――今回立ち上げた「storyboard」という社名には、どんな意味を込めているんですか?

storyboardというのは“絵コンテ”という意味の英訳でして、ドラマ制作の現場でなじみのある言葉から会社名をつけたいという想いがありました。“世界をワクワクさせるコンテンツをたくさん描く”という意味で会社名を名付けました。あとは、“想いを持っているけれど、具現化できずにいる人のお手伝い”をしたいという想いもあります。例えば、中小企業や個人の方で、とても素敵なサービスや商品をお持ちなのに、その想いを形にできていなかったり、伝える手段がない方に対して、クリエイティブな側面からそのお手伝いをしていきたいとも思っています。

――まだ独立されて1カ月ですが、出足はいかがですか?

大変です(笑)。でも、フジテレビ時代にお世話になった方たちの支援によって、なんとか基盤をつくっている段階です。ドラマや映画の企画を進めていますし、企業広告のお仕事も数社契約していただくことができました。この先にどんなものが世の中で必要になってくるのかを考えながら、いろんな種をたくさん植えていまして、今は大切に水をあげて育てているという段階ですね。

――最初に“黒船”という表現がありましたが、具体的にそれを感じるきっかけになった作品などがあったのでしょうか?

作品というより、韓国の「スタジオドラゴン」という会社をすごく意識しています。彼らはいわゆる“コンテンツスタジオ”だと思うのですが、韓国国内でものすごい勢いでドラマを制作していて、Netflixの作品もスタジオドラゴンが制作しているものもあり、面白いものが多いです。アジア市場を強く意識していると感じています。

4月にタイのバンコクに“S2O”というイベントを見に行きましたが、そのアジアの熱を感じることができました。アジア中から、いろんな人が集まって来ていて、グローバルのエンタテイメントがミックスしている環境で、大きなカルチャーショックを受けました。その中で、音楽やドラマのコンテンツは韓国のものばかりが目立っている状況でした。それを見て、「日本にだって面白いものがこんなにあるのに」と、とても悔しい気持ちになりました。日本のコンテンツを世界に届けたいですし、世界に“発見”してもらいたいですね。そのための一助になるべく、全力で頑張りたいと思ってます。

■連ドラで起用の俳優・女優も登場?

――このタイミングで新たな挑戦をする藤野さんから見て、映像業界の今後の展望はいかがですか?

明るさしかないと思っています。良いコンテンツを作れば地球の反対側まで届く可能性があるのですから、こんなに楽しい時代はないと思っています。最近教えてもらったのですが、オーストラリアに建築学を学んでいる大学生がいて、建築家を目指すことになったきっかけが日本のドラマを見たことだそうで、それが『恋仲』だったんですよ。「ソウタ・フクシ(福士蒼汰)に憧れた」みたいなこと言ってました(笑)。自分の全然知らないところでオーストラリアの方にも見てもらって、人生に影響を与えていたのはうれしかったですね。

――ドラマコンテンツのウインドウはどんどん広がってますしね。

ただ、そうしたチャンスは危機であるとも思っています。日本のコンテンツが海外でも見られるようになる一方で、同じように、日本で海外の作品を手軽に見れる環境になってしまったので、本当に面白さがないと選択してもらえないと思います。巨額のバジェット(予算)で制作したドラマがどんどん日本に入ってくる中で、日本国内で支持され、さらに海外でも戦えるコンテンツをどう制作していけばいいか、毎日考えています。前に「日本のコンテンツはローカルフードすぎて食べれない」と言われたことがありまして、その言葉から日本の状況を考えさせられたのですが、今は逆にローカルを突き詰めた方がグローバルに刺さるのではないかとか、そういったことを考えていたりします。

  • 『刑事ゆがみ』浅野忠信(左)と神木隆之介

  • 『グッド・ドクター』(左から)上野樹里、山崎賢人、藤木直人

――これまで連ドラなどでご一緒された俳優さん、女優さんを今後も起用していくことはありますか?

そうですね。彼らの新しい魅力を引き出すことができたり、挑戦しがいがあると思ってもらえるものを構想できれば、一緒に取り組むこともあると思います。これまではフジテレビという大きな看板を背負ってやらせていただいてきたので、それがなくなった今、これまでの何倍もパートナーにとっての価値を考えなければと考えています。

――今回の挑戦について、周囲の方からはどんな声をかけてもらいましたか?

ありがたいことですが、応援していただいています。フジテレビを退社するときは、本当に孤独になるだろうと覚悟していたのですが、いろんな人が手を差し伸べてくれて、フジテレビの方たちからも温かい言葉をいただいたりしているので、感謝の気持ちが尽きないです。退社した今こそ、フジテレビの看板を背負っている意識でいます。外で修行して、いつかフジテレビに貢献できることができたらと思っています。フジテレビがつないでくれた縁で、今後しばらくは仕事をしていくので、その縁を大事にしながら、自分が貢献できることを模索していきたいと思っています。

●藤野良太
千葉県出身。慶應義塾大学文学部卒業。2006年、フジテレビジョンに入社。主なドラマプロデュース作品に『水球ヤンキース』(14年)、『恋仲』(15年)、『好きな人がいること』(16年)、『刑事ゆがみ』(17年)、『グッド・ドクター』(18年)など。フジテレビ在籍時からCM制作を手掛け、代表作に山崎賢人・飯豊まりえを起用したGalaxy S7 edge「どんな君も、逃さない」シリーズなど。19年6月末に同局を退社し、storyboardを設立、フリーのプロデューサーとして活動している。