■原ノ町駅・相馬駅へは東北新幹線経由でも行けるが…
富岡~浪江間が不通、バス代行となっている現状では、それより北に位置する原ノ町駅や相馬駅などから鉄道だけで東京まで行き来しようとした場合、仙台駅に一度出て、東北新幹線に乗り換えることになる。原ノ町駅や相馬駅の周辺地域は福島県であっても、もともと広域的には仙台の経済圏に入っていた。
原ノ町~仙台間は震災前の「スーパーひたち」で約1時間。仙台駅から上野駅まで「はやぶさ」で1時間30分弱である。接続が良ければ、仙台直通特急と「はやぶさ」を乗り継いだ場合の所要時間は2時間40分程度になるだろう。これに対し、かつての「スーパーひたち」は上野~原ノ町間にて、最速列車でも約3時間10分を要していた。
一方、2019年7月現在の運賃・料金で東京~原ノ町間を試算してみると、原ノ町駅から仙台直通特急に乗り、仙台駅で東北新幹線に乗り換えた場合の合計額は片道1万3980円。これに対し、仙台直通特急で東京へ直接向かった場合の合計額は7,980円となり、6,000円もの差がある。運賃・料金の面では常磐線を乗り通すほうが有利である。
ただし、原ノ町駅や相馬駅から東北新幹線を利用できる割引きっぷ「東京フリー乗車券」(原ノ町発で1万180円)が発売されており、これを使えば片道あたりの差は4,070円に縮まる。4,000円を余分に支払うことで30分短縮できるのならば、一考するビジネス客も出てきそうだ。「東京フリー乗車券」は4日間有効で、東京とその近郊を走るJR東日本の路線などが乗降り自由となる。
この東北新幹線経由と常磐線経由の所要時間、運賃・料金の差は、原ノ町駅より北にある相馬駅からとなると、さらに縮まる。先述の新地~浜吉田間は、相馬駅よりさらに仙台に近いエリアだ。つまり、津波被害からの復興援助が必要とされている地域について、より仙台へ、さらには東京へ近づけ、活性化させるために、仙台駅発着の特急列車の設定もまた、ひとつの手段と考えられるのだ。
仙台直通特急を10両編成で運転することに関して、輸送力過多ではないかという意見もある。実際、以前の「スーパーひたち」はいわき駅以北において、おもに4両編成で運転されていた。しかし、全編成が10両にそろえられているE657系に「特別な」編成を用意しても、予備車の数が増えて運用効率が落ち、かつ初期投資も増えてしまう恐れがある。増結・切離しの手間もかかる。そうした点からの決定と思われる。
いずれにしろ、多額の復旧費用を拠出したJR東日本にとっては、常磐線への投資の回収が大きな課題となるだろう。そうした前提があった上での経営判断と考えられる。復興への貢献を考慮しても、運転再開後の常磐線の列車運転計画が、順調に需要を生み出すことを期待したい。