名車「911 カレラ2 (type964)」に試乗!
レンタルするのは貴重なポルシェだし、なにより、左ハンドルであることに対しては、かなり高い心理的ハードルを感じる。そのあたりについて齊藤さんは「そのハードルを超えることは、レクチャーの中で最も大事にしている部分です。左ハンドルに抵抗を持つ方は、絶対にいるはずですから。ただ、ポイントさえ分かれば、誰でも乗れるということを知ってもらいたいです」と話す。
齊藤さんによれば、964型911は左ハンドルが初めてのドライバーでも運転しやすいクルマだという。その理由は、コンパクトなボディサイズと車幅感覚の把握しやすいクルマのカタチにある。
「ポルシェの場合、横幅をつかみやすいのをご存知ですか? フェンダーが運転席から見えるので、車幅を把握しやすいんです」
乗るクルマは年式が古いので、気をつけるべき部分もあるという。齊藤さんのレクチャーはこんな感じだ。
「年式がそれなりに古いので、アクセルとブレーキの感覚は今のクルマと少し違います。そこは、気を付けてもらいたい部分です。例えばブレーキは、ある程度、しっかり踏んでいただかないと効かなかったりしますので。なので、最初は前のクルマとの車間距離を長めに取ってください」
そんなアドバイスをもらって、いよいよポルシェに乗り込んだ。最近のクルマはボタン1つでエンジンがかかるので、キーを差し込んで回すという動作も新鮮だ。
「ブオーン!」。月並みな表現だが、こう書くよりほか仕方がないような、しびれる音を立てつつエンジンが回りだす。「静けさ」を売りにするクルマが増える中で、こういったエンジン音を堪能できるのも嬉しいポイントだ。蒸し暑い日でもあり、窓を開けたまま走り出したのだが、停車した時に車内に流れ込むガソリンの匂いも、いかにもという感じがして気分が高まる。
運転してみると、確かにブレーキペダルは固いし、ハンドルも重い。スポーツカーならではの点なのかもしれないが、道路のデコボコも身体に伝わってくる。ただ、クルマ自体の動きは軽やかだ。いかにもクルマを操縦しているという感じがする。車線変更などをうまくこなせた時には、自分の運転スキルが上達したかのような、達成感や満足感にも似た感覚を味わえる。
「今のクルマって、いかに静かに、振動なく走るかが注目されがちですよね。それはそれでいいんですけど、“こういう感覚”は“こういうクルマ”でしか味わえないんじゃないかと思いますよ。もともと、持っているポテンシャルの高いクルマですしね」
それでは、最も心配だった左ハンドルの操作はどうだったのか。一言でいえば、「案ずるより産むが易し」だった。
これまで、2度ほど左ハンドルのクルマを運転した経験があるのだが、その際に気になったのは、クルマの右側が、道路のどのあたりまで達しているかが分かりにくい、ということだった。右ハンドルのクルマであれば、右側の車線が身体の近くにあり、確実に認識できるので、右側(時には対向車線)にはみ出す心配はあまり感じない。左ハンドルでは感覚が違うので、そこが心配になる。
また、左ハンドルを運転する場合は、ひょっとすると自分だけかもしれないが、クルマが勝手に右側に寄って行ってしまう、ということがある。これはおそらく、右ハンドルに乗っている時の道路と自分(ドライバー)の位置関係が頭にも身体にも染み付いているので、左ハンドルのクルマを運転していても、その位置関係に戻ろうとするからではないかと思う。そのあたりも、左ハンドルを運転する際に不安を感じるポイントだ。
ただ、そういった不安も、964型911であれば、あまり意識せずに済むかもしれない。実際に乗ってみると、ボディサイズ(特に横幅)は本当にコンパクトだし、右側のフェンダーを目安にしておけば、まず、想定外に右側に寄り過ぎるということはなさそうな感じがした。試乗中、道路の左側に路上駐車しているクルマを避けるため、右側にふくらまざるを得ないシーンにも遭遇したが、その際にも的確な判断ができた。初めて乗った左ハンドルのクルマであるにも関わらずだ。
もっと乗っていたかったのだが、ガレージカレントの周辺を一回りして試乗は終了した。そんなにクルマの運転に習熟しているわけではない筆者でも、あまり不安を感じずに左ハンドルを操作できたし、できれば高速道路も走ってみたいと感じたというのが正直な感想だ。とにかく、高性能なクルマを“操縦”するのは痛快だった。このクルマに乗っていれば、カーマニアからは「話の分かる奴だ」という視線を集められるだろうし、クルマに詳しくない友達や彼女の前に登場したとしても、おそらく話が盛り上がるのではないだろうか。写真を撮っても“ばえる”に違いない。
カレント自動車がこのレンタカーサービスを始めたのは2019年6月12日。取材したのは7月12日だったが、その時点までに1人の利用があったという。今後の予約も入っているそうだ。
「ポルシェもそうですが、フェラーリやランボルギーニなども含め、『スポーツカーって、自分には関係ない』と感じている人が、結構いると思うんです。でも、敷居は高くないし、誰でも運転できるということを身をもって分かってもらえれば、クルマ好きも増えるのではないでしょうか」というのが齊藤さんの考え。確かに、クルマには、乗らなければ知ることができない魅力があるというのは今回、まさに身をもって学んだことだ。
カレント自動車が扱っているような輸入車は、単なる移動手段としてクルマを買いたい人の購入検討リストには、おそらく入らない。ターゲットカスタマーは間違いなく、「クルマ好き」ということになるだろう。このレンタカーサービスは、同社にとって、将来の顧客(候補)を増やすための施策でもあるようだ。
自動車は電動化して、自動化していく流れだ。そうなれば、クルマは所有するものというよりも、自律走行しているものをスマホで呼び出して、必要な時にだけ使うものになってしまうかもしれない。そうなれば、クルマを買おうという人は、かなり減るに違いない。でも、例えばポルシェが好きな人は、あるいはポルシェを「道具」ではなく「好きなもの」に分類している人は、そういう時代がやってきたとしても、やっぱりポルシェを買うのではないだろうか。
今のうちに、いいクルマに乗る機会を増やして、いいクルマのファンを増やしておくことは、輸入車を取り扱うカレント自動車のような会社にとって、潜在的な顧客を増やすためにも大事な施策なのだ。