現在好評放送中のスーパー戦隊シリーズ『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の、初の劇場版『騎士竜戦隊リュウソウジャー THE MOVIE タイムスリップ!恐竜パニック!!』が、7月26日より全国劇場にて公開される。今回の映画では、リュウソウジャーの5人が6500万年前の恐竜時代にタイムスリップし、"リュウソウ族"の祖先・ヴァルマ(演:佐野史郎)と娘・ユノ(演:北原里英)と遭遇することにより、リュウソウジャー誕生の秘密を知る……という物語。
本作の演出を手がけたのは、テレビシリーズ第1、2話(パイロット)でリュウソウジャーの骨子を築き上げた上堀内佳寿也監督。これまで『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』(2017年)や『劇場版 仮面ライダービルド Be The One』(2018年)をはじめとする「仮面ライダー」シリーズにおいて手腕をふるった上堀内監督が、初めて取り組んだ「スーパー戦隊」である本作にどのようなエッセンスを注入したのか。テレビシリーズの放送開始からおよそ半年が経過したこのタイミングで、『リュウソウジャー』の魅力が詰め込まれた夏の劇場版の見どころや撮影での苦労話、そして成長過程の真っただ中にあるキャスト陣にかける強い期待を訊いた。
――上堀内監督がスーパー戦隊シリーズで監督を務められたのは『騎士竜戦隊リュウソウジャー』が初めてとうかがいましたが、助監督としても、これまでスーパー戦隊には携わっていなかったのですか。
ぜんぜん関わっていませんでした。やはり「仮面ライダー」シリーズと「スーパー戦隊」シリーズの撮影が常に重なっていたことが大きいかな、と思っています。この2つは一緒の撮影所(東映東京撮影所)で撮っていて、スタッフルームも近くにあるんですけれど、お互いの現場のことは詳しく知らない、いわば"近くて遠い"存在同士なんですね。ですから「スーパー戦隊の監督を」と言われたとき、未知の領域だという感覚がありました。
――『仮面ライダーエグゼイド』や『仮面ライダービルド』での活躍があってこそ、『リュウソウジャー』でパイロット監督を、というお声があったように思いますが、最初に監督オファーがあったときはどう思われましたか?
オファーはわりと突然来るもので、まだ監督になって1年経ったかどうかくらいのときに冬映画(『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』)の話をいただいたときは、驚きはしましたけれど「やってやろう!」という気持ちのほうが大きかったんです。今回の『リュウソウジャー』の場合は、やはりスーパー戦隊の経験がないため、うれしかった反面、半分は不安でした。オファーがあったとき即答が出来なくて、ちょっと考える時間をもらったんです。それでも、自分にとってなかなかない機会だと思い、こんども「やってみよう」と決意した、というのが最初でしたね。
――仮面ライダーとはスタイルの異なる「スーパー戦隊」をつかむために、過去の作品をご覧になったりしましたか。
いくつかの作品で、変身のシークエンスや、名乗りのところは観ましたが、全体を観返すということはあまりやらなかったんです。「スーパー戦隊」という大きな枠を知るには、1作や2作観ただけではわかりませんから……。そのかわり、「スーパー戦隊」に携わってこられた方にたくさんお話を訊きました。歴代作品のプロデューサーをされていた方、そして田崎(竜太)監督(田崎監督の崎は立つ崎が正式表記)をはじめ、これまでパイロットの監督をされていた経験豊富な先輩方に「スーパー戦隊って何ですか? パイロットとは?」と質問を投げました。でも、みなさん人それぞれなので、これが「スーパー戦隊」だ! みたいな答えがなかなか得られなかったんです。しかし、まあそういうことなんだろうなあと思いまして、結局自分自身が作っていかなければならないものだと、腹をくくりました。
――『リュウソウジャー』では脚本の山岡潤平さんをはじめ、「スーパー戦隊」初参加の方が中枢にいらっしゃるので、今までの「スーパー戦隊」の流れを変えようとする動きがあるのでは?と思ってしまいますが、そのあたりはいかがでしょうか。
自分も含めて、今回の『リュウソウジャー』は初めて「スーパー戦隊」に関わった人が多いので、そう思われるのはまあ必然だろうなと思いました。しかし僕らの中では、スーパー戦隊シリーズという大きな基盤は、これまで作って来られた方たちが1作ずつ紡いできたものなので、ぜったいに"壊す"とか、そういう気持ちでは取り組んでいないことを強調しておきたいですね。
ただ、今まで「スーパー戦隊」をやったことのない人間が加わったことで、何ができるのかと考えて、出した結論が「固定観念は捨てよう」ということなんです。たとえば、僕はプロデューサー諸氏に「"変身バンク"って必要ですか?」と率直に聞いてみたことがありました。今でも"スーパー戦隊が何か"ということはわかっていないので、その場その場のシチュエーションに合わせた変身エフェクトを入れてもいいんじゃないかとか。変身バンクがあるから「スーパー戦隊」なのか?とかディスカッションをしたんです。結局、変身バンクはあったほうがいい、という結論になっていますけれど、そういう根本の部分から手探りで作っていきたいという姿勢なんです。
――第1,2話を観た印象では、リュウソウレッド/コウの明るく元気なイメージに引っ張られると同時に、人間のマイナス感情から"マイナソー"が生み出されたりするシリアスなドラマ展開にも力が入っているように思えました。
初回なので、リュウソウジャーがどういうヒーローなのか、ドルイドンがどんな悪なのかを見せながら、変身して戦って、巨大戦も見せていかなくてはなりません。すべてをいいとこ取りというわけにはいかないので、この部分を見せたいからあえてこっちの部分を抑える、みたいなことはありますね。今年はそういった見せ場の"取捨選択"がいつもとちょっと違うかなというのは、自分でやっていて思います。
――第1話でマスターレッドがドルイドンのタンクジョウに倒され、コウが怒りと悲しみで激高するシーンが印象的ですが、あのようにキャラクターの感情をむきだしにする人物描写などは上堀内監督が「仮面ライダー」シリーズで積極的に用いる演出ですね。
仮面ライダーだから、スーパー戦隊だから、という区分けはあまり考えていないので、それはたまたまだと思います。コウ、メルト、アスナのマスター3人が命を落とす、というのは丸山さんや山岡さんが懸命に考えたことであって、僕としてはどういったシチュエーションでも、お客さんに対して的確に伝わるようにするためには、どういった演出がいいのかということを考えています。そして考えた結果、あのような"熱い"描写になるという(笑)。
第1話からレッドたちにあのような"試練"を与えたのは、1年間もの長いテレビシリーズのスタートにあたって、物語が動き出す"きっかけ"を強くアピールしたかったんです。成長しきれていない若者たちが、大切な師の"死"をきっかけにして、成長して行こうと決意する、立ちふさがる困難に対して、自分たちで立ち向かっていこうという1年になるはずなんです。だからこそ、マスターが倒されたのを目の当たりにしたコウがどんな感情表現をするのか、に力をそそぎました。
僕はパイロットというものを手探りの中でやってみて、いちばん重きを置いたのは"人物をどのように描くか"という部分でした。人物をしっかりと描けば、おのずと物語に厚みが出るんじゃないかと思っています。さきほどの感情表現にしても、コウはもともと元気いっぱいなキャラクターでありつつ、マスターを慕う心であるとか、マスターを失って悲しいとか、いろんな出来事を素直に受け止めて、それらを受け返していくことのできる男なんだと、第1話の段階で観ている方たちにわかってもらえるといいなと思いました。全体的に、パイロットの中で"人物の感情表現"というものにはこだわったかな、と思っています。