――苦手なことを仕事にするのは、すごく勇気のいることですが、今では大きな財産になりましたね。最近では、「好きなこと」を仕事にする人も増えています。
そうですね。菊地亜美さんからグループ結成を知らされる前、スタッフさんからは「思っていることをそのまま話していい」と言われていたんですけど、自分がアイドルになると聞かされて本当に驚きました(笑)。
――はっきりと、「なりたいと思ってないです」とおっしゃっていましたね。菊地亜美さん、ものすごい表情でした(笑)。
はい(笑)。あの場に、やりたくない子がいるとは誰も思ってないですからね。小さい頃から今でも、自分の心に嘘をつくのが苦手で。場合によっては、言葉を選んだり言い方には気をつけますけど、自分の気持ちは、ちゃんと伝えるようにしています。
――ご両親の教えですか?
どうなんでしょう。父は全部肯定してくれていました。「ピアノやりたい」「バスケやりたい」にも、「英里香が、ちゃんとやるんだったらいいよ」と受け入れてくれて。何事もやりきると意識するようになったのは、そのお陰かもしれませんが、心に嘘をつかないことは自分の中で自然と芽生えたことだと思います。
――「自分に嘘をつかない」「やるならとことん」が、困難を乗り越える原動力に。
具体的にきっかけとなった出来事があって。中学生ぐらいの時にいろいろなことが重なって、追い込まれた時期がありました。たぶん、思春期でそうなった時、良くないことですが非行に走ったり、生きるとは別の選択をしようとしたりとか、逃げ道を作ると思いますが、私は「自分の考えを変えるしかない」と思って、哲学書や自己啓発本を読み漁りました。そうやって「思考の選択」を増やして、理解できないことも理解できるようになって、自分の性格が大きく変わっていきました。でも、完璧を目指しすぎてロボットのようになっていた時期もあって(笑)。例えば、ある嫌なことがあって、マネージャーさんから「どうする?」と言われた時、「しょうがないんじゃないですか」となるんです。何かのせいにしたり、怒りの感情をぶつけるのが普通だと思いますが、私は「しょうがない」と相手にも理由があると思ってしまいます。
グループの指針「エモーショナルアイドロック」は、「女の子たちが感情的にロックを歌う」という意味でしたが、そこで自分の中での「人間味」のような部分が引き出されて。中学時代、そしてここ数年の経験によって今の人格が形成されたんだと思います。
――いきなりアイドルになることを告げられて、その上、リーダーに。その時も自分を客観視されていたので、今お話を聞いて変わってない部分なんだと感じます。
グループに私みたいな「アイドルをやりたくない人」がいたら、嫌だと思うんです。あの時、カメラが回っていないところでも、みんなに「ごめんね。私、ここにいていいのかな」って確かめていて。リーダーに自ら推薦して、「やりたくないけど、やるんだったら100%でやりたい」と話して、結局はジャンケンで勝っちゃって(笑)。それから1カ月間、仮リーダーで過ごして、みんなが「リーダーは傳ちゃんがいい」と言ってくれたので、正式にリーダーになりました。「このグループを引っ張っていく」と心に決めて少しずつアイドルを経験していく中で、「リーダーはこうあるべき」という理想像を描くようになって、グイグイ引っ張るタイプではなく1歩引いてみんなのバランスを取るような役割になりました。仮に、メンバーとマネージャーさんが対立したとして、その理解をつなげるのが私の役目。自分が腑に落ちないことはメンバーに言えないので、自分の中で噛み砕いて納得できるようになってメンバーやスタッフに伝えるようにしていました。
――女優という仕事は、解散以前から意識していたんですか?
グループが結成されると同時にお芝居のワークショップがはじまって、ほぼ同時進行だったんです。その段階でお芝居の楽しさに気づいてしまって。でも、アイドルをやると決めたからにはそっちに集中するべきだと思い、メンバー、ファンの方々にすべてを注ぎました。お芝居は、6年間片思いをしていたような感じだったので、解散後にそれぞれの道を選ぶタイミングになって、一気に蘇りました。「やるならとことん」というモットーだからこそ、中途半端な状態はお芝居、アイドルどちらにも失礼じゃないかなって。言葉にするのも違うと思ったので、このことは最初の段階では言えませんでした。
――ツイッターで、「最近良かったことは、数年未来に夢見てた大きな大きな目標が今の自分にも手が届きそうなくらい近くにあると知ったこと」という過去の投稿に対して、「誰も想像出来ないことだと思う。笑 まだ全然近付いてないんだ。一歩ずつ頑張る。行動あるのみ!!!」とつづっていたのは、このことですか?
ちょうど1年前ぐらいのツイートですね(笑)。ファンの方から「叶ったね」というリプライをたくさんいただいたんですが、まだ叶ってないんですよ。私には、ある大きな目標があって、あの時はそれが近くにあることに気づいたというだけで、中には「完結した」と思ってらっしゃるファンの方もいたので、「まだまだこれからです」とお伝えしたくて。
――叶うまでは秘密?
叶うというか、自分がそれにふさわしくなった時というか……何て言えばいいんだろう。まだ、今の自分の力では言える段階ではないと思っています。もっといろいろなものを吸収して感じた上で、言いたいなと思います(笑)。
■『ランウェイ24』の「大変です!」に注目
――楽しみにしています(笑)。『ランウェイ24』は、連ドラ初出演でもあるので、さらに気合が入りそうですね。
本当に楽しみで。常にワクワクしながら。監督はお三方いて、松本花奈監督は私より年下の大学生なんです! 松本監督は、同じ目線で話し合いながら一緒に作っていくような環境にしてくださったので、ありがたかったです。
――髪色を変えたそうですが、それも話し合いで決めたんですか?
そうですね。この役をいただいた時、髪の毛明るいキャラクターなんだろうなと何となく思っていて。監督も同じことをおっしゃっていて、実際にPEACHでは髪の毛の色も自由なんですよね。その社風は再現すべきだと思いました。
――Sonar Pocketのko-daiさんと共演シーンが多いみたいですね。ko-daiさんは、「歌詞覚えるより、台詞覚える方が、バリむずい。さらに、覚えるだけじゃあかん。全ての役者さんに尊敬する毎日」とツイートしていましたが、傳谷さんもそのような感覚ですか?
はい、すごく共演シーンがありました(笑)。役の感情を自分と役を繋げて言葉にして発した時に、正解がないので「これでいいのかな?」という不安は常にありました。監督も、すぐにOKを出していただくことが多かったので、その後に確かめさせていただいて。監督によって求めることが違うのも気付きになりましたし、撮影が進むにつれて自分の中でも少しずつ準備ができるようになりました。
――台本にあった「大変です!」というセリフが印象的でした。毎話、そこを合図にトラブルが発生するのではないかと(笑)。
毎回ではありませんが(笑)、役の位置付けとしては象徴的なセリフです。トラブルに巻き込まれてしまったり、トラブルを起こしてしまった時に「大変です!」と叫んでいますので、そこにも注目してほしいです(笑)。本当にありがたい役をいただきました。
――初の連ドラを通して、学んだことは何ですか?
毎回、作品ごとに何を感じて、何を学んだのかをメモするノートがあって。今回も『ランウェイ24』のページがあって、そこに学んだことを書いたのですが……撮影が始まる前、舞台と映像作品をそれぞれ別の表現の仕方をするものと考えていました。違いとして発見したのは、映像は、やはりカメラに入らないと自分のお芝居が映らない。制限のある中で動きやお芝居をする大変さも感じました。また、舞台は稽古を重ねて、やっと本番を迎えますが、映像は常に本番であり、常に稽古であり。その場で挑戦できると同時に瞬発力を問われるものだと感じました。
■プロフィール
傳谷英里香(でんや えりか)
1995年11月2日生まれ。千葉県出身。2012年5月~2018年9月まで、ベイビーレイズJAPANのメンバーとして活動。2019年7月スタートの『ランウェイ24』(テレビ朝日:毎週土曜26:30~/ABCテレビ:毎週日曜23:35~ ほか地域でも放送予定・地上波終了後にはTVer、GYAO!にて見逃し配信 ※GYAO!配信のチェインストーリーには傳谷英里香の登場回も)で連ドラ初出演を果たし、8月15日から18日まで東京芸術劇場シアターウエストで上演される舞台『Fumiko』で主演を務める。