1つの現場に100台の固定カメラを設置して人々の生態を観察する…そんな新感覚のドキュメンタリー番組『のぞき見ドキュメント 100カメ』の第2弾が、NHK総合できょう21日(22:00~22:50)に放送される。

前回は、あの『週刊少年ジャンプ』編集部を観察してSNSや業界内で大きな話題となり、「編集者たちの生態も予想を上回る面白さで突き抜けている。膨大な映像を編集してコンパクトにまとめた苦労は計り知れないが、ここに凝縮された人間模様の機微は秀逸である」と評価を受けてギャラクシー賞の月間賞も受賞した。

今回は、日本最大級のファッション通販サイトを運営する「ZOZO」と、動画クリエイター集団「はじめしゃちょーの畑」と、いずれもネット時代をリードする話題のスポットを観察するが、その取材の裏側にある苦労とは。ZOZOを担当したNHKの須田雄一郎ディレクターに、話を聞いた――。

  • ZOZOの前澤友作社長(左)とはじめしゃちょー

    ZOZOの前澤友作社長(左)とはじめしゃちょー (C)NHK

■ジャンプは喜んでくれたが…

――昨年9月に『週刊少年ジャンプ』の編集部を撮影した第1弾が放送された『100カメ』ですが、どのように立ち上がった番組なのでしょうか?

局内の企画募集に提案することになって、案を出し合っていくうちに「100台のカメラを使おう」みたいなアイデアが出てきて、プロジェクトチームに僕も加わったんです。具体的に話を進めていく中で、僕がジャンプを好きだったというのと、『バクマン。』という漫画誌の編集部の裏側を描いたコミックを思い出して、画的にも面白そうだと思ったところで、ジャンプがちょうど創刊50周年だったこともあって、受けてくれるんじゃないかと思って取材を依頼しました。

――取材のハードルが高そうな企画ですが、ジャンプ側は、すんなり受けてくれたんですか?

編集部内の悲喜こもごもや人間関係を撮りたいと伝えたら、受けやすいという感じになりましたね。

――「100台の固定カメラで撮る」という企画を面白がってくれた部分もあったんですか?

そうですね。編集部の方々も、漫画文化の中で新しいものを切り拓いてきたというスピリットがあると思うので、ちょっと変わった番組ならやりがいがあるなと感じていただいたのではないかと思います。

――放送後、SNSを中心に反響があり、業界内でもすごく話題になって、ギャラクシー賞の月間賞も受賞しました。ジャンプ側の反響はいかがでしたか?

喜んでいただいたと思います…というのも、基本的には固定カメラを置いているので、顔を合わせて密着しているわけじゃないですから、放送後に「反響良かったです」とお礼のあいさつに言ったら、「あぁ、そうですか」ってわりとあっさりで(笑)。僕は以前『プロフェッショナル仕事の流儀』を担当していたんですが、普通の取材先だったら密着感がすごいあるんですけどね(笑)。でも、「いつもの編集部そのまんまが映っていた」と喜んでくれていました。

■“のぞき見”する価値や引きがある場所

――そして第2弾として、今回はZOZOの看板部署・デザイン部と、「はじめしゃちょーの畑」の2本立てですね。須田さんは今回、ZOZOの取材を担当されましたが、選定の狙いはなんですか?

最初は、取材したら面白そうなところ、受け入れてくれそうなところをブレストレベルで挙げていきました。『ドキュメント72時間』で取り上げるようなマニアックな場所よりも、メジャーで名の知れている場所の舞台裏のほうが“のぞき見”する価値や引きがあると思ってZOZOにお声がけしました。前澤友作社長という特徴的な人がいる中で、ここまで会社が大きくなってきたのには、志を持って働いている人が絶対いるはずなので、先入観と違うところが見えて魅力的な現場なんじゃないかなと思ったんですね。

今回取り上げるデザイン部は、パソコンの画面や携帯のアプリなど、お客さんが一番触れるところを設計している重要な部署なんです。人数も28人だということだったので、ちょうどいいなと思って決めました。ジャンプは18人で男性だけだったんですけど、今回は人数も増えて女性も半分くらいいるので、第2弾としてスケールアップした展開ができるとも考えたんです。

――業務的な機密事項のお話をする場面もあると思うんですが、ZOZO側から「これは放送しないで」と言われるシーンもあったんじゃないですか?

実は、中身に対して口出されることは一切ないんです。もちろん常識の範囲で、こちらで判断してカットしていることもありますしね。

  • ZOZOの社内風景 (C)NHK

■カメラ設置に4~5時間

――放送するまでに「取材」と「編集」の大きく2つの作業に分かれてくると思いますが、まずは「取材」の部分について、どんな段取りで進めるんですか?

最初に、28人全員にアンケートに答えてもらいながら、1人1時間くらいお話を聞いていくんです。そこから、その人にどういう情報があるのかをリスト化して、人物相関図を組みます。「AさんはBさんのことをこう思ってる」とか、そういう関係性を把握して、カメラをオフィスの中にどう設置していくかを決めるんです。人物取材をして、その人の動きをキャッチできるように網を張るというイメージですね。

――100台ものカメラを設置するのに、時間はどれくらいかかるんですか?

4~5時間はかかります。事前に間取り図を作って、カメラマンさんとどこに置こうか作戦を立てて、実際に一緒に行ってロケハンして、「ここにつけたら面白よね」とか、「ここはやっぱりいらないね」とか練っていくんです。今回は、28人のデスク全部で人とパソコンの画面を映すので2台ずつ使って、ほかには端のほうにあるミーティングスペースや、天井、ジャンプのときにも置いた冷蔵庫の中などに設置しました。デスクだけで60台くらいになってしまったので、放送はそこでのやり取りが中心になってくると思います。

  • ZOZO社内の女子トーク (C)NHK

――狙いどおりにハマったカメラはありましたか?

ジャンプのときは、隣のデスクの人とそんなにしゃべっていなかったんですが、ZOZOは常にチームで動いているんで、ジャンプでは付けていなかった2ショットや3ショットで撮れるような位置にもカメラを置いたんです。そしたら、ある案件が社長に突っぱねられて、大急ぎで直すように言われた若手社員がふてくされるんですけど、そこに取り仕切るチーフの人がスーッとやって来て、横から声をかけるタイミングを伺ってる微妙な間が終始撮れていたので、そこは面白かったですね。事前にリサーチしたことで、絶対ここにカメラを付けたほうがいいと決めていた場所だったので、見事にハマった感じです。

――自分のデスクで常時カメラを向けられるなんて、なかなか慣れないと思うんですけど、最初はしゃべりださなかったのが、だんだん普段の感じになっていくんですか?

実は、意外とそうではないんです。ジャンプもそうだったんですけど、不思議なことに初日のほうが撮れ高が良かったなんてこともありました。