高校の吹奏楽部を舞台に繰り広げられる人間ドラマを描いた『響け!ユーフォニアム』シリーズ。2015年、2016年とTVシリーズが放送され、2018年にはオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美を主人公に据えた映画『リズと青い鳥』も公開された本シリーズの映画最新作『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』が現在全国の映画館で公開中。
前回は黄前久美子・久石奏を演じる黒沢ともよ・雨宮天のふたりにインタビューを行った。今回は、舞台となる北宇治高校吹奏楽部の部長・吉川優子役の山岡ゆりにインタビューを実施。自身も吹奏楽部で全国コンクールに出場した経験がある山岡に、優子を演じての想いや副部長・中川夏紀との関係、吹奏楽部の魅力について、元吹奏楽部の筆者が話を聞いた。なお、本記事には作品の内容に触れるネタバレがあるため、閲覧する際はご注意を。
■部長になった優子、でも本質的なところは変わっていない
――山岡さんは高校生のとき吹奏楽部に所属されていたそうですね。しかも、全国に出場されるくらいの強豪校。
実は、そうなんです。
――パートはトランペット。優子と同じですね。
元々はフルートがやりたかったんですけどね(笑)。吹奏楽部に入って、楽器を決めるときにトランペットパートの綺麗な先輩が「ゆりちゃん、トランペットやろ!」って言ってくれたので、しぶしぶトランペットをやることになりました。
――しぶしぶ(笑)。
だって、そんな綺麗な先輩に言われたら入るしかないじゃないですか! 音も出ちゃったし、綺麗な先輩もいたので「入りまーす!」と、そのままトランペットをやることになりました。
――トランペットは目立つ部分を吹くことも多いですし、金管楽器のなかでも人気があるほうかなと思うのですが……木管楽器がやりたかった?
そうですね。どっちかというと女子たちからはクラリネットとかフルートとかサックスが人気でした。きっと、お嬢様ぶりたかったんです(笑)。でも、結局最後までトランペットだったなぁ。
――途中で変えようとは思わなかった? 例えば高校生になってからシフトチェンジするとか。
いやー、もう変えられなかったです。高校で楽器をシフトする人っていましたか?
――私の高校にはいましたね。ホルンからトロンボーン、トランペットからホルンといった人たちが。金管楽器から金管楽器だったからかもしれないです。
一から吹き方を覚えないといけないですから、なかなか変えづらい……まぁ、やると言ったからには最後までやります、という感じで続けました。
――トランペットを吹いていたという点などは優子との共通点ですが、山岡さん自身は優子と似ていると感じる部分はありますか?
いや、あんなにすごくないです!
――優子のどういうところを特にすごいと思いましたか?
前年、大好きな(中世古)香織先輩と一緒に全国大会に行って銅賞だったから、「今年は金賞を!」と目標を立てた、けど結局(全国大会に)行けなかったわけじゃないですか。そんな中でも、優子は泣かずに後輩たちに「来年がある」と部長として声をかけられたからすごいです。あのときOBもOGも周りにいたのに、涙を見せずに言える優子は強いですよね。
――あのシーン、何度観ても泣けます。
泣けますよね~!
――同じトランペットパートで以前は優子とぶつかったこともある2年生の高坂麗奈は人目を気にせずに泣いていました。それはきっと本当に悔しいからだと思います。でも、同じくらい悔しい想いをしている優子は人前では泣かなかったというのがグッときましたし、ふたりの違いも感じました。
部長としての立場もあるし、後輩の子たちがこれからやっていくなかで鼓舞もしないといけない。彼女は先のことを考えて振る舞っているんですよね。ちゃんとした子だな、強い子だなと思います。
――そんな優子ですが、2年生のときは憧れの先輩である香織先輩と一年生の麗奈どちらがコンクールでソロパートを吹くのかを決める際に部内を巻き込む波乱を呼び起こしました。そんな優子の変化を山岡さんはどうとらえていらっしゃいますか?
TVシリーズ第1期から観ている方からは「すごく変わった」と言われることが多いのですが、元々芯が通っている子だったので、本質的なところは全然変わっていないと私は思います。ただ、優子が部長になって、対個人ではなくて、部員全員に対して放つことばが多くなったので、部長としての見え方が確立されたのかなと思っています。
――立場が変わったことで視聴者の見方が変わった?
そうですね。
――本質が変わっていないのに視聴者からの見え方は変わっていないといけない……演じるうえで難しかったのでは?
難しかったです。優子ってキャラクターらしいふわふわした子なのですが、今回は人間らしく、ということを意識して演じました。また、北宇治のボスとして、芯をもってみんなに伝えようと常に気を張っていましたね。
――見え方が変わったことで、優子に対する世間的な評価も大きく変わったと思います。
TVシリーズ第1期の頃は本当に嫌われていましたからね、優子は(笑)。「このデカリボンは!」やら「先輩が泣かなくて何でお前が泣くんだよ!」とか言われていました。「あー、知らない人はそう言っておけばいいじゃない!」と思っていましたけど(笑)! でも今回、そういう意味では優子の印象を変えることができたのかなと思っています。
――最後まで観たら優子が好きになりますよ! 私はそうでした。
本当ですか? 本当ですか!?
――本当です。
ありがとうございます!
■優子にとって夏紀は特別
――山岡さんは全国コンクールで金賞を撮れるくらいの強豪校ご出身ですが、練習も厳しかったのでは?
どうなんでしょう。他の学校と比べることって出来ないじゃないですか。当時はあれが普通だと思ってやっていましたからね。たぶん厳しかったんでしょうけど。
――練習時間はどれくらい?
授業以外はずっと吹いていました。当時引っ越しをしたばかりだったんですけども、家にいなさ過ぎて家の間取りを覚えていないです(笑)。寮生活でもよかったんじゃないかなというくらい吹奏楽部の練習に時間を割いていました。
――そ、そんなにも! それは自主的に?
強制ではないんですけども……うーん、それは難しいところです! 何と言っても自主練習をやっていないと白い目で見られることがありましたから。これ、本作でも似たような話がありましたよね。チューバパートの関係は近いお話だと思います。
――確かに。私の高校は県大会出場が最高と、山岡さんの高校とは比べものにならない成績ですが、それでも自主練習をしていた人のほうがいい目で見られるという傾向はありましたね。している人としていない人で関係がこじれるというところまではいっていなかったですが……。
もちろん、決められた時間にだけ練習したらいいんですよ。でもね、時間外で練習したほうが正義とされていたんですよね。
――先ほど「白い目で見られる」というお話もありましたが『響け!ユーフォニアム』ではこれまで吹奏楽部内の人間関係について色々と描かれてきました。山岡さんの吹奏楽部はいかがでしたか?
人間関係ヤバかったですよ! それは先輩・後輩も、同期でも。なんでこんなにもめごとが多いんだろうと思ったくらい。人数が多いからぶつかることも多いのかな?
――ぶつかり方も様々で楽器にもよる気がします。
楽器によって変わりますよね。
――トランペットはベルが前に出ていてみんなが主張する、ホルンはベルが後ろに向いているから穏やかで優しいみたいな迷信や逸話なんかもうちの部内ではありました(笑)。
そういう節はあった気がします。トランペットパートは気が強い人が多かったかなぁ。ホルンはみんな優しかった!
――人間関係がこじれやすいということも含めてひょっとしたら「吹奏楽あるある」なのかもしれません。
この作品ではそういう「あるある」ばかりが描かれていますよね! むしろ共感できるところしかないくらいです。先ほど言った自主練習する子もいればいない子がいるっていうのもそうですし、全国コンクールに一度出場できたからって次の年も行けるわけではない、というところも共感できる。
――ほとんどが共感できる?
共感でき過ぎて、実際に吹奏楽部をやっていた子たちからは「観るのが辛い……」と言われています(笑)。これを観ると思い出してしまうんですよね。コンクール出場までの過程では人間関係がフォーカスされていますが、あれはアニメだからとかではなく、リアルですから。人間関係をクリアにしないといい演奏はできません。だから複雑だなとも思います。
――全国大会に出場できる部活は人間関係もしっかりしているということですよね。
最終的にはそうだと思います。全国に行く前に崩れるってこともありますが、やっぱり全国大会出場という同じゴールに向かって演奏するなかでまとまっていくということはあると思います。
――人間関係という点では本作で危うかったのは低音とユーフォニアムパート。特にユーフォニアムパートはコンクール出場を決めるオーディションで演奏面では上手な1年生の久石奏が手を抜いて、3年生で副部長の中川夏紀を受からせようとするという場面で言い争っていました。
夏紀と奏ちゃんの関係、危うかったですよね。あのオーディションで2年生の(黄前)久美子と奏ちゃんが言い合うシーンもあるじゃないですか。あの時、奏ちゃんが「下手な先輩って存在自体が罪ですよね」と言うんですけども、そのことばは間違いないなと山岡個人としては思っています。私、奏ちゃんが言っていることばは全部受け入れられるんですよね。優子だと受け入れるのは無理でしょう。でも、山岡として考えたときは100%理解ができちゃうんです。
――なるほど。
だから、私が奏だったら同じような行為をすることしかできないと思います。先輩を抜かして自分だけコンクールに出ちゃったら、その先輩には恨まれると思うし、その先輩の代にもいい顔はされないでしょう。ましてや夏紀は副部長。その立場の人を差し置いて自分が出場してしまったら白い目で見られるんじゃないか……と不安ばかりがつのっちゃいます。そう考えたら、オーディションで下手に吹く。だから、私としては、奏は間違っていないと思いました。波風立てたくなければそれしか選択肢がない気がします。
でも、ここで(高坂)麗奈みたいに鋼の心を持って、先輩のほうが下手だから自分がソロを吹く、という意志と力があれば違うんでしょうけどね。奏ちゃんみたいに平和を願いたい人は考えちゃうんだろうな。
――奏は色々と棘のある発言をしますが、そう言われると実は平和を願っているのかもしれないですね。
そうですね。個人的には麗奈とは真逆だと思っています。先輩と後輩ってこういうところでも揉めるんですよね。
――私は下手な先輩側だったから、夏紀先輩を擁護したい(笑)。
ぜひ擁護してください! でも、(北宇治高校吹奏楽部・指揮者の)滝先生は英断したなと思います。ユーフォパート、3本ですからね。
――優子が2年生のときはユーフォニアム2本で出場していましたよね。そう言われるとなるほど、もしかすると、人間関係も考慮しての3本という可能性が?
かもしれないという話ですけど。もちろん、曲にもよりますから。今回はユーフォが3本必要だったのかもしれない。でも、副部長はなかなか外せないですよ。あくまで一個人としての感想です。
――もし、山岡さんが滝先生の立場だったらどうしていましたか?
正直、わかんないです(笑)! だって、ここで上手な子を入れて副部長を落としたら部内の士気は絶対に下がりますよ。絶対。しかも、上手な子を入れても「金」が必ず取れるとは限らない、それなら不満がない形でまとまったほうが大人の判断なのかなと思います。それで結果がついてくるかもしれないですからね。一丸となったことでよりよいサウンドになる可能性もある。演奏って何がよくて悪いっていうのが簡単に分かるものじゃないじゃないですか。
コンクールで言えば審査員の方によっても評価が変わりますし、激しく失敗したところがあれば何が悪かったのかも分かりますけど、今回は誰が失敗したかも分からない状態。失敗していないのに何で全国コンクールに行けなかったのか。(全国大会に出場を決めた高校の指揮者である)源ちゃん先生が一枚上手だったのかなぁ。ちょっと向こうの勢いに負けたという気がしなくもない。