役割スタンプラリーからの卒業
トークはお互いの書籍の質問へ。劇団雌猫のかんさんが印象に残ったのは、「母で、妻で、それで? - 役割スタンプラリーからの卒業」という項目だという。テレビや雑誌の特集で女性を取り上げる際に、その人が既婚で子持ちであれば、どんな思いで生きる何のプロフェッショナルなのかに関係なく、判を押したように「母親であり、妻であり、働く女でもある」という”役割列挙見出し”が踊っている。役割の多さを勲章であるかのように取り上げる風潮は、見方を変えるとスタンプラリーのように全てコンプリートすべきだという価値観を刷り込んでしまうと長田さんは述べる。
もぐもぐさん「役割スタンプラリーは集めていってレベルアップと言うより、コンプリートすることが大切みたいな感じ?」
長田さん「そうだね。スタンプラリーになってしまうと、自分が本当はどうしたいのかよりも、集めることに意義があるように錯覚してしまう。そうすると人生が薄味になる気がする」
かんさん「母で、妻で、○○でという表現をよく見るけど、それでは、母でも妻でもない独身の女は、価値がないと言いたいのか? と考えてしまう」
長田さんは、何かの役割を担っていなくても、人間の尊さは変わらないと力説する。
長田さん「スケートに例えるとショートプログラムで決められた技を順番通りにクリアするんじゃなくて、余すことなく自己表現するフリープログラムという感覚。みんな自由演技で生きられたらいいよね」
気が付いたら、家事も育児も仕事も全てを完璧にこなせる女性を目指すべきいう考えになってはいないだろうか。自分を役割に当てはめて生きようとすると、苦しくなる時がある。母として、○○として役割を求められる話では、会場の女性たちが大きくうなずいていた。
だから私はメイクする
劇団雌猫が出版した「だから私はメイクする」は、コミカライズ連載が「FEEL YOUNG」8月号からスタートした。美意識に注目した本を作る思いを劇団雌猫の二人が語った。
きっかけはメンバーの一人が、後に寄稿してもらう叶美香と呼ばれた女にメイクを教えてもらったことだという。順番や工程が細かく、メイクをすること自体が趣味であることに気づき、もっと知りたいと同人誌を作ったそう。
かんさん「同人誌から書籍化する時、いろんな美意識があることを入れたいと思って、構成とか章立てを考え直したよね」
もぐもぐさん「お互い否定しない本にしようと意識した。理解できない人の話も聞いてみたら面白いし、匿名で書いてもらうことでいろんな話が載せられたと思う」
「だから私はメイクする」には様々な理由でメイクをする女性が登場する。「会社では擬態する女」や「アイドルをやめた女」など、それぞれの美容への思いが綴られている。長田さんが気になったのは、タレントのマネージャーをしている女性が、タレントを引き立てるためにメイクをするという「芸能人と働く女」だという。
長田さん「自分が、メイクは自分のためにするものっていう考えだから、誰かのためにメイクをすることの話が新鮮だった。それがダメという意味ではなく、そういう考えもあるんだなって」
美意識は人それぞれが持つもの。メイクは誰かにモテるためだけのものでなく、自分を強くしてくれたり、武器となったりするものだ。
だから私たちは美容する
なぜ美容をするのか、あまり考えたことがないかもしれない。会社に行くから化粧をしたり、かわいく見せたいからおしゃれにしてみたり、ひとりひとりが美容への気持ちを少なからず持っているはずだ。
トークイベントは、参加者たちがTwitterで「#だから美容」を付けて実況する中で進められた。話の内容に感じたことや思ったことがその場で呟かれ、ネットで共通されていく。同じ時間を共有しながら、いろんな考えがあることを感じるイベントであった。
こうでなければならないと思ってしまいがちな世の中で、この二つの本はいろんな価値観があることを教えてくれるだろう。読んでみると何か新しい発見があるかもしれない。
美容は自尊心の筋トレ
モテようとも若返ろうとも、綺麗になろうとも書いていない、化粧品もちょっぴりしか載っていない美容本。反骨の美容ライターが「みんな違ってみんな美しい」時代に送るメッセージ。Pヴァインより上梓されており、価格は税込み1,598円。
長田杏奈
1977年神奈川県生まれ。ライター。女性誌やwebで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事を手がける。「儚さと祝福」をコンセプトに、生花を使った花冠やアクセサリーを製作する「花鳥風月lab」としての活動も行う。Twitter:長田杏奈
Instagram:Anna Osada / 長田杏奈
だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査
化粧、ダイエット、エステ、整形、ロリータ、パーソナルカラー診断、育乳……。様々なジャンルのおしゃれに心を奪われた女性たちが、ファッション・コスメへの思い入れや、自身の美意識をつまびらかに綴り、それぞれが「おしゃれする理由」を解き明かす匿名エッセイ集。柏書房より上梓されており、価格は税込み1,296円。
劇団雌猫
もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケのアラサー女性4人組からなるサークル。インターネットで知り合い意気投合した4人が、インターネットでは語られない「周りのあの子」の本当のところを知りたい! という純粋な興味から2016年冬に同人誌『悪友』シリーズの制作を始める。主な書籍は、「浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―」「一生楽しく浪費するためのお金の話」新刊は「本業はオタクです。-シュミも楽しむあの人の仕事術」(7月19日発売 中央公論新社)Twitter:劇団雌猫