ディーゼル車には、経済的な「損得」だけでは測れない利点もある。それを塩見さんは「官能性」という言葉で説明する。つまり、「損得」ではなく「快不快」に関する話だ。
前述のマツダ「アテンザ」を見ると、2.2Lの直列4気筒ディーゼルエンジンを搭載するモデル「XD L Package」は最大出力190ps、最大トルク450Nmを発生する。同じクルマの2.5L直列4気筒ガソリンエンジン搭載モデルを見ると、最大出力は同じく190psだが、最大トルクは252Nmとなっている。「トルク」はクルマの車軸を回す力を表すから、これが高ければ高いほど、クルマはより力強く走ることができる。
高いトルクを発生するディーゼル車では加速時、後ろから「グイ」と押してもらっているような感覚を得られる。アテンザのディーゼル車と同等のトルクが欲しければ、ガソリン車だと3Lの直列6気筒(直6)ターボエンジンやV型6気筒(V6)エンジン、あるいはV8エンジン搭載車を選ぶ必要がある。アテンザの「XD L Package」は400万円弱から買えるが、直6ターボのガソリンエンジンを積むクルマは輸入車が中心となるから、価格は800万円を超えてもおかしくない。
それに、ディーゼルエンジン車には回転数の低い段階から大きな力を得られるという特徴もある。つまり、信号待ちからの発進のように、実用的な場面で力強さを感じることができるのだ。経済的に算出した「損得」も重要ではあるが、運転している時の気持ちよさや加速の痛快さといったプライスレスな利点は計算式に組み込めない。ガソリン車にするかディーゼル車にするか悩んだ際には、頭と心の両面でメリット・デメリットを判断すべきだろう。
迫るディーゼル車購入のタイムリミット
ここまで塩見さんに話を聞いてきて、気になったことがあった。それは、仮にディーゼルエンジンの利点に納得してディーゼル車を買ったとして、実際に気に入り、次もディーゼル車を買おうと思った場合、それを買えるかどうかだ。電動化の流れもあるし、近い将来、ディーゼル車が欲しくても買えないクルマになっていてもおかしくない。
「今はディーゼルエンジンの『長いファイナルセールが始まったところ』みたいな状況」。先ほどの疑問に対する塩見さんの回答はこうだ。クルマの電動化の進捗状況によっては、ガソリンエンジンを含む内燃機関自体が存続していくかどうか、するとしてもどのくらいの期間か、今は予測が難しい「カオスな時期」にさしかかっているという。例えばボルボは、同社がすでに市場投入しているディーゼルエンジンこそ今後もブラッシュアップしていく姿勢を示しているものの、今後の新規開発はしないと宣言していたりする。ガソリンエンジンも進化していて、例えば「直噴」の技術など、ディーゼルの専売特許といえた領域が狭まってきていることも事実だ。
ただ、これからディーゼル車を買おうと考えている人に対しては、「ディーゼル車が新たに売られなくなることはあっても、買ったディーゼル車に乗れなくなるということはないはずなので、自信をもってオススメできます」というのが塩見さんの結論。ご自身はというと、次のクルマもディーゼル車にしたいと考えているそうだ。
そんな塩見さんに、直近で乗ったディーゼル車の評価を聞いてみると、ボルボのフラッグシップSUV「XC90」のディーゼル車「D5」には大いに好感を抱いたとのこと。このクルマ、一言でいえば「最強にマニアックで、最新スペックのディーゼル車」なのだという。
塩見さんが感心していたのは、ボルボが「XC90 D5」に搭載した「ターボパルス」という装置だ。重いクルマの場合、得てして発進時には「もっさり」した挙動になってしまう(これを「ターボラグ」という)ものだが、「パワーパルス」はエンジンの回転数が上がっていない発進時に、圧縮空気をターボのタービンに吹き付け、その働きをサポートする。これにより、ターボラグを解消するのだ。
ターボパルスの存在もあいまって、ディーゼルエンジンは大きなクルマである「XC90」に「すごく似合っている」と塩見さん。XC90にはガソリン車もあるが、これから買うのでればディーゼルが「絶対にオススメ」だそうだ。
いずれにせよ、ガソリンに比べ、これだけ安く軽油が手に入る日本のような国は珍しいというから、クルマを選ぶ際、ディーゼル車を初手から考慮に入れないのは、控えめにいってももったいない。自分にディーゼル車が適しているかどうかは、「損得」と「快不快」の両面から考えてみるべきだろう。欲しいクルマにディーゼル車の設定があるなら、「一度は乗ってみるべき」というのが塩見さんからの助言である。