ズズンと迫る低域にキラキラ高音、ジャズや吹奏楽にマッチ

POLARIS IIの筐体は、精密にCNC加工されたセルリアンブルー(紺碧)のアルマイト加工処理アルミニウムに、ブラックカラーのPVDコーティング・スクリューとステンレススチール製ノズルを組み合わせて作られています。

Campfire Audio製品ならではの角ばった筐体デザインは、玄人好みしそうなメカニックな雰囲気があって見た目にはカッコいいのですが、「どこかにぶつけてエッジの塗装が剥げてしまわないか」と少し心配になります。裏地にウールを使った立派なレザーケースが同梱されているので、使わないときや耳から外して持ち運ぶときは都度ケースに仕舞うようにすれば、あまり神経質にならなくてもよさそうですが。

  • Polaris II

    付属のプレミアムレザー・ジッパーケース。裏地のウールはクッション性があり、イヤフォン筐体をしっかり保護する。このケースはポルトガルの小さな工房で作られている

ドライバー構成は、高域用のバランスドアーマチュア(BA)1基と、低域用の9.2mmダイナミックドライバーを1基搭載したハイブリッドタイプ。音導管(サウンドチューブ)を使用しない独自の音響設計技術「Tuned Acoustic Expansion Chamber(T.A.E.C)」を採用して高周波域のレスポンスを向上させ、BAドライバーが本来持つ周波数特性をより正確に再現できるとしています。

また、ダイナミックドライバーをスピーカーで例えると“キャビネット”のように機能させるチャンバー(空気室)を配置し、ドライバー本来のパフォーマンスを引き出すという独自技術「Polarity Tuned Chamber」も採用。これが、POLARIS IIの特徴である「雄大な低域」を生み出しています。再生周波数特性は5Hz~20kHz、感度は105dB SPL/mW。インピーダンスは17Ω(at 1kHz)で、スマートフォンなどに繋いでもそれほど音量を上げる必要が無く、比較的鳴らしやすいと感じました。

MMCX端子によるケーブルの交換もできます。端子には、新たに設計したラウンド型のベリリウム銅を採用。付属のケーブル「Litz Wire Earphone Cable」はもつれにくいツイストデザインで仕上げており、イヤフォンを耳に装着している時もストレスを感じにくい設計になっています。入力は3.5mmステレオミニ。別途、バランス接続用ケーブルと対応プレーヤーを用意すれば、音質がさらにグッと向上するバランス駆動も楽しめるでしょう。

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    付属の「Litz Wire Earphone Cable」

今回は、ソニーの手頃なハイレゾウォークマン「NW-A55」(直販価格21,880円)にPOLARIS IIを繋いで音を出してみました。ベースラインやリズムの鳴り方に特徴があり、豊富な低音が耳の中で響くというより、ズズンと胸に迫ってくる感じ。

Campfire Audioが製品紹介の中で「比較的新しい音楽、例えばEDMなどととても相性が良く、強烈でインパクトの強い低域や広々とした中高音が新しいリスニング体験を届ける」と謳うとおり、普通のイヤフォンではなかなか味わえない低域の鳴りっぷりが印象的です。これまで使っていたUltimate Earsの4BA搭載イヤフォン「UE900s」とは、低音の鳴り方は比較にならないほど強く、曲のジャンルによってはプレーヤーのイコライザーで低域を若干抑えめに調節するほど。

ちなみに、イヤーピースはシリコン、フォーム、final Eタイプと様々なタイプが付属します。これを自分で付け替えて装着感や音の印象をカスタマイズできるのですが、今回は購入時に店頭で試供品として無料配布していた「SednaEarfitLight(セドナ イヤーフィット ライト)」というシリコンイヤーピースを選んでいます。

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    POLARIS IIとハイレゾウォークマン「NW-A55」の組み合わせ。イヤーピースは「SednaEarfitLight」(試供品。POLARIS IIには付属しない)を使った

Eagles「Hotel California」や、RADWIMPS「前前前世」などを聴いてみても、ベースやパーカッションなどの低域は迫力がありつつキレも良く、安価なダイナミック型イヤフォンにありがちなこもった感じになったり、低域が強すぎて下品になる感じはありません。高域の抜けも良く、芯のある低音をベースとしたクリアで清々しいサウンドが楽しめます。しっとりした曲調のノラ・ジョーンズ「ドント・ノー・ホワイ」や、雄大な旋律のサラ・オレイン「Beyond the Sky」などの女性ボーカル曲も、いい感じに鳴らしてくれました。低音に個性がありつつも、音のバランスが破綻しないギリギリを攻めている感じがします。

得意ではないジャンルもあり、例えばクラシックの弦楽器などで音の余韻を表現するのは難しいようです。また、ベースやドラムが激しく鳴り響くロックは、長時間聴いていると耳が疲れてしまいそう。逆に相性がいいのは、低音が少し細り気味の古い楽曲や、トランペットとユーフォニアムの掛け合いで織りなす「愛を見つけた場所」(TVアニメ「響け! ユーフォニアム」劇中曲)のように、音数がそれほど多くない曲。他にも「宝島」のようにリズムや曲調に勢いのある吹奏楽曲などが、メリハリが効いていて楽しく聴けました。

  • Polaris II

    やや低域の出方が強く感じる時は、プレーヤーのイコライザーで調節して聞いている

実は筆者はCampfire Audio製品を買ったのはこれが初めてですが、従来機種を何度か試聴する機会があり、その時から「バランスの良いモニターライクなサウンド」というイメージをずっと持っていました。それからすると、POLARIS IIはいい意味で“Campfire Audioらしくない、尖った個性派サウンド”が面白いイヤフォンです。はじめは濃密なサウンドにやや面食らいましたが、「最近あまり聞いてないあの曲、POLARIS IIではどう鳴るんだろう?」と、音源をとっかえひっかえするのが楽しみになりました。

誰もがおいそれと買える値段のイヤフォンではないことは確かです。ですが、見た目にも価格に見合った高級感があり、安価なモデルでは決して得られない音楽リスニングが楽しめる価値も実感できたので、自分専用のリファレンスイヤフォンとして長年メンテナンスしながら使っていこうと思っています。