、いろんなところに仕掛けまくった網に、何か引っかかってないかをひたすら見るという感じですね。

――それが終わると、どのような作業に入っていくんですか?

どの要素をどういうふうに並べるかという構成を考えます。まずは、面白そうだなとか、これは使いたいっていうパートをひたすら並べて、それをストーリーにしていくんです。ここが、この番組の肝ですね。そこから、もう1段細かく、「ここは2画面にしよう」とか「ここは全員の顔を分割画面で見せよう」とかを考える。ZOZOの場合はジャンプと違ってビジュアルで分かりやすく面白いというよりシュールな感じなので、それを映像設計でどう面白くしていくかが、頑張りどころなんです。

■ナレーションがない理由

――そうした編集や、その前の取材に撮影期間もあって、番組制作全体の期間としては、どれくらいになるのでしょうか?

取材と撮影期間で1カ月、編集に2カ月はかかり、その後、ECS(映像編集)とMA(音編集)などをやって、ZOZOの場合は4カ月ですね。

――この番組はナレーションがないのも特徴ですよね。

そうですね、今回もなしです。オードリーさんにスタジオパートで出てもらって、VTRを見ながらいろいろしゃべってもらうことで、番組をどう見たらいいのかという“補助線”としての役割を果たしてもらっています。

――それは“のぞき見”風にしたいという狙いですか?

そうですそうです。これは最初からコンセプトとしてありました。ジャンプのときに、注目の人をスタジオに呼ぼうかという話もあったんですけど、新しいものを生み出すためには振り切ろうということで、やめたんです。NHKでは『ノーナレ』というナレーションを一切入れないドキュメンタリーをやっていて、僕も担当したことがあったんですけど、ナレーションがなくても視聴者の皆さんは読解力をお持ちなので、そこは委ねても大丈夫だなという感覚がありました。“のぞき見”で見せるということなので、ズームで寄っていくという編集もしていないんです。

  • スタジオで見守るオードリーの若林正恭(左)と春日俊彰 (C)NHK

■“群像劇”として見てもらいたい

――今回取材して、特に興味深かった点はなんでしょうか?

ZOZOはなんとなく派手でノリノリな感じだと思ってたんですけど、ベンチャー時代からいるメンバーと、新しく入ってきたメンバーがいて、会社がどんどん大きくなっていく中で、当初の志を意識しつつどう進んでいくかというところの、皆さんの“マジ”な感じがあったんですよ。率直に言って、いいなあと思いましたね。もちろん、砕けるときは砕けてるんですけど、本気のときは本気なので、その落差はジャンプでも感じたんですけど、真剣にやってる現場に行ったかいがあったなと思いました。そこが、番組としても面白くなっていると思います。

――では、あらためて今回の見どころをお願いします。

『100カメ』って派手なことが起きるわけではないんですが、ちょっとしたことで悔しかったり、うれしかったりすることや、仲間同士の他愛もない会話をすくうことによって、共感を呼んだり、「人生ってそうだよね」っていう発見がある番組だと思うんですよ。日常にだって輝きや愛おしいものが転がっていると思うので、そこのちょっとした感情の機微を楽しんでもらえたらいいなと思います。本当にちょっとしたひと言で、その人が魅力的に映ることがあるので、“群像劇”として見てもらいたいなってすごく思うんです。その人たちが持ってる雰囲気をまるごとパッケージにして届けたいという思いで作ってるので、それを“のぞき見”してほしいと思います。

――ジャンプに比べて、ZOZOは一般的な企業なので、より共感できる部分が多いかもしれないですね。のぞき見したい場所はまだまだたくさんあるので、ぜひ今後の意気込みをお願いします。

やり方はいろいろあると思います。ただ、その中で僕がこだわっているのは、やっぱり“群像劇”。三谷幸喜さんの『ラヂオの時間』や『THE有頂天ホテル』とか、今起こっていることの裏であんなことがあるんだとか、いろんな登場人物がポロポロ出てくることでも楽しめちゃうと思うので、そこを意識してこれからも作っていきたいですね。

  • ●『のぞき見ドキュメント 100カメ』(NHK総合 8月21日22:00~22:50)
    1つの現場に100台の固定カメラを設置し、人々の生態を観察する新感覚ドキュメンタリー。カメラを意識しない“素”の日常、さりげないけど決定的な一瞬、個性豊かな人々が織りなす「あるある」な人間関係が映し出される。ZOZOの看板部署・デザイン部では、若い社員が多い職場ならではの女子トークあるあるや、上司と部下のなんともいえない空気感が見どころ。会社の方針転換による社運をかけたプロジェクト、社長にプレゼンするという緊迫した場面も…。一方、YouTubeチャンネル登録者数800万以上のはじめしゃちょーが去年立ち上げた動画クリエイター集団「はじめしゃちょーの畑」では、毎日動画を投稿する苦労、「好きなことで生きていく」というキャッチフレーズでは語りきれないシビアなやりとり、意外な人間関係のしがらみなど、人気職業の知られざる生態が…。
    (C)NHK