帰ってきたぞ『ウルトラマン』!
設定は、1971年に円谷プロが製作した『帰ってきたウルトラマン』のものを踏襲しつつ、メカニック描写やMAT隊員コスチュームの部分に『ウルトラセブン』風味を注入し、極めてシリアスで重々しいムードを盛り込もうとしている。意識的に照明を落としてコントラストを強め、作戦本部の受話器のスキマ越しに隊員の顔を入れ込むなど、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』(1968年)で特撮ファンをうならせた名匠・実相寺昭雄監督からの影響が強く受け取れる画面作りを多用している。1979年8月発売のLPレコード「テレビ・オリジナルBGMコレクション/冬木透作品集」(日本コロムビア)に初収録された『帰ってきたウルトラマン』のNG主題歌「戦え!ウルトラマン」(1コーラスバージョン/作詞:東京一/作曲:すぎやまこういち/歌:団次郎)をオープニング主題歌にしたことも、観る者に強いインパクトを与えていた。
ストーリーは、隕石の中から出現した増殖怪獣バグジュエルとMATチームの戦闘が描かれた後、バグジュエルを殲滅するため核兵器の使用を決断するイブキ隊長と、これに反対するハヤカワ隊員(実はウルトラマン)の苦悩……という非常にシリアスな内容。アマチュア映画であるため役者の演技やセリフ回しに少々難はあるものの、作戦本部のリアリティや発進するマットアロー1号をはじめとするメカニック群の緻密さ(メカがすべてペーパークラフトで作られているというのも凄い)などは、うるさ型の特撮ファンたちを黙らせるのに十分な空気を築き上げていた。"東京に核兵器を落とす"という最終局面に対し、主人公がなんとしてでもこれを阻止するべく奔走する……というのは、オリジナル『帰ってきたウルトラマン』第6話「決戦!怪獣対マット」および『シン・ゴジラ』にも通じる内容であるし、外敵からの攻撃を強靭なバリヤーによって防ぐバグジュエルの戦法は『エヴァンゲリオン』における"ATフィールド"を連想させる。
このようなガチガチのリアルでシリアスな世界で進められていた『帰ってきたウルトラマン』に、いきなりとんでもない"異物感"がもたらされる瞬間、それこそが「ハヤカワ隊員がウルトラ・アイ(黒ブチ眼鏡)をかけてウルトラマンに変身、巨大化」するシーンであった。あの有名な「右手を大きくあげてグングン巨大化していくウルトラマン」のカットから、両手を前に出して空を飛行する姿、ウルトラブレスレット(腕時計)を投げる動作、怪獣を見つめる朴訥そうなまなざしに至るまで、すべてが"庵野ウルトラマン"によって演じられているのだ。
元ネタの8㎜短編を知っている人なら「ああなるほど」と納得し、笑いが起こるかもしれないが、SF大会や他の上映会などでいきなりこの作品を観た人は「なんでこのウルトラマンは素面なんだろう」と驚き、激しく戸惑ってしまうかもしれない。しかし、前半でのリアルかつシリアスなムードをまったくゆるめるつもりがないスタッフによって描き出される庵野ウルトラマンの巨大感、重厚かつダイナミックなアクションを見ていくうちに、観客はみな「彼もまた立派な"ウルトラマン"である」と認識していくようになる。
こだわりにこだわりぬいた"ウルトラマンごっこ"の行きついた先は、アマチュア8㎜映画の限界に挑んだかのような大特撮作品だった。DAICON FILM版『帰ってきたウルトラマン』には、総監督・庵野秀明氏、特技監督・赤井孝美氏をはじめとする1982年当時の"若き映像クリエイター"たちの情熱と才能が焼き付けられている。
ウルトラマンにいまだ熱烈なる愛情をそそぐ庵野氏が企画・脚本を手がけ、盟友・樋口真嗣氏が監督を務めるこんどの『シン・ウルトラマン』は、果たしてどのような内容になるのだろうか。公開予定とされている2021年には、きっと多くの特撮ファンの期待に十分応えられるような作品が観られるに違いない。