昭和の国鉄時代から活躍してきた185系。現在、定期列車として運行される185系の特急列車は「踊り子」のみとなった。JR東日本は東海道本線の特急列車に関して、中央本線で活躍したE257系によって置き換える予定と発表している。

  • 国鉄時代に製造された特急形電車185系。現在も特急「踊り子」を中心に活躍中(写真:マイナビニュース)

    国鉄時代に製造された特急形電車185系。現在も特急「踊り子」を中心に活躍中

車両の置換えが進めば、東海道本線経由で伊豆方面へ向かう185系の特急列車はいずれ見納めとなるだろう。先月末、取材で静岡県下田市を訪ねる機会があり、185系の特急「踊り子」に乗って東京~伊豆急下田間を往復することにした。

■方向幕がかえって新鮮な185系

185系は国鉄時代の1981~1982年に製造された直流特急形電車である。特急形電車といっても、それまで急行形電車で行われていた東海道本線での通勤利用を考慮して幅広のドアを採用し、当時の座席は転換クロスシートだった。185系のうち、0番台は特急「踊り子」を中心に使用され、200番台は耐寒耐雪仕様とした上で、上野~大宮間の「新幹線リレー号」や上野駅発着の新特急などに使用された。

現在、185系の車内はリクライニングシートにリニューアルされている。それでも車両全体からあふれる「国鉄感」は変わらないように思う。

いまの列車は車外の種別・行先表示がLED化されていることが多い。最近は高輝度のフルカラーLEDによる表示も珍しくなくなった。一方、185系はいまも方向幕で行先などを表示する。東京駅ホームに入線した185系を見ると、懐かしさを通り越して、かえって新鮮な印象を受けた。パンタグラフが菱形というのも、いまでは珍しい。

往路で筆者が利用した列車は東京駅10時0分発「踊り子107号」。3号車(モハ185-31)に乗車した。車内販売がないことはわかっていたので、事前に弁当や飲み物を用意した。

東京駅を定刻に発車し、車内では「鉄道唱歌」(オルゴール)のチャイムが鳴った後、車掌の肉声による車内放送が行われた。録音の英語アナウンスもない。

「踊り子107号」は東海道本線をゆるりと走行し、品川駅を発車してからスピードを出し始める。特急列車とはいえ、東海道本線では川崎駅・横浜駅・大船駅とこまめに停車する。185系は窓を開けることも可能。こうした設備や停車駅の状況などを考えると「国鉄」「急行」という印象が生まれてくる。

「急行」という種別がJR各社の定期列車からなくなり、近距離でも「特急」となっている現在では考えにくいことではあるが、かつて所要時間2~3時間程度の在来線列車は大半が「急行」として運転されていた。そして「急行」のほうが停車駅は多かった。筆者は1979年生まれで急行列車の全盛期を知らない世代だが、「踊り子」は急行列車が走った時代の運行状況を現代に伝えるかのような走りを見せてくれる。

■平日でも夏休み期間は伊豆への観光客が多い

乗車したのは7月末。平日とはいえ、行先が伊豆半島であり、夏休み期間ということもあって、車内には観光客が多い。席を向かい合わせにした家族連れや、お酒を飲んでいる人たちの姿も見かける。

使われなくなった車販準備室などは、JR東日本が車内販売を縮小する方針である以上、しかたがないといえる。ただ、観光客が多く、財布の紐がゆるみやすいと思われる列車において、惜しいとも感じる。

洗面所を見ると、自動の水栓ではなく、片手でレバーを動かして水を出すタイプの洗面台だった。座席は新しくなっても、こちらは製造当初のままのようだった。

藤沢駅から先、湘南エリアでも185系は快調にスピードを出して走る。全速力という印象ではなく、悠々とした走りだ。やがて進行方向左側に海が見えてくる。車内のこどもたちが海のほうを見る。広く大きな、水平線の見える海だった。小田原駅を発車した後も、車窓の一面に海が広がる区間がある。トンネルの連続で通過してしまう東海道新幹線では味わえない、広々とした海を長時間味わえる。

熱海駅に到着すると、こどもたちを連れた家族が下車した。ここから列車は伊東線に入る。単線区間となり、185系の走りものんびりしたものとなる。トンネルに入るとスマートフォンの電波が通じなくなり、ローカル区間に入ったという印象を受ける。

  • JR伊東線を走行する「踊り子」

来宮駅で「スーパービュー踊り子」、宇佐美駅で伊豆急行の2100系(リゾート21)「Izukyu KINME Train」と行き違う。しばらく走った後、再び「鉄道唱歌」のオルゴールが鳴る。伊東駅に到着だ。ここで降りる人も多い。

伊東駅からは伊豆急行線となる。乗務員もJR東日本から伊豆急行に交代し、車内アナウンスに肉声の英語アナウンスが加わった。

伊豆高原駅ではどんどん人が降りていく。伊豆急行線は1961(昭和36)年開業で、歴史は比較的新しい。戦前からある路線だったら、海岸沿いを急曲線で敷設されたのではないかと考えられるが、実際にはやや高い場所に線路が敷かれ、高架橋とトンネルによる直線的な路線となっている。ゆえにトンネル内ではスピードも出る。

伊豆熱川駅を発車ししばらく経つと、車窓に広い海が見える。ここで観光案内のアナウンスがあり、「晴れた日には伊豆大島も見える」とのことだった。河津駅に停車した後、伊豆急下田駅が近づくと「鉄道唱歌」のオルゴールが流れ、アナウンスで下田の紹介も行われる。伊豆急下田駅にはほぼ定刻に到着。2時間36分の旅だった。