ガソリン車と何が違うのか
実車での違いだが、外観については、PHEVとガソリン仕様のT5にほぼ違いはない。見分けるポイントは、PHEVの左側フロントフェンダーに備わる充電ソケット用のカバーくらいのものだ。インテリアも同様に違いは限定的。PHEVでは、センターコンソールが内部にバッテリーを収めるためのかさ増しにより高くなり、内部収納スペースはかなり小さくなっている。しかし、センターコンソールの収納を犠牲にすることで、室内空間への影響をほぼ解消している。もちろん、シフトレバーの左側にあるドリンクホルダースペースは、ガソリン車と同様のものが備わるので、不便を感じることはないだろう。
PHEVのシフトレバーは、ガソリン車の通常のものと異なり、スウェーデンを代表するガラスブランド「オレフェス」によるクリスタルガラス製シフトレバーが奢られる。PHEVとガソリンモデルの違いを高らかにうたいあげるのではなく、実際に触れて感じて欲しいということなのだろう。
次に、メーターパネルの違いを見ていくと、フル液晶ディスプレイや表示グラフィックはほぼ同様だが、右側がエンジン車はタコメーター、PHEVはエンジンとモーターの使用状況やブレーキ回生を示すパワーメーターとなる。バッテリーの残量も同じエリアに表示する。
操作は通常のガソリンエンジン車と同じ。イグニッションをオンとし、シフトレバーで「D」をセレクトすれば、発進可能になる。モーターとエンジンのバランスは、ドライブモードで決まる。最も万能なのは「ハイブリッド」 モード。発進時は電動となるが、その後はエンジンとモーターを効率よく使い、燃費の最大化を図る。
なるべく電気で走りたい場合は、「ピュア」モードを選択する。モーター走行が最優先となり、最高速度125㎞/hまでなら電気のみで走ることが可能だ。ただし、急加速などパワーが必要な場合は、エンジンが一時的に始動する。また、電気容量が少なくなると、ハイブリッドモードへと自動的に移行することもお伝えしておきたい。
雨天や郊外のドライブなど、4WDを活用したい場合には「AWD」モードを選択すればいい。さらにスポーティーな走りを楽しみたい場合は、「パワー」モードを選ぶことができる。これらのモードでは常にエンジンとモーターが稼働し、AWD走行を行う。PHEVのシステムをエコだけでなく、走行状況に応じて武器にもなるように設計しているのだ。また、帰宅が深夜になるため、自宅付近ではEVで走りたいと思ったときなどには、走行中に約80%まで充電を回復させる「チャージ」モードを使い、充電量を回復しておいて、必要な場所で「ピュア」モードへと切り替えればよい。
発進時は、4輪駆動となるモードを除けば基本的にモーターを使うので、極めて静かに滑るように走り出す。静粛性にも優れたしっかりとしたボディのおかげもあり、まるで大排気量の高級車のように感じさせる。新世代ボルボの中ではスポーティーなキャラクターのV60だが、PHEVではモーターが生み出す静かでスムーズな走りを活用し、ラグジュアリーカーのような乗り心地を実現しようとしている。
Twin Engineの特徴である「ピュア」モードでは、日常的な短距離の移動は全て電気でこなすことができる。このモードを選択していると、強くアクセルを踏み込まない限りは高速域(時速125キロまで)も電動のままなので、ほぼEV感覚で使うこともできるのだ。
では、エンジンとモーターを効率よく使う「ハイブリッド」モードや「AWD」モードがうるさいかといえば、決してそんなことはない。キャビンに伝わるエンジン音は最小となるので、メーターを注視していない限り、エンジンが始動したことには気が付かないはずだ。
このようにボルボでは、PHEVを単なるエコカーとしてではなく、新世代ボルボ車のプレミアムなキャラクターをより高めるためのアイテムとしても活用している。そのため、PHEVは従来、各モデルの最上級グレードのみに設定していた。しかし、ボルボはエンジン車の完成度も高いだけに、より高価なPHEVの販売台数は限られてしまっている。ただ、今後のCO2削減においてはPHEVの普及も重要だ。
そんな事情から、ボルボはT6 Twin Engineにもエントリーグレード「T6 Twin Engine AWD Momentum」を新たに登場させたわけだ。PHEVとエンジン車の基本的な仕様は同様なだけに、ユーザー視点で考えれば、より少ない負担で1つ上の世界を体験できることになるのは朗報だろう。
当面の間、PHEVのTwin Engineがエンジン車のワンクラス上の存在であり続けることは確かだが、将来的に、その価格差は縮まる可能性がある。それは、電動化戦略により、近い将来、PHEVの台数が増えていくことが確実だからだ。普及すれば当然、量販効果が生まれるので、ボルボとしてはPHEVの価格を抑えることができる。
先にも述べたが、ボルボは、今後発売する新型車を全て電動化すると宣言している。これにはPHEVのTwin Engineに加え、将来的にはフルEVも加わるだろう。ただ当面は、エンジンにモーターアシストを加えたマイルドハイブリッドが主流となる。電動化をプレミアム化の文脈でも活用するボルボが今後、マイルドハイブリッドという普及型電動車をどのように発信していくのかにも注目したい。